【4K】初体験は人妻と… 最高に羨ましい筆下ろし 小春まり
【第1部】失恋の夜に始まった大人の関係──バドミントンサークルと二人きりのホテル
45歳になった今も、ときどきふっと、ラケットを握ったときの合成樹脂の匂いを思い出すことがあります。
あれは、まだ私が26歳で、神奈川の小さな会社で事務をしていた頃。仕事帰りに通っていたバドミントンサークルが、当時の私の世界の半分でした。
サークルのムードメーカーのような存在だった彼──仮に「ユウタ」と呼びます。
いつも冗談を飛ばしてはみんなを笑わせて、ダブルスの味方がミスしても絶対に責めない人でした。
私は最初、ただ「一緒にいると楽しい人だな」と思っていただけなのに、いつの間にか、
バドミントンをしに行くのか、彼の顔を見に行くのか、自分でも分からなくなっていました。
その頃、もう一人、私の話をよく聞いてくれる人がいました。
ユウタより3歳年上で、私より4歳上の男性──ここでは「タカシさん」とします。
彼は落ち着いていて、試合の後にコートの隅でフォームを教えてくれたり、仕事の愚痴を聞いてくれたり、「お兄さん」みたいな存在でした。
ある日、練習帰りのファミレス。
私はミルクティーのカップを両手で包み込みながら、とうとう耐えられなくなって、タカシさんに打ち明けました。
「私、ユウタのことが好きみたいで……どうしたらいいか分からなくて」
彼は「やっと言ったな」とでも言うように、少しだけ口元をゆるめました。
「アイツ、昔からああいう感じだからなぁ。悪いヤツじゃないけど、鈍いんだよ」
話しているうちに、私は初めて知りました。
タカシさんとユウタは、遠い親戚のような関係で、子どもの頃から顔を知っているのだと。
「アイツなら、素直に言われたら、ちゃんと向き合うと思うぞ」
そんな言葉に背中を押されて、私は告白を決めました。
そして、ある練習終わり。
体育館の裏口で、私は震える声で気持ちを伝えました。
汗のにおいと、シャトルの羽の匂いがまだ空気に残っている時間帯でした。
「……ごめん。俺、もっと胸の大きい子が好きなんだよね。悪い」
笑いながら言われた、その一言。
冗談めかしているのに、冗談には聞こえませんでした。
胸のあたりがきゅっと冷たくなり、足元の床だけがやけに鮮明に見えました。
その夜、私は一人で帰れずに、タカシさんに連絡をしました。
駅前の小さな居酒屋に呼び出され、涙でぐしゃぐしゃの顔のままビールを飲んでいると、彼は呆れたように、それでも優しい声で言いました。
「もったいないなぁ、アイツ。
俺は、このくらいの胸が一番可愛いと思うけどな」
不意に、乱暴なくらいストレートな言葉でした。
酔いと涙で曖昧になっていた輪郭が、そこで急にくっきりとします。
「そんなこと……言わないでください……忘れられなくなるじゃないですか」
気づいたら、私は口走っていました。
「そんなに、この胸がいいって言うなら……私を抱いてください。
あの人のこと、忘れたいんです」
自分で言った言葉に、自分が一番驚いていました。
空気が一瞬だけ止まり、隣の席の笑い声がやけに遠く聞こえます。
タカシさんは長く息を吐き、グラスをテーブルに置くと、まっすぐ私を見つめました。
「……俺がお前を抱くのは、いいよ。
でもな、俺にはもう好きな女がいる。それでもいいなら、ここから先に行く」
胸の奥で、なにかが音を立てて崩れる感覚がしました。
「都合のいい女」になるのだろうことは分かっていたのに、私は頷いていました。
「いいです。それでもいいから、今だけ……誰かにちゃんと抱きしめられたい」
その一言で、私たちは駅から少し離れた、古いビジネスホテルに向かいました。
自動ドアの前で一瞬だけ立ち止まり、夜風に背中を押されるようにして、私は中へ足を踏み入れました。
【第2部】抱きしめられてほどけた心と身体──優しい腕の中で知った「女としての自分」
部屋の鍵が閉まる音が、やけに大きく響きました。
六畳ほどの部屋に、小さなベッドと、壁に掛かった古い鏡。
