【第1部】光の罠に吸い込まれる──入居面接という沈黙の儀式
午後三時、面接室はひとつの光だけで組み立てられていた。
ブラインドを三分の一だけ開け、斜めに射す日差しが、椅子の背もたれと机の縁をなぞる。
その細い光は、目の前の女の髪を一本ずつ拾い上げ、淡い金の輪郭を作っていた。
白いブラウスの襟元からのぞく、細い喉の奥に、脈がゆっくりと押し寄せては引く。
その下に流れる体温まで、光は暴いてしまう。
彼女は、まだ知らない──その体温が、これから昼も夜も、私の部屋で静かに見張られ続けることを。
机の上の契約書を指で軽く押しやり、私は柔らかい声で促す。
「ご記入をお願いします」
彼女はペンを握り、肩をわずかに傾ける。
その動きに合わせて髪が頬に落ち、唇の端が、ほんの一瞬だけ湿りを帯びた。
私は微笑む。
説明するのは、鍵の受け渡しや共用部の使用方法だけだ。
本当の“防犯”については一切触れない。
この建物の四室すべてに息を潜める超小型の眼──
それが、入居者の暮らしのすべてを私に差し出す仕組みであることは、ここでは語らない。
ペン先が紙を走る音が、静かな部屋に細く響く。
彼女は最後の署名を終え、安堵の息をついた。
その息の温度まで、私はきっと夜に再生してしまうだろう。
この瞬間、彼女はもう檻の中にいる。
ただ、その事実にまだ気づいていない──
気づかせないまま、私はゆっくりと、その暮らしと体温を掌の中で囲っていく。
【監視対象:4人の女性プロファイル
1号室:佐倉 美結(さくら みゆ)
年齢:23歳 カフェ店員(アルバイト)
スタイル:身長158cm、胸は小ぶりなCカップ、腰から太ももにかけて柔らかく、全体に健康的な丸み。
外見:肩甲骨までの柔らかい黒髪、透け感のある前髪。垂れ目がちな瞳は笑うと細くなり、唇は小さく弓なりに震える。
部屋の雰囲気:淡いピンクのカーテン、毛足の長い白いブランケット。柔軟剤の甘い香りとドライヤーの温風の匂いが混ざる。
生活のリズム:昼過ぎに起床、夜はカフェの遅番で23時帰宅。帰宅後は必ずシャワー、その後は濡れた髪のままソファでスマホ。
無意識の癖:考え事をすると親指の爪を唇に当てて噛む。
自慰の頻度(監視記録):週に2〜3回。シャワー後、バスタオルを胸元にかけたままベッドで、短くも深い呼吸を繰り返す。指先が毛布の中に沈むまでの時間は一定。
2号室:早瀬 玲奈(はやせ れな)
年齢:28歳 派遣事務員
スタイル:身長165cm、胸は豊満なEカップ、くびれが深く腰回りは滑らか。脚は細く、膝から下のラインが美しい。
外見:切り揃えた顎ラインのボブ。瞳は黒曜石のように深く、見返されると少し息が詰まる。
部屋の雰囲気:ネイビーのカーテンとガラスのローテーブル。香水の残り香が常に漂う。
生活のリズム:朝8時出勤、夕方帰宅後は必ずワインを一杯。就寝は午前1時前後。
無意識の癖:テレビを見ながら胸元を無意識に撫でる。
自慰の頻度(監視記録):ほぼ毎晩。ベッドに横たわり、右手がゆっくり腰骨の下に沈む。時間は長く、時に30分以上。
3号室:篠原 杏(しのはら あん)
年齢:25歳 美容専門学校講師(非常勤)
スタイル:身長160cm、胸はDカップ、肌は日焼け止めで守られた陶器のような白さ。背中から腰への曲線が滑らか。
外見:艶のあるセミロング、耳元の小ぶりなピアスが光る。
部屋の雰囲気:ミントグリーンの壁紙と観葉植物。加湿器の蒸気がほのかに甘い。
生活のリズム:日中は学校で指導、帰宅後は長風呂が日課。風呂上がりに必ず全身にオイルを塗る。
