【第1幕】見られるたびに濡れていく——窓越しの視線が私を変えていく
気づいたのは、六月のある夜だった。
風が寝室のカーテンを、そっと膨らませたとき。
私は鏡台の前で、髪を結いながら、無意識に窓の方へ視線を滑らせていた。
向かいの家──隣家の二階。彼の部屋の窓が、少し開いていた。
その隙間から、視線のようなものが、するりと私の肌を這った気がした。
最初は錯覚だと思った。
けれど翌日も、そのまた次の日も、同じように風が抜ける時間、彼の窓は半分開いていて──視線の湿度だけが、じっとりと残った。
それが誰なのか、すぐにわかった。
彼は隣に住む高校三年生。名前はまだ知らない。けれど、たまにご近所で会えば、うつむき加減に「こんにちは」と言ってくれる、まだ声に少年の余韻を残した男の子。
それなのに──あの目だけが、大人だった。
その日、私は初めて、わざとカーテンを閉めなかった。
薄手の部屋着のまま、ブラジャーもせず、ショーツだけで鏡の前に立つ。
シャワーのあと、熱を含んだ肌が、布の下でじっと濡れていた。
鏡越しに、自分の胸がわずかに波打つ。乳首の輪郭が浮き上がっていることに気づいて、でも隠さなかった。
向こうに気づかれるかもしれない。いや──気づかせたい。
そんな感情が、罪の香りをまとって、身体の奥をくすぐる。
ゆっくり腰を落としてストレッチをするふりをしながら、太ももを開く。
陰部をすっぽり覆った布が、脚の動きで微かにズレて、空気が入り込む。
そのとき、ふと──視線が動いた。
彼の窓の奥で、カーテンが少しだけ揺れた。
見てる。
確信が、背中を這いのぼってくる。
まるで舌でなぞられたような錯覚に、喉が詰まりそうになる。
羞恥よりも先に、潤みがきた。
身体の奥、ショーツの布が、じっとりと汗とは違う湿りを帯びていく。
見られていると意識するだけで、濡れてしまう自分。
けれどそれが、恥ずかしいというより──誇らしかった。
窓の向こうにいる彼と、言葉を交わしたわけではない。
けれど、私は確かに“交わっていた”。
数日後、私は意図的に、さらに一歩踏み込んだ。
ベッドに座って足を組み、キャミソールの肩紐をずらしながら、首筋にボディミルクを塗る。
ゆっくりと、手が鎖骨をなぞるように。乳房の上の柔らかな丸みに、指先が沈むように滑る。
たぶん、彼はもう“見ているだけ”ではいられなかった。
夜──いつものようにカーテンの隙間から覗いた彼が、ふと暗がりに引っ込む。
そして──次に現れたとき、彼の腰が、わずかに揺れていた。
彼も、している。
自分の部屋で、静かに、自分を扱きながら。
私の視線に、身体を反応させている。
どこも触れていないのに、まるで肌がつながっているような──そんな夜。
その晩、私は夢を見た。
彼の手が私の下着に触れ、まだ若い舌が、脚の付け根を舐める夢。
目覚めたとき、下着は濡れて、脚は小さく震えていた。
これは、恋じゃない。
でも──性感の記憶は、もう私の中に刷り込まれてしまった。
そして私はもう、“濡れない自分”に戻れない。
【第2幕】偶然という名の誘惑——夜のランニングと月明かりの散歩道
彼の部屋の灯りが消えたのは、深夜0時を少し過ぎた頃だった。
小さな影がドアをそっと開け、外へ出る。
タンクトップと、膝上までの短パン。
まだ火照った肌に夜気が触れ、彼の髪が微かに濡れて見えた。
走るつもり──きっと、あれも私に“見せている”。
私はその数分後、ワンピース一枚で外へ出た。
ブラはつけず、下着も履いていなかった。
胸の先が、布越しに夜風に擦れて硬くなっているのを感じながら、
私は、ただ“偶然の散歩”を装って、追いかけるように歩き出した。
街灯の下、彼は給水機の前で立ち止まり、濡れた額をぬぐっていた。
その横顔は、少年の輪郭を残したまま、汗に濡れて大人びていた。
「こんばんは……眠れなくて」
そう声をかけると、彼は驚いたように目を見開いて、でもすぐに口元を緩めた。
「俺も……ちょうど、そんな感じです」
ほんの一言。けれど、夜の静けさがその言葉を水音のように震わせた。
ふたり、誰もいない公園のベンチへ並んで座る。
沈黙。夜露の匂い。少し離れたところで虫の音。
やがて、彼の手が、そっと私の膝に触れた。
爪先ではなく、指の腹。
触れた、だけで、私は身体の奥がキュッと収縮するのを感じた。
何も言わず、私もまた手を伸ばす。
彼の太ももをなぞる。短パンの布越しに、そこに宿る熱のかたまりを感じる。
硬い。張っている。私の視線に反応した、あの夜のまま。
「ここ……ずっと、見せてくれてたの?」
私がそう囁くと、彼は一瞬、目をそらした。
「……だって、あなたが」
その続きを聞くよりも早く、唇がふれた。
柔らかい、初々しい、でも欲望だけが真っ直ぐに伝わるキス。
そして、彼の手が私の太ももの内側をゆっくりと滑り上がってくる。
ワンピースの裾がめくられ、濡れた素肌に空気が触れた瞬間、私は甘く吐息をもらした。
「……下、履いてないの?」
頷くかわりに、私は彼の手を自分の中心へと導いた。
触れられるだけで、じゅっと濡れ音が生まれる。まるで、身体の奥が返事をしているようだった。
ベンチに腰かけたまま、彼は私の脚を割って、その間に膝を割り込ませた。