真っ白なシーツが、やけに眩しく見えました。
私が立ち尽くしていると、背後からそっと、タカシさんの腕がまわってきました。
外回りの仕事で日焼けした腕は、少し熱を帯びていて、シャツ越しでもわかるほどでした。
「今日は、泣きすぎだぞ」
そう言って、彼は私の額に軽く唇を押し当てました。
それは突然で、でも乱暴ではなくて、
「女として扱われた」という実感が、じわりと胸に広がるキスでした。
私はそこで、堰を切ったように涙が溢れました。
「ごめんなさい……私、変ですよね」
「変じゃない。好きな男にあんなこと言われたら、誰だって傷つく」
言葉よりも、背中をゆっくり撫でる手つきのほうが雄弁でした。
肩口に落ちる彼の呼吸が、少しずつ速くなっていくのが分かります。
ベッドの端に腰掛けると、マットレスが沈み、二人の距離が自然と近くなりました。
彼の胸板に額を預けると、鼓動が、私の耳の奥にリズムを刻みます。
その音と呼吸の重なりに合わせるように、心の中のざわめきが静まっていきました。
「……ユウタのこと、忘れられるかな」
自分でも子どもっぽい質問だと思いながら、口にしていました。
彼は少しだけ考えてから、苦笑いまじりに答えました。
「忘れなくていいよ。
ただ、今日のことを思い出したときに、お前の顔が少しでも楽になるなら、それでいい」
その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられました。
私は、そんな優しさに甘えるように、彼のシャツの前をぎこちなく掴みました。
明かりを落とした部屋の中で、輪郭だけが浮かび上がります。
指が触れるたびに、シャツの布がずれて、日焼けした肌が覗きました。
その色の差が、なぜかとても愛おしく感じられました。
唇が重なる瞬間、世界がふっと静かになりました。
そこから先は、言葉よりも、息づかいと体温と、シーツの擦れる音がすべてでした。
彼の腕の中で、私は何度も、自分の輪郭が溶けていくような感覚を味わいました。
身体が波のように揺れ、胸の奥から熱がせり上がり、
「女である自分」を嫌いになりかけていた心が、もう一度抱き起こされるような夜でした。
どこかで、ユウタの言葉がまだ刺さっていました。
でも、その棘の周りを、タカシさんの体温がやわらかく包んでいくようで、
気づいたときには、私は涙と安堵が入り混じった息を何度も洩らしていました。
「……こんなきれいな身体してるのに、アイツは本当にもったいないよな」
彼がふと零したそのひと言は、冗談にも慰めにも聞こえました。
でも、私の中では、そのどちらでもよくて、
ただ「そう思ってくれる人がいる」という事実だけが、震えるほど嬉しかったのです。
都会のネオンがカーテン越しにぼんやりと差し込み、
私たちの影を、ひとつに溶かしていました。
【第3部】セフレと呼んだ7年間──結婚と別れ、そして45歳の私がまだ覚えていること
その夜を境に、私とタカシさんの関係は、「ただのサークル仲間」ではなくなりました。
表向きは今まで通り、みんなの前では冗談を言い合う先輩と後輩。
でも、練習が終わってから、駅前で目が合うと、どちらともなく「少し、話していかない?」と笑うようになりました。
仕事でうまくいかなかった日、ユウタが新しい彼女と来ているのを見てしまった日、
私は何度も、タカシさんの腕の中に逃げこみました。
彼には「好きな女」がいると聞かされていたのに、
その人の話はほとんど聞くことがありませんでした。
私も、深くは聞きませんでした。
聞いてしまえば、自分の立ち位置に名前がついてしまう気がしたからです。
あるとき、ホテルのベッドで、彼が不意に言いました。
「俺たちって、世間的には“セフレ”っていうのかな」
その言葉に、胸の奥がちくりとしました。
でも私は、あえて軽く笑って返しました。
「じゃあ、私は“ちゃんと抱いてもらってるセフレ”でいいです」
彼は噴き出して、「お前、そういうところだぞ」と言いながら、