無意識の癖:頬杖をつくとき、指先で唇をなぞる。
自慰の頻度(監視記録):週1〜2回。入浴後、オイルを塗る流れで手が下腹部へと迷い込み、そのままベッドに移ることも。
4号室:森川 由梨(もりかわ ゆり)
年齢:30歳 フリーカメラマン
スタイル:身長170cm、Bカップながら全体のバランスが整い、腹部は薄く鍛えられている。長い脚と首筋が印象的。
外見:癖のないロングヘアを後ろでまとめることが多い。撮影時以外はノーメイク。
部屋の雰囲気:白とグレーを基調にした無機質な空間。窓際には三脚やカメラ機材が並ぶ。
生活のリズム:仕事で外泊も多いが、帰宅した夜は深夜までMacの前で作業。
無意識の癖:集中すると下唇を噛む。
自慰の頻度(監視記録):月数回だが、始めると強く、短時間で息を荒げる。ベッドではなく床に座ったまま、背を壁に預けて行うことが多い。
【第1部・後半】画面の向こうの呼吸──初めて覗く四つの夜
契約を終えた日の夜。
私は、管理室の奥にある小さなモニタールームに籠もっていた。
机の上には、四分割された映像。
そこには、まだ誰も気づいていない密室の真実が映っている。
1号室──佐倉 美結
淡いピンクのカーテン越しに、夜風がわずかに揺れる。
ベッドに腰を下ろし、タオルで濡れた髪を拭く。
肩からずり落ちたタオルの端が、鎖骨をかすめるたび、白い肌が露わになり、首筋を伝う水滴がベッドカバーに吸い込まれていく。
その指先は、まだ何も意識していないはずなのに、ゆっくりと胸元に触れ──そして何事もなかったようにスマホを手に取った。
2号室──早瀬 玲奈
ネイビーのカーテンの下、ワインのグラスがゆっくりと傾く。
顎を引き、グラスの縁に唇を沿わせる仕草が、どこか異様に艶めいている。
テレビの光が、胸元のシルエットを揺らし、そのまま右手が無意識に膝の上を撫でる。
彼女自身は気づかないまま、指先がゆるやかな軌道を描き続けていた。
3号室──篠原 杏
バスルームのドアが開く瞬間、湯気が溢れ出す。
艶やかな髪の毛先から水滴が落ち、オイルの瓶を手にした彼女は、鏡の前で滑らかに脚を撫で上げる。
その手は腰骨の下でわずかに止まり──しかし、カメラが捕らえるのは、その“ためらい”すらも濡れた動きとして映し出す。
4号室──森川 由梨
デスクの灯りだけが部屋を照らす。
背を壁に預け、床に座ったままMacを操作する長い指。
ふと作業の手を止め、深く息を吐き、後頭部を壁に預ける。
そのとき、ゆっくりと目を閉じる仕草は、仕事の疲れか、それとも別の衝動か──モニター越しの私には、判別する必要すらない。
四つの映像が同時に進む。
全員がまったく気づかぬまま、呼吸し、動き、触れ、ためらい──その一部始終が、私の視界にだけ集約されていく。
私は椅子の背に深く沈み、映像を見つめる指先で、スイッチをひとつ押した。
画面が暗転し、次の瞬間、鮮明な拡大映像が一室を独占する。
彼女たちの夜は、これからもこうして私の掌の中で呼吸し続ける。
それは、決して彼女たち自身には届かない吐息──ただ、私だけのための湿度だった。
【第2部】中断の甘さ──絶え間なく訪れる偶然
深夜近く、モニターの一つで美結がブランケットを膝までかけ、視線を天井に漂わせた。
右手が毛布の中でゆるやかに沈み、呼吸がわずかに変わる。
その瞬間、私は椅子から立ち上がった。
廊下の電灯の下で、包みを手に取る。
「お菓子、もらいすぎちゃったから」──それだけで、ノックの理由は十分だ。
