抱けば抱くほど癖になる最高の愛人 褐色肌の金髪美女 くるみ 30歳
【第1部】セックスレス四年目、29歳の妻が夫の同僚を迎えた夜に感じた「小さなずれ」
私の名前は美咲、29歳。
結婚して四年目になる夫の亮は32歳。地方都市の営業所に勤める、真面目で、少しだけ不器用な人だ。
結婚当初は、週末のたびに手をつないで出かけて、夜になれば抱き寄せられて、そのまま自然と肌が重なる流れが当たり前のようにあった。
でも、仕事が忙しくなり、昇進が見え始めたあたりから、亮の夜は変わった。
帰宅は遅くなり、顔を合わせれば「疲れた」「眠い」、それから、たまにあるのは月に一度くらい、酔って帰ってきた日の、どこか義務的なまぐわいだけ。
「子ども、そろそろ欲しいね」
口ではそう言いながら、彼の手は最近、私の身体をほとんど探さない。
私は洗面所の鏡に向かって、メイクを落とすたびに自分に問いかける。
──まだ、女として終わりたくない。
──私の身体は、ちゃんと“欲しい”って言ってるのに。
そんな渇きが、じわじわと胸の裏側にたまっていたある金曜日。
「今日、同僚の人を一人、家に連れてきていい?」
亮からLINEが来たのは、夕方のスーパーで買い物かごを押している時だった。
名前は「麻生」。
年齢は亮と同じ32歳。何度か話には聞いていたけれど、会うのはその夜が初めてだった。
インターホンが鳴き、玄関を開けると、スーツのネクタイをゆるめた男の人が小さく頭を下げた。
「いつも亮が、お世話になってます」
柔らかい声。笑った時に目尻に寄る小さな皺。
香水ではない、シャツに残る洗剤と、外気の冷たさを連れた匂いが、ふわりと鼻先をかすめた。
料理を用意する時間はなかったから、二人はコンビニでお酒とつまみを買ってきていた。
テーブルの上に、缶ビールとハイボール、揚げ物のパック、チーズ、スナック菓子が雑然と並ぶ。
「たまにはこういう雑なのも、いいよな」
亮が笑いながら缶を開ける。私も勧められるままに、久しぶりにアルコールを口にした。
会話は自然と、亮の職場の話になった。
麻生さんは、思っていたよりよく喋る人で、仕事中の亮のちょっとした癖を真似してみせたり、上司のモノマネで笑わせてくれたりした。
「亮くんさ、会議のとき、絶対ボールペンこうやって回すんですよ」
器用な指先が、黒いペンをくるりと回して宙に浮かせる。その指さばきに、なぜか視線が引き寄せられる。
缶が二本、三本と空になっていくころ、私の頬はほんのり熱を帯び、頭の中の境界線は少しぼやけていった。
笑う声が、どこか遠くで響いているように感じながら、私はふと気づく。
──私、こんなふうに、誰かの話をちゃんと聞いて笑ったの、いつぶりだろう。
亮は途中から眠そうに目をこすり出し、やがてソファにもたれかかったまま、静かな寝息を立て始めた。
テーブルを挟んで向かい合う私と麻生さんの間に、ふと、言葉にできない空気の層が生まれる。
テレビは消えていて、部屋には照明の柔らかい光だけ。
缶のアルミが触れ合う音も、時計の針が刻む音も、妙に大きく耳に届く。
「……亮くん、完全に落ちましたね」
そうつぶやいた麻生さんの声は、さっきより少し低く聞こえた。
その瞬間、胸の奥で、何かが小さくはじける音がした。
──このまま、ただ“いい奥さん”でいるだけ?
──それとも、ずっと押し込めていた何かを、解き放ってしまう?
