第1幕:沈黙が触れてきた帰り道に
宴会のざわめきがまだ耳の奥で反響している。賑やかな声と笑いの残像を引きずりながら、私の身体はどこか浮いていた。ワインの赤い余韻が舌に残り、酔いなのか、それとも違う熱なのか、足元がほんの少しだけふらついていた。
そんな私の隣に、いつの間にか彼がいた。
あなたもよく知る、あの若い医師――あなたが信頼している、清潔で真面目な、白衣の似合う青年。
私たちは、気づけば二人きりだった。送迎の車もタクシーも呼ばず、ただ夜の街を並んで歩いていた。
冷えたアスファルトにヒールの音が響くたび、私はなぜか下腹に微かな緊張を感じていた。
彼の横顔。ホテルの照明とは違う、夜の街灯がその輪郭をやわらかく照らし出していた。普段の診察室では決して見せない横顔。少しだけ頬が赤く、目元には微かな笑み。
「歩くの、速くないですか?」
そんな私の言葉に、彼は小さく笑っただけだった。
会話はそれきり。けれどその沈黙が、なぜか息苦しいほどに胸をざわつかせた。
ふと立ち止まったとき、彼が振り返る。
「もう少しだけ……話しませんか」
低く、やさしく、けれど抗えない響きだった。
頷く私の喉が、乾いているのにごくりと鳴ったのを、自分でもはっきりと感じた。
導かれるようにして、私たちはホテル街の奥へと足を踏み入れた。
入り口の自動ドアが開いた瞬間、暖かい空気と甘いフローラルの香りが鼻をかすめる。壁に並ぶ照明付きのパネル、そのひとつを彼が指差す。
部屋番号が静かに点灯し、その明かりが、私の中の“何か”を確実に壊していく音がした。
鍵を手渡されたとき、彼の指先が私の指に触れた。
その一瞬の熱が、下腹部へと直線的に落ちてきて、膣の奥がじんわりと疼いた。
廊下を歩くたびに響くヒールの音が、まるで自分の欲望の足音のように聞こえてくる。
ドアの前に立ち止まり、鍵を差し込む。カチリと音がして、静かに扉が開く。
もう、引き返せない。
その事実が、足首から背骨までをじっとりと濡らしていった。
第2幕:あなた以外の熱に、私はほどけていく
「……脱がせてもいいですか」
ドアを閉め、互いに数秒の沈黙が続いたあと、彼の声が落ちてきた。
その響きに、思わず喉が鳴る。頷くことしかできなかった。
ブラウスのボタンが、一つずつ外されていく。
そのたびに、体温が上がっていくのがわかる。ボタンではなく羞恥を外されているような感覚。
彼の指が、ゆっくりと私の胸に触れる。
その手のひらの温度と、目線の熱が、乳首を硬く立たせていく。
「すごく……綺麗です」
その言葉が、身体の奥まで響いた。
下着越しに触れる彼の指先。太腿から内ももへ、熱を帯びた線がなぞられる。
私の中が、もう濡れていることに気づいた瞬間、 目を逸らしたくなるほどの恥ずかしさがこみ上げた。
なのに、身体は後戻りできなかった。
ベッドに押し倒されたわけではない。
向かい合ってソファに座ったまま、首筋に彼の唇が触れた。
鎖骨、胸元、乳房、そして腹部へ――
キスが落ちていくたびに、息が震え、脳が蕩けていく。
そして私は、自分の意思で、脚を開いた。
最初は正常位。
彼の身体が重なり、あなたとは違う角度、違うリズムで、私の中を押し広げてくる。
あなたの形とは明らかに違うその硬さが、最奥まで届いた瞬間、 私は喉奥で震える声を押し殺した。
「奥まで……気持ちいいですか」
言葉を返す余裕なんてなかった。
次に、彼は私を後ろから優しく抱え込み、ベッドの端に私を導いた。
背中越しに感じる彼の息、汗、吐息。肌と肌が擦れ合うたび、奥の粘膜が痺れていく。
最後は、私が彼の膝に跨がり、自ら導いた。
“彼を咥えている”という現実。
私の腰が、羞恥と悦びの狭間で震えていた。
動くたびに、音が、汗が、香りが、体温が混ざり合い、 もうどこまでが自分か分からなかった。
第3幕:罪と悦びの、静かな余熱
絶頂の瞬間、彼の肩に顔を埋め、私は声を殺して震えた。
全身が、音もなく波打っていた。
終わったあと、シーツの温度と彼の胸の鼓動が、 私を“女として存在していた証”のように包んでいた。
彼の指が、私の髪を静かに撫でた。
その仕草に、私は涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
別れ際、私は言葉を交わせなかった。
ただ、彼の後ろ姿を見送りながら、自分の中で何かが決定的に変わってしまったことを知っていた。
深夜の団地。誰もいない廊下。
玄関の灯りだけが、私の帰りを無言で照らしていた。
ドアを開け、あなたの眠る寝室に入る。
いつも通りのあなたの寝顔。
私はその隣に、何もなかったように身を沈めた。
でも、脚の間にはまだ、彼の名残がじっとりと残っていた。
そして心には、決して消えない悦びの熱。
――ごめんなさい。
あなた以外のものが、私の奥に触れた夜。
私は確かに、女として悦んでしまったのです。



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