疲れが骨まで染みていた。 三十六歳になった私は、大阪の支店で数字と向き合う毎日を送りながら、夫の単身赴任が三年目に入っていた。電話の向こうの声は穏やかだったが、肌に触れる温度はもう思い出せなかった。夜、布団の中で自分の胸に手を当てると、そこに残っているのは空虚だけだった。触れられたい。女として、芯までほどかれたい。その気持ちを、疲れのせいだと自分に言い聞かせていた。
その日、終電まであと少しという時間に、私は駅から一本入った細い路地へ足を向けた。小さな看板に「女性専用・完全個室」とだけ書かれていた。予約はしていない。それでもガラス戸を押す手が、止まらなかった。
カウンターに立っていたのは、二十代後半くらいの女性だった。長い黒髪をひとつにまとめ、白いチュニックの襟元がきれいだった。目元が穏やかで、声は低く落ち着いていた。 「今、ちょうど空いています。オイルの深いコースでよければ」 特別、という言葉ではなかった。ただ、その声の温度が胸の奥をかすかに揺らした。彼女は「陽菜(ひな)」と名乗った。
個室は薄暗く、アロマの香りが控えめに漂っていた。渡されたバスタオルを受け取りながら、私は彼女の手首の細さと、指の節のしっかりした形を見てしまった。あんな手が、私のどこをほどくのだろう。考えるより先に、身体が熱を帯びていた。
うつ伏せになった背中へ、ひとしずくのオイルが落ちた。 「冷たくないですか」 静かな確認のあと、指が滑り出した。温かく、滑らかで、それでいて逃がさない。首筋から肩甲骨、背中の溝、腰のくびれ。オイルが増えるたびに、昼間の緊張が溶けていった。 「ここ、かなり固まっていますね」 親指が腰骨のすぐ下へ沈んだ瞬間、吐息が漏れた。いやらしい動きではなかった。なのに下腹がじんわりと熱を持った。
脚へ降りてきた手が、太ももの裏をゆっくりなぞる。軌道は中心へ近づいていく。恥ずかしい。やめてほしくない。その狭間で目を閉じた私は、ただ預けた。臀部を静かに開かれ、指がそこへ滑り込む。肛門のまわりを円を描くように撫でられ、オイルが一滴、音を立てて落ちた。 「力、抜いてください」 囁かれた瞬間、無防備に脚が開いた。ゾクリと背筋を電流が走る。鍵のように差し込まれた指先が、まだ知らなかった感覚の扉を、そっと開けてしまった。すでに熱を帯びたそこから、湿った音が立ち上がる。自分でも驚くほどに、濡れていた。 「反応、していますね」 陽菜の声が、甘く湿っていた。
仰向けに寝がえされると、胸元へオイルが広がる。輪郭を丁寧になぞり、乳首のまわりを円で撫でる。 「あ……ん……」 漏れた声に自分が驚いた。誰の手でもない、彼女の手だから、こんなにも感じてしまう。 「もっと奥まで、触れてもいいですか」 脚の間へ降りてきた指が、触れるか触れないかの距離を保ったあと、ぬるりと谷間をすくい上げた。 「きれい。……ここまでほどけているなんて」 柔らかな声が奥まで届く。蜜の中をゆっくり撫でられ、中心の蕾をくすぐられた瞬間、大きくのけ反った。 「い、だめ……ああっ……」 指先が一度、私を壊した。息ができないほどの快楽が胸の奥から全身を駆け抜け、それでも手は止まらない。波のように揺さぶられながら、自分の中の女が完全に解けていくのを感じていた。
バスローブをまとった陽菜が、静かに尋ねた。 「また、来てくださいますか」 私は答えの代わりに、その手を取った。温かく、柔らかく、確かな温度。今も肌の記憶に残っている。
帰り道、誰にも言えない余韻のなかで、私は初めて知った。“女に触れられることでしか開かない場所”が、確かに私の中にあったのだと。
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