夫が海外工場の長期駐在に出てから、十ヶ月が過ぎていた。年末まで帰らないと分かっている家で、私は夜になると一人でグラスを傾けることが増えていた。息子は中学二年。週に二回、大学一年の伊藤くんが数学を教えに来る。二十歳の青年は、最初は「今日の範囲は大丈夫そうです」とだけ言って帰る子だった。それがいつからか、授業のあとに少し長く残るようになった。
その夜も同じだった。模試の話をしながらノートを閉じ、息子が「お風呂入ってくる」と小さく言って二階へ上がっていく。湯の音が止まり、部屋のドアが閉まる。リビングに残ったのは、消しゴムの粉と、少し冷めた麦茶の匂いだけだった。
私はキッチンからグラスを二つ出した。冷蔵庫の奥に残っていた白ワインを、いつもより多めに注ぐ。一人で飲む夜が多すぎて、もう味も忘れていた。
「少し飲む? 今日は遅くなるし」
伊藤くんは一瞬迷ってから、受け取った。まだ若い顔に、アルコールの匂いが乗る。最初は成績の話だった。計算の癖、次の範囲、宿題の出し方。会話が途切れるたびに、グラスの中身が減っていく。
「彼女、いるの?」
私が聞いて、伊藤くんは少し遅れて頷いた。大学の同じ学部で、入学すぐにつきあったらしい。サークルの新歓で隣に座ったのがきっかけで、三回目のデートで初めて部屋に行った、と彼は言った。声が少し緩んでいた。ワインが回ってきたのだと思う。
「最初は全然うまくいかなくて」
彼はグラスを見つめながら続けた。彼女はキスも浅いし、下もほとんど触らせてくれない。フェラは下手で、歯が当たるし、途中でやめちゃう。自分だけが急いで終わってしまう感じが、ずっと残っている、と。言葉は遠慮がちだったが、酔った目は正直だった。
私は自分のグラスを傾けた。胸の奥が、熱くなった。十ヶ月、誰にも触れられていない身体が、若い男の未消化な話を聞いて、勝手に反応していた。ためらいと、好奇心と、空白を埋めたい気持ちが、同じ場所で混ざった。
「……やってあげるよ」
自分でも、こんなに低い声が出るとは思わなかった。伊藤くんが顔を上げる。私はソファの端から立ち上がり、彼の膝の前に跪いた。ベルトに指をかける手が、わずかに震えていた。酒のせいだけではない。母親である自分が、息子の家庭教師の前で膝をついている事実が、身体の内側を熱くしていた。
ファスナーを下ろす音が、静かなリビングに小さく響く。熱いものが顔の前に出てくる。先端はすでに濡れていて、若い男特有の匂いが鼻先をかすめた。私は一度だけ彼の目を見てから、唇を開いた。
最初は浅く含んだ。舌で裏側をなぞり、先だけを吸う。歯を立てないように、ゆっくり形を確かめる。唾液が増えて、音が変わる。びちゃ、と小さな水音がした。伊藤くんの手が、無意識に私の髪に触れた。
「……っ、お母さん……」
声が裏返る。私は深く沈めた。喉の奥まで入れると、食道が蠕動するように鳴る。根元まで咥えたまま、舌を動かす。十ヶ月ぶりに男を口に含んでいる感覚が、酔った頭の中で鮮明だった。粘度と熱と、吸い付くような感触だけが残る。派手さはない。ただ、女の口が男を受け止める作業だけが、空白を埋めていった。
口を離す。びちゅっ、と抜け、唾液の糸がランプの光にきらめいてから太ももに落ちる。私は指で拭いながら、小さく笑った。
「彼女より、上手でしょ」
その声が、あまりに柔らかくて、自分でも驚いた。伊藤くんは答えず、私の腕を引いた。ソファに身を預けた彼の上に、スカートを捲ったまま跨る。下着を横にずらし、ゆっくり沈む。入り口が拡がり、熱が奥まで入ってくる感触を、一つひとつ確かめた。
「ん、っあ……入って、きた……」
右手で肩を押さえ、左手は自分の太ももに。腰を小さく、小刻みに揺らし始める。粘膜と粘膜が擦れ合う、湿度のある音。奥まで座り込むと、当たる場所がはっきりする。自分の一番弱いところが、若い男の先に正確に当たっていた。
「奥……あたってる……だめ、これ……」
首を反らせ、吐息を漏らす。揺れる胸。滲む汗。ワインの匂いと、二人の体温が混ざる。腰は、自分の気持ちいい場所だけを正確に擦っていた。十ヶ月一人でいた身体が、こんなに簡単に濡れることに、恥ずかしさと安堵が同時にきた。
「私、こんなに濡れるの……十ヶ月も一人でいたのに……」
背筋を反らせたまま、腰をぐるりと一周させる。ぐちゅっ、という音が空気に浮く。伊藤くんの手が私の腰を掴み、下から小さく跳ねる。
「好き……こういうの。あなたに、奥まで入れられてるの……」
声が裏返る。何度も突き上げられ、奥の音が深くなる。指がソファを掴み、爪の先から汗が垂れる。
「っんぁっ、だめ……そこ、そこっ……!」
一度深く引かれ、限界まで沈められる。声は出なかった。ただ震えと痙攣と、蜜のしずくだけが、女の身体を通して伝わってきた。熱いものが奥で広がる感触を、私は逃さず受け止めた。そして、すべてが静まり返った夜のリビングに戻っていった。
グラスの底に残ったワインが、少し濁っていた。二階から聞こえる息子の寝息だけが、この家の正しい音のように思えた。それ以外の熱は、全部、私が選んだものだった。すでに感じてしまったのなら——次は、本物を。夫が帰ってくるまでの空白を、私はもう、一人では埋められない。
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