酔いで少しふわつく足取りのまま、私は立ち上がった。
「ちょっと、トイレ行ってきますね」
そう言いながら、心のどこかで、別の私が小さくささやいていた。
──たぶん、もう戻れないことをしようとしてるよ。
【第2部】夫が眠る横で目覚めた身体──欲望と罪悪感の境目で交わした「もしも」のキス
洗面所の鏡に映る自分は、頬が少し赤くて、目がいつもより潤んで見えた。
冷たい水で手首を濡らしながら、私は何度も深呼吸をする。
──やめなよ。
──でも、このまま何もなかったふりをしてベッドに入ったら、また一人で自分を慰めるだけ。
──どうせ亮は、今夜も私の身体に気づかない。
胸の奥で、理性と欲望が静かにぶつかり合う。
やがて、欲望のほうが、ほんの少しだけ重く傾いた。
リビングに戻ると、亮はソファで完全に眠り込んでいた。
麻生さんは缶を片付けながら、背中越しにこちらを振り向く。
「すみません、奥さんまで付き合ってもらって」
「いえ……久しぶりに、楽しかったです」
自分の声が、いつもより少し甘く聞こえるのを、私自身がいちばんよくわかっていた。
ふらつく足取りのまま、私は亮の隣ではなく、麻生さんの隣に腰を下ろす。
さっきまでの、冗談と笑いにまぎれた距離感とは違う。
肩と肩の間にある、ほんのわずかな空白に、体温とアルコールの匂いが入り込んでくる。
「麻生さん、眠くないんですか?」
「俺ですか? ……まあ、少し酔ってはいますけど」
くすっと笑う口元。その喉仏が、小さく上下する。
気づいたら、私は自分でも驚くほど自然な動作で、彼の太もものあたりにそっと手を置いていた。
「え……?」
彼の声がわずかに揺れる。
でも、その手を振り払うことはしなかった。
「ねえ」
自分でも知らない声が、唇から零れ落ちる。
「たまに、ないですか。……間違えたふりをしたくなる夜」
麻生さんは、少しの間黙った。
時計の針が二つ進むほどの沈黙のあとで、低い声がこぼれる。
「……奥さんこそ、眠くないんですか」
問いの形をした、答え。
拒絶ではなく、確認だけの言葉だった。
私は、ゆっくりと彼のほうに身体を向ける。
亮の寝息が、すぐ近くから聞こえる。規則正しく、何も知らない人間の無防備なリズム。
「ねえ……もし、ここに亮がいなかったら」
私は息を飲み込みながら、彼の目を見つめる。
「麻生さん、どうしてました?」
その瞬間、彼の瞳の奥で、何かが決壊したような気配がした。
伸びてきた手が、迷いながらも、そっと私の頬に触れる。
指先は温かくて、少し震えていた。
唇が触れるか触れないか、そのぎりぎりのところで、私はつぶやく。
「……私、ずっと誰かに触れてほしかったんです」
言葉より先に、唇が重なった。
柔らかな圧力と、アルコールの混じった息遣い。
それだけなのに、身体の奥の、長く閉ざしていた扉が音を立てて開いていくのがわかる。
亮の眠るソファから、ほんの一歩、二歩だけ離れた場所。
カーテンの向こうの街灯の明かりが、部屋に淡い影を落としている。
「……ここじゃ、だめだ」
麻生さんが、かすれた声でそう言った。
私は、息を整えながら小さく笑う。
「じゃあ……電気、消しますね」
リビングのスイッチを落とすと、部屋は一瞬で闇に沈んだ。
亮の寝息だけが、遠くから聞こえる別の世界みたいに感じられる。
その暗闇のなかで、私たちは足音を忍ばせながら、寝室のドアに向かって歩き出した。
──この先、何があったのか。
細部を言葉にしてしまったら、きっと私は戻れなくなる。
ただひとつ、確かに言えるのは、あの夜、私の中の「妻」という輪郭が、いちど壊れてしまったということだけだ。
【第3部】夫には言えない「秘密の温度」──一度きりにできなかった私の心と身体の落ち方
翌朝、目を覚ますと、亮の気配はすでになく、枕元には短いメモが置かれていた。
《今日は早出。昨夜はごめん。麻生、ちゃんと送っていってくれた?》
その字を見た瞬間、胸の奥がじわりと痛んだ。
昨夜の記憶は、ところどころ霞がかかっている。
柔らかな重み、シーツの皺、指先に残る体温。
あえて思い出そうとしなければ、曖昧な夢の断片のように扱うこともできたはずだ。
けれど、スマホの画面に届いた一件のメッセージが、その逃げ道をあっさり塞いだ。
《昨日はごめんなさい。でも、ありがとう。……また会いたいと思ってしまっている自分がいます》
差出人は、麻生。
心臓が跳ねた。
「また」という二文字が、指先に焼き付く。