ワンピースがめくれ上がり、脚の付け根からあふれる蜜が、夜風にぬらりと冷やされる。
その舌が──若く、熱く、ぎこちなくも真摯に、私の脚を這い上がってくる。
膝から内腿、そして、すでに開きかけた花の奥へと……
「ん……そこ、だめ、声、出ちゃう……」
舌先がクリトリスに触れた瞬間、全身がびくんと震え、腰が勝手に浮いた。
彼の舌は若いくせに、一度触れた性感を確かめるように、リズムを変えて撫でてくる。
責めるように、いたわるように、飢えているように。
私はたまらず、彼の肩をつかんで引き寄せた。
「入れて……お願い、もう、我慢できない」
彼のものは、熱かった。
それが私の中にゆっくりと押し込まれていく瞬間、
肉と肉がぬめり合いながら、内側で音を立てて迎え入れる。
深く、でもまだ遠慮がちに。
その“遠慮”が、私を余計に狂わせた。
「もっと、奥まで……突いて……奥、当てて……っ」
そう囁くと、彼の腰が強く、躊躇いなく動き始める。
私の脚を抱え上げるようにして、正常位で、浅く、深く、変化をつけながら。
内壁に擦れるたび、喉から漏れる声を噛み殺すのがやっとだった。
体位が変わる。
背中を向け、後ろから打ち込まれる。
彼の手が私の乳房を揉み、指先が乳首を摘む。
そこから神経が一直線に下腹部へ繋がっていて、ただそれだけで、絶頂に近づく。
「やば……気持ちいい、声、もう、止められない……っ」
最後は、私が彼に跨った。
自ら動き、欲しいところに導きながら、腰をぐっと沈めていく。
音が生まれる。粘膜の音、濡れの跳ね返り、汗と愛液が混ざる感触。
彼の目を見ながら、私は自分が濡れた音を立てることに、どこか誇らしさを感じていた。
「ほら……私の中、こんなに気持ちいいって、覚えて」
絶頂は、波のように何度も押し寄せ、身体を震わせた。
彼の中で果てた熱が、私の奥にとぷ、と満ちていく感覚まで、鮮明に記憶に刻まれた。
静かな、けれど永遠に残る夜。
“見る”だけだった関係が、
いま確かに“感じ合う”関係になっていた。
【第3幕】濡れたまま、朝が来ても——消せない記憶と体温の残像
夜は、まだ終わらなかった。
けれど、ひとつの交わりが過ぎたあと、ふたりは音もなく並んでいた。
公園のベンチに、汗と吐息と体液の匂いがまだ残っている。
私は彼の膝の上に腰を乗せたまま、胸に頬を預けていた。
呼吸は少し落ち着き、けれど身体の奥では、
まだ“なにか”が終わっていないことを訴えていた。
彼のものが抜かれたあと、私の中にはぬるい温度が残っていた。
脚を閉じても、蜜がとろりと伝っていく。
太ももに、静かに残るその感触が、まるで「忘れるな」と言い聞かせるようだった。
「……さっきの、夢みたいだった」
彼が小さな声で言う。
それに私は、喉で笑って、彼の首筋にそっと舌を這わせた。
「じゃあ、また夢、見せてあげようか」
ワンピースの裾をめくると、夜風にさらされた自分の秘部が、
まだじっとりと濡れているのがわかった。
そこへ、自分の指を添えて、くちゅ、とひと撫でする。
とろける音が、夜の静けさに響いた。
見せるように、魅せるように、私は自分を開いていく。
彼の目が、それをじっと追う。
まるで、窓越しだったあの頃の続きを、目の前で再生しているように。
「見て。あなたが……こんなにしたのよ」
濡れた指を乳首に移す。
ひと撫で、ふた撫で。自分の身体が自分の手で目覚めていく。
「……俺、また、したい」
彼が私の手を制し、そのまま押し倒す。
二度目の挿入は、よりスムーズに、深く、そして速く。
私の中は、もう彼の形を覚えてしまっていた。
迎え入れる角度、突き上げる深さ、リズムと反応の波。
再び繋がった瞬間、声が勝手に漏れる。
「あっ、……そこ、さっきより、気持ちいい……っ」
言葉にならない声が、喉の奥から湧いてくる。
感情が音になり、愛液が音になり、二人の動きが濡れのリズムになる。
何度も奥を突かれ、子宮の縁をなぞるたび、
身体がひとりでに跳ねて、絶頂の波を受け入れていく。
「イきたい? ねえ、イって──僕の中で、また」
その声に、全身が溶けた。
脚を高く抱え上げられ、奥を貫かれるたびに、
快楽が白く光って、視界が滲む。
腰を突き上げられながら、私はただ、波の中で喘いだ。
──そして、果てた。
何度目かわからない絶頂。
でも最後は、彼の熱がまた私の中へととぷりと注がれる瞬間に、
すべてが終わった。
あるいは、それは終わりではなく“刻印”だったのかもしれない。
彼の体温が、私の中で脈打っていた。
濡れた太ももを閉じられないまま、私はふたたび歩き出す。
帰り道。
裸足のような足取りで、サンダルがぺたんと鳴る。
パンティを履いていないことが、こんなにも淫らだと知ったのは、
今夜が初めてだった。
寝室に戻っても、ベッドに横たわっても、
シーツに触れるたび、あのときの角度と奥行きを思い出して濡れてしまう。
身体は、彼を記憶してしまった。
そして、翌朝──
私がカーテンを開けた瞬間、彼の窓もまた、音もなく開いた。
何も言わず、何も動かず、ただ、お互いの視線が触れ合う。
昨夜の続きが、まだどこかに残っている。
私たちはもう、
“見ていただけの他人”には戻れない。




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