紙ショーツ越しに沈む初めてのオイルの熱
扉を押し開けた瞬間、いつもの消毒液と白檀の混じった匂いが、肺の奥に落ちてきた。
細長い待合室の奥で、奥さんが湯呑みを置く音がした。磨き込まれた床には、曇った午前の光が薄く延び、柔らかく私の足首を撫でる。
何度も来ているはずなのに、その日はやけに胸の奥がざわついていた。
施術台にうつ伏せになると、背中を覆うタオルの重みが、じんわりと温かくなっていく。ご主人の大きな掌が肩甲骨を押すたび、体の奥で眠っていたものがゆっくりと目を覚ます。
ふと、壁に貼られた一枚の紙が目に入った。
《オイルマッサージできます》
黒い文字の輪郭が、やけに鮮やかに浮かんで見えた。何年も同じ場所に通っているのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。その一行が、タオル越しに背骨をなぞられたように、私の中に熱を送り込んだ。
「オイルマッサージ…できますか?」
自分の声が、少しだけ掠れて聞こえた。
奥さんが柔らかく目を細め、すぐに答える。
「はい、できますよ。…されますか?」
その間合いの中に、微かな誘いの糸が張られているのを、身体はすぐに察した。
「じゃあ…お願いします」
言葉が口から滑り出たとき、喉の奥がひときわ熱くなった。
後日、奥さんが施術してくれることになった。
帰り道、商店街のざわめきや信号の色が、いつもよりも濃く、滲んで見えたのは、胸の奥で始まってしまった予感のせいだった。
その夜、布団に入っても、紙の上の黒い文字と奥さんの微笑が、何度もまぶたの裏に浮かんできた──そして、私の指先が、知らないはずの場所をなぞろうとした。
着替え室の扉を閉めると、わずかに湿った木の匂いが漂っていた。
籐の籠に服を畳み、手渡された紙ショーツを指で広げる。薄く透けるその質感は、頼りなさと危うさを同時に抱えていて、布よりも空気を多く含んでいるように思えた。
スカートと下着を脱ぎ、紙ショーツを腰に通すと、肌の温度が一気にむき出しになる。太ももの付け根に感じる風が、いつもより冷たく、敏感に染みた。
鏡に映る自分の姿を一瞬だけ見た。腰骨のあたりで紙がかすかに皺を作り、内腿はどこか落ち着かない色を帯びている。
「お待たせしました」
カーテンの向こうで奥さんの声がした。
施術台にうつ伏せになると、シーツ越しに伝わる微かな冷たさが背に沿って広がる。
オイルの容器が軽く振られる音──小さな雨粒が瓶の中を転がるような音──が耳に落ちた。
「少し温めていますからね」
その声と同時に、背中の中心に、やわらかく熱い滴が一つ、置かれた。
じんわりと丸く広がり、肩甲骨の片方を包み込む。すぐに指先がその熱をすくい、皮膚の上を流していく。
柑橘と樹脂が溶け合った香りが、ふっと鼻腔をくすぐった。
奥さんの手のひらは、まるで水面を撫でるような圧で背筋をなぞり、腰のくびれに沿って下りていく。その軌跡のあとに残るのは、熱とぬめり、そして奇妙なほどの空虚感──もっと、と言葉にしない欲求だけが、そこに残った。
内腿へ近づく指が、筋肉の奥を押すたびに、呼吸が勝手に細くなる。
紙ショーツの縁が軽く押し上げられ、そこに集まっていた熱が、皮膚の外へと溢れ出しそうになる。
私は知らないふりをしながら、その瞬間を待っていた。
奥さんの指先は、腰骨の上で小さく円を描いたあと、脇腹へとゆるやかに昇っていく。
タオルがそっと持ち上げられ、肋骨の曲線が空気に晒されると、肌がひときわ敏感に震えた。
「胸のまわり、少しほぐしますね」
囁くような声が、耳の奥で微かに反響する。
指先が乳房の外縁を撫で、筋肉の張りを探るふりをしながら、柔らかい部分をかすめていく。
布越しでもはっきりとわかる──形を確かめるような掌の動き。
そのたびに、心臓の鼓動が耳の裏まで届き、呼吸は胸の奥で溺れそうになる。
オイルが乳房の下へと流れ込み、肌の隙間を埋める温度が、甘くもどかしい痺れを作る。
「…すこし力を抜いて」
そう言われた瞬間、背中から腕、指先にかけての全ての筋肉が緩み、その隙間に奥さんの手が深く入り込んだ。
内腿に触れる手のひらが、今度はためらわずに紙ショーツの縁を押し下げる。
薄い紙がきゅっと引き伸ばされる音が、施術室の静けさの中でやけに大きく響いた。
指先が一線を越え、肌の奥の柔らかい熱に触れた瞬間、全身の毛穴が一斉に開いたような感覚が走る。
「…あ」
声が勝手に漏れる。
恥ずかしさに口を押さえると、奥さんが笑みを含んだ息で囁いた。
「いいの、我慢しないで。…声は、出したほうが気持ちいいですよ」
指がゆっくりと蠢き、濡れた音が小さく響く。
胸も同時に包み込まれ、親指が乳首を軽く転がすたび、腰が勝手に波打つ。
視界はタオルの影で暗く、音と温度と匂いだけが世界の全てになっていく。
呼吸は短く、熱は深く、そして理性は──もう、どこにもなかった。
指は急がなかった。
焦らすように、浅く、軽く、円を描いては離れ、また戻る。
そのたびに腰の奥が空気を求めて吸い込み、熱を吐き出す。
胸を揉む手は、乳首をつまんでは指先で解き、また撫でる。
二方向からの刺激が交互に高まり、脳の奥で形にならない衝動が渦を巻く。
「…んっ…や…」
唇から零れる声が、自分のものとは思えない。
その音に応えるように、指の動きが深くなる。
奥さんの手首がしなるたび、膣の奥にかすかな震えが走り、その震えが全身を駆け巡る。
「もっと…ここ…」
囁きと同時に、乳首が強く摘まれた。
瞬間、腰が反射的に持ち上がり、指がさらに奥へ沈む。
膣壁がぎゅっと収縮し、奥さんの指を捕まえたまま離さない。
熱が臍の下で一気に膨らみ、弾けそうになる。
「…だ…め…っ」
その言葉とは裏腹に、身体は逃げずに波を迎え入れる。
強い圧と速い動きが重なり、視界が白く滲んだ。
「…あっ…あ…あぁ…っ…」
瞬間、腰の奥がほどけて、全身が宙に浮くような感覚に包まれる。
光が弾け、鼓動と呼吸が同時に乱れ、何も掴めないまま、深く、深く沈んでいく。
しばらく、何も動けなかった。
太ももの内側を流れる温かさと、胸の上に残る奥さんの掌の重みだけが現実だった。
静かな汗が背中を伝い、シーツに吸い込まれていく音が聞こえた気がした。
「…いい子ですね」
その一言が、身体の奥にもう一度、熱を置いていった。
すでに感じてしまったなら…次は“本物”を。
しかしそこはレズ痴女エステシシャンが経営する悪徳店だった。最初の診断で怪しいと思うが、徐々に露骨になっていく。「イッたら罰金」と言われ、抵抗すれば更に激しい快楽を与えられて気づいた時には……



コメント