まさかの相部屋で崩れた理性──雨に閉じ込められた夜、上司と美人部下の境界が溶けていく

【第1部】雨に閉じ込められた夜──濡れた髪の向こうに見えた素顔
地方の工場での商談が終わる頃、空は鉛のような色をしていた。
雷鳴が山間を走り、雨脚は刻々と強まっていく。
「宮西さん、これ…帰れそうにないですね」
美人部下・ひかるがスマホを見つめながら小さく息をついた。
画面には「運休」の二文字。
営業所に問い合わせると、幸運にも一部屋だけ空いていた。
「一部屋しかないそうだ」
と伝えたときの、彼女の一瞬の沈黙が忘れられない。
薄暗い宿舎の一室。古びた蛍光灯の音がかすかに鳴る。
冷えた体を温めようと、ひかるがシャワーへ向かう。
戻ってきた彼女は、髪をタオルで拭きながら、白いTシャツの裾をつまんで笑った。
「すみません、乾くまでこれしかなくて」
肩の線が透け、濡れた髪が首筋に沿って落ちる。
その瞬間、部下という枠組みが、静かに崩れた気がした。
【第2部】揺らぐ距離──タオル一枚のぬくもりと沈黙の告白
テレビの音は消した。
雨音だけが部屋の空気を満たしていた。
ひかるはベッドの端に座り、指先でタオルの端をいじっている。
視線を逸らそうとしたが、彼女が小さく口を開いた。
「ずっと、見てました。
会社では言えないけど、あなたみたいな人になりたくて…
でも、どんどん目で追うようになって」
息が詰まった。
雨の匂いと、彼女の肌の熱。
タオルの隙間からこぼれる鎖骨の白さが、呼吸のたびに震えていた。
「…冗談だと思っていいです」
そう言って笑うその声が、逆に本気を帯びていた。
間にあるのは、たった一枚のタオルと沈黙。
その沈黙が、肌よりも熱く、理性よりも近かった。
「そんな目で見られたら、もう…上司でいられないな」
低く落とした声に、ひかるの指先が微かに震えた。
彼女は目を閉じ、頬を寄せてきた。
唇が触れるより前に、呼吸が交わった。
その瞬間、雨の音が遠ざかっていくように感じた。
【第3部】朝の光──触れたことよりも深く、残るもの
目が覚めると、窓の外は嘘のように晴れていた。
カーテン越しの光が、床に淡い模様を描いている。
隣には、静かに寝息を立てるひかる。
その表情は昨日よりも穏やかで、何かを許したようだった。
「宮西さん、もう起きてたんですか」
彼女が目を開けて微笑む。
その笑みには、夜を越えた人間の脆さと温かさがあった。
「昨日のこと、後悔してません」
言葉は少し震えていたが、瞳は真っ直ぐだった。
俺は頷くだけで精一杯だった。
触れたことよりも、触れる前の時間──
互いの息が重なり合い、沈黙が震えていたあの瞬間のほうが、今も深く刻まれている。
外に出ると、山の空気は澄んでいた。
濡れたアスファルトの匂いが、昨日の夜を静かに思い出させた。
彼女は小さく笑いながら、
「また、出張…ありますよね」とつぶやいた。
その声に、どこか切なさが混じっていた。
【まとめ】濡れた夜の記憶──“触れない官能”が教えてくれたこと
あの夜、私たちは「上司と部下」という立場を失ったわけではない。
むしろ、触れないままに互いを理解しようとした“ぎりぎりの距離”で、
初めて相手の心の温度を知った。
官能とは、裸になることではない。
言葉の隙間、沈黙の呼吸、濡れた空気の中に潜む「まだ触れない」緊張こそが、
人を最も深く震わせる。
あの一夜が教えてくれたのは、
人は理性を超える瞬間にこそ、
ほんとうの誠実さを試されるということだった。
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