【第1幕】——あの子たちの視線が、私の肌をなぞるたび、呼吸が変わっていく。
温泉旅館のロビーで、私はひとり、言い訳のようにコーヒー牛乳を握っていた。
胸元までしっかり浴衣を合わせても、隠しきれないHカップの張り出しが、視線を集めてしまっているのがわかる。
あの子たち——バイト先の男子大学生たちの視線は、優しさと熱がまざっていて、
どこか、私を“女”として見ているような……錯覚を誘った。
「リナさん、先行ってるね」
ひとりが笑いかけてきた。整った顔に幼さが残っていて、けれど、言い終わった瞬間の唇の湿り気に、
私は少し、心臓を強く打たれていた。
——どうして、私は来てしまったんだろう。
高校生の息子を持つ、37歳の主婦。
夫は最近、単身赴任で家にいない。
時間があるからと始めたバイト先で、なぜか若い子たちに妙に懐かれて。
「リナさんが来たら楽しいのに」「絶対、温泉似合う」
そんな言葉に、最初は笑ってごまかしていたのに、気づけば本当に予定を合わせていた。
旅館に着くまでの車内、助手席に座る私にみんなの視線が集中していた。
前屈みになったとき、浴衣の合わせがずれて谷間が覗いた瞬間、誰かが小さく息を呑んだ気がして。
その音が、耳から離れなかった。
「……ねえリナさん、一緒にお風呂、行こ?」
その声は、まっすぐだった。
悪気も下心も、ないようでいて……なのにどうして、こんなにドキドキするのだろう。
露天風呂。
岩に囲まれたその湯舟に、私は一人で身を沈めた。
夜風が肩を撫でるたび、湯に沈んだ脚の奥が、じん、と疼く。
湯気のむこう、足音がふたつ。
「……リナさん、ここにいたんだ」
振り返ると、彼がいた。
一番、私を見つめてくる子。
まるで、初めて女を知ったみたいな目をして——私を見つめていた。
その視線が、湯よりも熱く、私の肌を焦がしていった。
【第2幕】——浴衣の奥、まだ触れられていない場所が、彼の視線だけで濡れていく。
「湯、熱くないですか?」
隣に並んで湯に浸かった彼の声が、耳に近すぎて、思わず頷くだけになった。
湯気の向こうに浮かぶ若い喉仏。汗とも湯気ともつかない水滴が、うなじを伝っていく。
見てはいけない。けれど、目が逸らせなかった。
「……リナさん、今日、すごく綺麗」
その一言が、浴衣の中の私を濡らしていく。
視線だけで、胸の先がきゅっと疼く感覚。
まだ触れられていないのに、身体の奥が、勝手に期待し始めていた。
——こんなに、触れられたいと思うなんて。
湯から上がって、部屋へ戻る。
廊下を歩く間も、足音が近すぎて、肩が触れそうで、逃げられなかった。
部屋に入った瞬間、後ろからそっと、手が伸びてきた。
浴衣の帯をほどくこともなく、彼の手が私の背中に添えられる。
「……ダメよ、私、あなたのお母さんと変わらないのよ……」
言い訳のような声が、震えていた。
それでも彼は、私の肩をゆっくり抱き寄せた。
額が重なり、吐息が触れる距離。
「それでも……俺、リナさんのこと、ずっと……」
——キスは、震えていた。
でも舌が触れた瞬間、身体の底から波が立った。
唇の柔らかさより、舌先の熱が深くて、私は背筋を反らしてしまった。
「浴衣、……いいの?」
そう囁かれ、私は頷いていた。
静かに結びがほどかれ、羽織が肩を滑り落ちる。
下着のない胸が露わになり、彼の目が一瞬だけ見開いた。
「……こんな、柔らかいなんて……」
手のひらが、Hカップの乳房を包み込む。
親指で先端を擦られるたび、腰が引けそうになった。
正常位。
布団に倒れた私に、彼が覆いかぶさる。
脚を開かされ、割れ目に触れられる指先。
触れた瞬間、ぬるりと濡れていた自分に驚く。
恥ずかしいほど、とろとろに溢れていて、彼の指が奥まで滑っていった。
「……奥、感じるんだ」
その声が、私の中を震わせる。
ゆっくり挿入される瞬間、快楽より先に、罪悪感が込み上げた。
でも、繋がってしまえば、もう——戻れなかった。
「リナさん、綺麗……すごく、奥で感じてる……」
ひとつになったまま、動きを止めて見つめ合う。
そのあと、脚を抱え上げられて、彼の腰が深く沈んでくる。
脚上げ正常位。
突き上げのたびに、奥が押されて甘い声が漏れる。
身体が熱くなりすぎて、私は自分から腰を揺らしていた。
「やだ……止まらない……っ、もっと……」
そう口にしている自分に、驚いた。
でも、もう、止まらなかった。
目を見つめながら、彼の奥で揺れる感覚が、何よりも甘かった。
【第3幕】——終わったはずなのに、奥が、まだ彼を待っている。
終わったあと、彼は私の肩に額を預けたまま、しばらく呼吸を整えていた。
布団の上、私の脚は彼の腰に絡まったまま。
抜けてしまえば、すべてが夢のように消えてしまいそうで、私は何も言えなかった。
「リナさん……俺、ほんとに……ずっと、したかったんだ」
その言葉に、胸の奥がきゅっと縮んだ。
最初は、ただ年上として、優しくしてくれてるだけだと思ってた。
でも、彼の視線の熱は、本物だった。
そして私は、それに気づいていながら、気づかないふりをしていたのかもしれない。
後背位。
二度目は、私の背中にそっとキスを落とすところから始まった。
後ろからそっと抱き寄せられ、四つん這いになるのが恥ずかしくて、
俯いたまま布団を握りしめる。
「……きれい。背中、腰、全部」
彼の手が、私の腰を包み、ゆっくりと突き入れてくる。
奥が満ちていく感覚に、喉がかすれる。
「ん……ふっ……あっ……」
浅く、深く、揺さぶられるたび、息が漏れる。
下腹の奥が、さっきよりももっと鋭く疼いて、
突かれるたび、そこが震えて、快感に溶けていく。
——こんな抱かれ方、初めて。
「主婦」じゃない、「女」として求められている。
若い彼の腰使いが、不器用なほど誠実で、
そのひと突きひと突きが、私のなかの“足りなさ”を埋めてくる。
「リナさん……中、またきゅって……」
恥ずかしくて、枕に顔をうずめた。
でも、逃げられなかった。
身体はもう、ずっと前から彼に許していた。
そして——
絶頂は、静かに、深く。
小さな痙攣から始まって、
そのうねりが、腰から背中、脚の先まで波紋のように広がっていく。
「あ……だめっ……来ちゃう……!」
濡れた音と、肌が打ち合う音。
最後に深く押し込まれ、彼の精があたたかく奥に注がれた瞬間、
私は、はっきりと声を上げていた。
全身が、心からほどけていくような快感。
泣きそうになるほどの、静かな絶頂だった。
——私はいま、許されている気がした。
朝。
カーテンの隙間から差し込む光に、目を細めた。
まだ隣にいる彼の、寝息と体温。
脚のあいだから、ひと晩かけて流れた彼の名残が、太腿をつたって、しっとりと冷えていた。
罪悪感はある。
けれど、それ以上に、身体の奥が、彼を忘れられなかった。
「また、旅行……したいね」
彼の寝言のような呟きに、私は静かに頷いた。
この一夜が、本当だったことを、確かめるように。
そして——
「……もう一回だけ、する?」
そう囁いた自分の声が、
いちばん濡れていた。



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