触れてはいけない温度──母性と欲望の境界で揺れた夜

娘の彼と… 密会中出し続ける日々 花撫あや

母性と孤独、許されざる愛が交錯する心理ドラマ。
娘の恋人を慰めるつもりだった一人の女性が、次第に抑え込んできた感情に揺らいでいく。
若者の優しさが、彼女の中に眠る“女”の輪郭を目覚めさせる――。
家族、愛情、そして欲望。
そのすべてが錯綜する濃密な人間関係を通して、人が抱える弱さと優しさの本質を描く物語。



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【第1部】雨音の向こうで──母性が揺らいだ午後

長野の高台にあるこの家は、夏の始まりになると少しだけ湿っぽくなる。
窓の外では紫陽花が雨に打たれ、ガラス越しにぼやけて見えた。
その色を眺めながら、私はぼんやりとコーヒーの香りに包まれていた。
四十三歳。女としての私より、母としての私のほうが長くなってしまった歳。
けれどその「母」という輪郭は、思っていたよりも脆いものだった。

娘の沙良が、彼――航を連れてきたのは一年前の春だった。
柔らかな物腰と穏やかな声。
初めて会ったとき、私はどこか懐かしさのようなものを覚えた。
けれど最近、二人の間には小さな溝ができていた。
沙良は「優しすぎる男なんてつまらない」と言い、航は黙って笑うだけ。
その笑い方が、なぜか私の胸を締めつけた。

あの日の午後もそうだった。
降りしきる雨の中、沙良は苛立ちを隠さずに玄関を出ていった。
「もういい。勝手にして」
その声が遠ざかる。
残された航は、玄関先に立ち尽くしていた。
雨に濡れた髪から滴る水が、シャツの襟を暗く染めている。
その姿が、妙に痛々しかった。

「風邪ひくわよ」
そう言ってタオルを手に取ったとき、私はもう母親の顔をしていなかったと思う。
航の額にタオルを当てた瞬間、指先が震えた。
体温が伝わってきて、息が詰まる。
その熱は、雨の冷たさと混ざり合って、奇妙に心地よかった。

「……すみません、いつもご迷惑ばかりで」
彼はそう言って、少しだけ目を伏せた。
まつ毛の影が頬に落ちて、まるで少年のように見えた。
その無防備さに、私の中の何かがわずかに軋んだ。
慰めたいのに、触れてはいけない。
その境界線が、雨のように滲んでいく。

「母親って、どんな感じなんですかね」
航の声は、雨の音よりも静かに私の胸に沈んだ。
答えようとしても、言葉が出なかった。
胸の奥に、確かに“女”のざわめきがあった。
それを隠すように、私はコーヒーをもう一口飲んだ。
けれど、唇の震えは止まらなかった。

【第2部】指先の記憶──触れてはいけない温度

夜になっても雨は止まなかった。
窓ガラスを伝う雫が、街灯の光を細く伸ばしている。
私はソファの端に座り、カップの中の紅茶を冷ましていた。
航は、娘の部屋を片づけると言って二階に上がったまま、しばらく戻ってこない。
時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえた。

どれくらい経った頃だろう。
静かな足音が階段を下りてきて、航がリビングの扉を開けた。
彼のシャツはまだ少し濡れていて、肩口に淡い湿り気が残っている。
その匂いが、雨と洗剤と、若い体温の混じったものとして鼻腔をくすぐった。

「沙良さん、もう帰ってこないかもしれませんね」
そう言った声が、妙に遠く感じた。
私は言葉を選べずに、ただ「きっと大丈夫」と微笑もうとした。
けれど、その笑みがうまく形にならなかった。
喉の奥が乾いて、息を吸うたびに胸の奥が熱くなった。

航の目が、ふいに私を見た。
その視線は、助けを求めるようで、同時に試すようでもあった。
目を逸らそうとしても、できなかった。
重なるまなざしの奥で、何かが静かに崩れていく音がした。

「……美沙さん」
自分の名前を呼ばれただけで、胸が跳ねた。
誰かに“女”として呼ばれるのは、いつ以来だっただろう。
夫との間には、もう長いあいだ言葉がなかった。
娘との会話も、どこか表面的で。
誰かに見られたい、触れられたい――
そんな欲望を、私はずっと“母親らしさ”の裏に押し込めていた。

けれど、その夜、航の視線が私の中の何かを静かに開けた。
その瞬間を、私は忘れられない。
近づいてはいけないのに、距離を置くこともできなかった。
手のひらが触れたわけでもない。
けれど確かに、心のどこかで、私たちは触れ合っていた。

雨音が強くなるたびに、世界が狭くなる。
リビングの灯りがやわらかく揺れ、影が壁に重なる。
彼の横顔を見つめながら、私は自分の指先が震えているのを感じた。
あのときの温度が、まだ残っていた。
触れてはいけない温度――
それを知ってしまった夜だった。

【第3部】朝靄の境界──罪とぬくもりの行方

夜が明けた。
雨はようやく止み、薄い靄が庭の芝生の上に漂っていた。
世界は洗い流されたように静かで、鳥の声さえ遠くにしか聞こえない。
私はテーブルに置かれた二つのカップを見つめていた。
片方には、昨夜の紅茶の跡が淡く残っている。
そこに、指の形のような跡がひとつだけ、ぼんやりとついていた。

航はもういなかった。
靴の跡が玄関に、雨の粒をいくつか残している。
それを見つめながら、胸の奥で何かが静かに痛んだ。
彼が去るときの背中を思い出す。
言葉も、触れ合いも、なかった。
けれど、目に見えない何かが確かにそこにあった。
それは、熱の名残のような、罪の影のようなものだった。

私はカーテンを開けた。
朝日が差し込み、部屋の隅々まで光が広がる。
夜のあいだに重ねてしまった心の影を、白い光があぶり出していく。
“母親”という輪郭が再び私の中に戻ってくる。
けれどその内側には、もう別の温度が棲みついていた。

あの夜、私は確かに人を抱きしめたわけではない。
それでも、あの雨音の中で、何かが抱き合っていた。
孤独と孤独。
優しさと欲望。
その境界が滲んだまま、今も私の中で消えずにいる。

外では、朝靄がゆっくりと晴れていく。
世界はまた、何事もなかったように動き出す。
私はコーヒーを淹れ直し、窓辺に立った。
湯気の向こうに見える紫陽花の花が、夜よりも少しだけ鮮やかに見えた。

その色を見つめながら、私は静かに息を吐く。
胸の奥にまだ残る、触れてはいけない温度を抱いたまま。

まとめ──静かな罪が教えてくれたこと

人は誰しも、触れてはいけない温度を胸の奥に抱えて生きている。
それは理性では説明できない衝動であり、同時に生の証でもある。
美沙にとって、航との夜は決して“許されること”ではなかった。
けれど、あの雨音の中で芽生えたぬくもりは、孤独と優しさの境界を越えてしまったのだ。

欲望は、ただの肉体の熱ではない。
人と人との距離が生む緊張、そこに滲む思いやり、そして罪悪感――それらが絡まり合って、ひとつの「生の実感」となる。
彼女はその夜、誰かを求めたのではなく、自分自身の中に眠っていた“女”という存在を確かめてしまったのだ。

朝の光の中で、美沙は静かに立ち上がる。
過去を悔やむことも、忘れることもできない。
けれど、あの夜があったからこそ、彼女はもう一度、自分という存在を抱きしめることができる。

罪は終わらない。
だがその痛みの奥に、確かな温もりがある。
人間の官能とは、まさにその矛盾の中にあるのかもしれない。

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