私の髪をくしゃりと撫でました。
そこには、名前のつかない優しさと、線を越えない距離感と、
それでも確かに存在する「欲しいと思ってくれる視線」がありました。
26歳から33歳になるまでの7年間。
私は仕事を変え、転職し、忙しい時期には数ヶ月会わないこともありました。
それでも、ふとした拍子に連絡を取れば、
「久しぶり、元気にしてる?」という軽いメッセージのあとに、
いつものホテルの近くの喫茶店で待ち合わせをする流れが、自然に立ち上がりました。
33歳のとき、私は今の夫と出会い、結婚を決めました。
初めてタカシさんにその話をした日のことを、今でも鮮明に覚えています。
「結婚、することになりました」
喫茶店の窓際でそう告げると、彼はしばらく黙ってコーヒーを見つめていました。
そして、いつもの調子で、少しだけ声を明るくして言いました。
「そうか。
……やっと、誰かがお前のこと独り占めするのか。おめでとう」
その「おめでとう」が、少しだけ掠れていたのを、私は聞き逃しませんでした。
その日のホテルは、いつもより静かで、
言葉よりも、抱きしめる腕の強さが、すべてを物語っていました。
「これで最後だな」
そう呟いた彼の声に、
私の中で、7年間分の夜が一斉に走馬灯のように駆け抜けました。
それでも私は、「はい」とは言えず、小さく頷くだけでした。
やがて私は妻になり、母になり、
大谷翔平の活躍をテレビで息子たちと一緒に応援するような、
穏やかで賑やかな毎日を手に入れました。
けれど、ときどきふいに、
洗濯物を干している手が止まる瞬間があります。
柔軟剤の香りや、夕方の西日を受けた自分の影を見たとき、
あの夜、古いホテルの部屋で、自分の身体を
「きれいだ」と言ってくれた声が蘇ってくるのです。
もう二度と会うことはないでしょう。
彼が今どこで、どんなふうに生きているのかも知りません。
それでも、26歳の私の心と身体に、
確かに「女としての自分を取り戻させてくれた人」として、
彼は今も静かに息づいています。
【まとめ】大人になった今だから分かる──セフレと呼んだ相手が教えてくれた「自分を嫌いにならない」こと
45歳の専業主婦になり、夫と息子たちと賑やかな日常を送りながら、
ふいに26歳の夜を思い出す自分を、
「不謹慎だ」と責めたくなる瞬間もあります。
けれど同時に、あの7年間がなかったら、
私はきっと、自分の身体を、そして「女である自分」を、
もっと長いあいだ嫌いなままだったかもしれません。
好きな人に「胸が小さい」と笑われた傷は、
あのとき確かに私の中に深く刺さりました。
でも、そのすぐ後に現れた「もったいないな、俺はこのくらいの胸が好きだけどな」という言葉と、
何度も抱き寄せてくれた腕が、その棘の周りに新しい皮膚を育ててくれました。
セフレ──
世間から見れば、あまり褒められた関係ではないのかもしれません。
それでも、
**「誰かに求められた記憶」**は、ときに、その人の自己肯定感の最後の砦になります。
今、台所でまな板を叩くリズムと、
リビングから聞こえる野球中継の歓声に囲まれながら、
私はあの頃の自分に、そっと言ってあげたいのです。
「あなたはちゃんと、誰かに抱きしめられるに値する人だったよ。
そして今も、その価値は何ひとつ失われていないよ」と。
過去の秘密の関係は、もう二度と戻らないし、戻してはいけないものです。
でも、その記憶があるからこそ、
私は今、夫に向ける笑顔や、息子たちの前で見せる背中に、
少しだけ誇りを持てているのかもしれません。
あの夜、古いホテルで交わした温度は、
「若さゆえの過ち」ではなく、
**「若さゆえに必死に自分を守ろうとしたひとつの選択」**だったのだと、
ようやく思えるようになりました。
そして今、こうして文字にしてみて、
私はもう一度、あの頃の自分を、静かに抱きしめ直しているのです。




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