【第1幕:ゴミ捨て場で心が揺れた日】
視線のすれ違いに火が灯る、昼下がりの社宅の一角で
あの春の日、私はいつも通り、社宅のゴミ捨て場にゴミを持って行っただけだった。
軽く汗ばむ陽気に誘われて、何気なく着たのは薄手の白いシャツと、膝上のショートパンツ。
誰にも会わないだろうという気の緩みが、ボタンのひとつを外させていた。
「……りんちゃん?」
聞き覚えのある声に振り返った瞬間、時が止まった。
そこに立っていたのは、かつて私の結婚式でスピーチまでしてくれた、夫の同僚の彼。
Tシャツにスウェットというラフな格好が、妙に男らしく見えたのは、彼が“他人”ではないからだろうか。
彼の視線が、私のシャツの隙間に落ちて、それに気づいた私は――なぜか、ほんの少しだけ身をかがめた。
理性が止める前に、身体が勝手に、ゆっくりと反応していた。
「ひさしぶりですね、ここに住んでるんですか?」
笑顔を返しながら、私は胸元に手を当て、そっと隠したふりをした。
胸の奥では、なぜか静かな疼きが始まっていた。
【第2幕:昼下がりのコーヒーが誘った温度】
誘い合う沈黙と、背徳の温もりがソファに染みていく午後
それから何度か、社宅の通路ですれ違うたび、私たちは他愛のない会話を交わすようになった。
「奥さん、代休なんですね」
「ええ、主人が忙しくて、一人時間が増えてしまって…」
それは昼間にしか生まれない、透明で曖昧な関係だった。
そして、あの日――
彼が「コーヒーでも飲みませんか」と言ったとき、私はほんの数秒、迷ったふりをして頷いた。
自宅のソファで並んで座る私たちは、距離を保ちながら、何度も視線をすれ違わせた。
そして、話が途切れたその瞬間、彼の指先が、私の手の甲にそっと重なった。
「……どうして、黙ってるの?」
その問いは、私の中の“理性”に向けられているようだった。
私は目を伏せ、そっとその手を握り返した。
そして、唇が触れ合ったとき、私の中に眠っていた“女”の部分が、音を立てて目覚めてしまった。
彼のキスはゆっくりと、首筋へ、鎖骨へ、そしてシャツの内側へと降りていった。
シャツのボタンが外されていくたびに、肌が、胸が、息づき始める。
私が一度だけ「ダメ」と小さく口にしたとき、彼は「見たいだけ」と囁いた。
その言葉が、なぜか優しくて、淫らだった。
私はもう、なにも拒めなくなっていた。
【第3幕:ソファに残る湿度と、壊れた理性の音】
すべてを委ねたその瞬間、心も身体も彼に染まっていた
私の身体は、彼の手のひらに沿って熱を帯びていく。
キスの合間に漏れる呼吸音。
指先が胸をなぞるたびに、太ももがじんわりと濡れていく。
彼の舌が、私の脚の間に触れたとき、理性が完全に崩れた。
下着越しに舐められたまま、私は声を堪えるためにクッションを抱きしめた。
それでも、舌の動きが細かくなった瞬間、腰が跳ねるのを止められなかった。
体位が変わったのは、彼がそっと私を後ろから包み込んだときだった。
「りんちゃん、後ろからも…すごく綺麗」
その言葉に、私は背中を震わせながら彼を迎え入れた。
静かな社宅の午後。
ソファの上で何度も揺られ、彼の奥に満たされていく感覚。
最後は仰向けで、見つめ合いながらひとつになった。
彼の瞳が、私の奥に溶けていくようだった。
終わったあと、シャワーを浴びた彼は、濡れた髪のまま「どうしよう、俺たち」と笑った。
私は笑えなかった。
ソファに残る熱と湿度が、今も私の太ももに残っていたから。


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