いい奥さんなら、ここで線を引いて終わらせるのだろう。
《昨日のことは忘れてください》
そう返せば、たぶん彼も、それ以上は踏み込んでこなかったはずだ。
それでも私は、しばらく画面を見つめたあと、震える指で別の言葉を打ち込んだ。
《私も……同じです》
それが、「一度きりの過ち」ではなくなる瞬間だった。
それから、亮が出張の日や、遅くなるとわかっている夜、私は何度か「友だちとご飯に行ってくる」と嘘をついた。
待ち合わせは、駅から一つ離れた小さなビジネスホテル。
フロントを通るときの、背中に刺さるような視線。
エレベーターの鏡に映る自分は、結婚指輪をしたまま、どこか知らない女の顔をしていた。
部屋のドアが閉まるたびに、胸の奥で罪悪感と欲望が同時にざわめき立つ。
「やめたいなら、いつでも言ってください」
麻生さんは、会うたびにそう言った。
それは逃げ道を与えてくれているようでいて、同時に、私の選択の責任を私自身に突きつける言葉でもあった。
「……ずるいですね、それ」
そう返しながら、私はその逃げ道に背を向け続けた。
彼といるときだけ、私は誰かに強く「欲しい」と思われている実感を取り戻せたからだ。
亮との生活は、表面上何も変わらない。
食卓には、いつも通りにご飯が並び、週末には一緒にスーパーへ行く。
ただひとつ変わったのは、亮がたまに、眠そうな顔で私の肩に手を回してきても、私はそっとそれをかわすようになったことだ。
「ごめん、ちょっと疲れてて」
嘘ではなかった。
心も身体も、別の熱で満たされていて、そこに彼の温度を入れる余白がうまく見つけられなかった。
──最近、私は誰の妻なんだろう。
そう自分に問いかける夜が増えた。
麻生さんは、結婚願望がないらしい。
「このままでも、俺はいいんですよ」
そう言われるたびに、安心と不安が同時に押し寄せる。
終わりを決めるのは、いつでも私自身だということを、あらためて突きつけられるから。
あの夜、亮がソファで眠り続けていたあいだに、私の中で何かは確かに変わってしまった。
誰かの「奥さん」であると同時に、一人の女として求められる感覚。
その二つのあいだで揺れ続ける自分に、ときどき吐き気がするほど嫌気がさしながらも、完全には手放せない甘さが、まだ唇のどこかに残っている。
もし、あの夜、缶ビールを一本少なくしていたら。
もし、亮が眠らずに、最後まで私たちの会話に混ざっていたら。
もし──。
そんな「もし」をいくつも積み上げても、事実は変わらない。
私は、あの夜、境界線を自分で跨いだのだ。
誰に強要されたわけでもなく、自分で戸を開けて、一歩、向こう側に足を踏み出した。
その足跡は、今も消えずに、私の心の一番暗いところで静かに光っている。
まとめ──「いい奥さん」でいたかった私が、夫に言えない欲望とどう共存しているか
この話は、誰かに自慢するような武勇伝でもなければ、褒められるような恋の物語でもない。
セックスレスに近づきつつある日常のなかで、「女としての自分」をどう扱えばいいのかわからなくなった一人の妻が、その答えを外側に求めてしまった記録だ。
本当なら、夫と向き合うことが、いちばん正しい解決だったのかもしれない。
欲望も不安も、孤独も、ちゃんとテーブルに並べて話し合うこと。
でも、現実の人間はそんなに強くない。
私もまた、弱さのままに手を伸ばしてしまった側の人間だ。
あの夜から、私は「妻」としての自分と、「誰かに求められる女」としての自分を、ふたつの引き出しに分けて生きるようになった。
どちらか一方を完全に捨ててしまう勇気も、どちらも守り抜く覚悟も、まだ持てていない。
ただひとつ言えるのは──
欲望を押し殺したまま、何も感じないふりをして生きることも、
欲望のままにすべてを壊してしまうことも、どちらも「正解」ではないのだと思う。
もし、いまこれを読んでいる誰かが、私と同じように、
「妻」と「女」のあいだで揺れているのだとしたら。
どうか、私のように後戻りのきかない一歩を踏み出す前に、一度だけ深く息を吸って、自分の心の声を聞いてほしい。
あの夜、酔った私には、それができなかった。
だからこそ今、冷静な頭で振り返りながら、私は静かに自分に言い聞かせている。
──誰かに触れてほしいと願う前に、
自分の心に、ちゃんと触れてあげられる人間になりたかった、と。




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