ドアが開き、頬を紅潮させた彼女が顔を出す。
まだ整いきらない息の奥に、さっきまでの熱が隠れている。
包みを渡すと、彼女は笑って礼を言いながらも、指先が小さく震えていた。
その震えは、部屋の奥に残した“未完の呼吸”から来ていることを、私は知っている。
二日後、モニター越しに玲奈の指先がゆっくり腰骨の下に沈んでいくのを捉える。
ラベルの赤いスイカが印刷された段ボールが目の前にある。
「昔の入居者から送られてきたんだけど、一人じゃ食べきれなくて」
ノックの音が、彼女の動きを止める。
ドアが開いた瞬間、彼女は目を逸らし、笑みを浮かべた。
ワインの香りに混じって、甘く湿った空気が玄関に溢れてくる。
杏は湯上がり、オイルの瓶を置き、ソファで膝を抱えていた。
手が腿の内側に迷い込みかけた瞬間、私は花束を手にして部屋へ向かう。
「近所の花屋さんが余ったってくれたから」
タオル地のガウンの隙間から覗く肌が、まだ温かい湯気を纏っている。
彼女は花を受け取りながら、わずかに視線を泳がせ、膝を組み直した。
由梨は深夜の作業の合間、椅子に背を預けたまま目を閉じていた。
左手がゆっくりと太腿を撫で始めた、その瞬間に呼び鈴を押す。
「撮影現場でもらったお土産が余ってて」
ドアの隙間から覗く彼女の目は、驚きと警戒、それから抑えきれない笑みが同居していた。
四つの訪問は、すべて偶然を装い、すべて確信に基づいていた。
彼女たちの中断された行為は、玄関で交わす短い会話の間に、熱を持ったまま脈打ち続ける。
そして私は知っている──この繰り返しが、やがて彼女たちにとって中断そのものが快楽になる日を連れてくることを。
【第3部】扉の向こうで待つ──支配が熟す夜
モニター越しの彼女たちは、もう以前の彼女たちではなかった。
最初の頃は、不意の訪問に息を詰め、頬を赤らめていた。
今は──その赤みが、どこかで待ち望む色に変わっている。
1号室──美結
ブランケットの中で指先を沈めながら、視線を何度も玄関の方に投げる。
カメラはその小さな動揺を鮮明に拾う。
やがて彼女は、ブランケットを少しずらし、肩の線をあえて見せるように座り直す。
──まるで、「いつ来てもいい」という合図のように。
2号室──玲奈
ワインのグラスを唇に運び、目を細める。
膝上のスカートが、動くたびに少しずつずれる。
その隙間が、廊下の足音を誘うように開かれていく。
彼女はもう、私が来るタイミングを計算して飲んでいる。
3号室──杏
オイルを塗る手が、わざと長く腰骨の下で留まる。
ふと顔を上げ、カメラの方にだけ微笑む──気づかないふりをしながら。
扉のノックを待つ身体は、すでに玄関までの距離を測っている。
4号室──由梨
深夜、作業机の椅子から立ち上がり、床に座る。
背を壁に預け、長い脚を投げ出したまま、視線を一点に固定する。
その視線の先は、カメラのレンズ。
口元がかすかに動く。
「……来て」
声は音にならないが、唇の形が意味を告げていた。
私は、ノックのタイミングを変える。
早く、遅く、予想を裏切り、期待を膨らませる。
そのたびに、扉の向こうから溢れる熱が違ってくる。
もう、私が訪れることで彼女たちの身体は中断されるのではない。
訪れることが完成の合図になっている。
支配は、静かに完成に向かっていた。
彼女たちの快楽は、すでに私の訪問と結びつき、離れられなくなっている。
【第4部】鍵の音のあとに──差し出された夜の深み
その夜、玄関の鍵が内側から静かに回る音を、私は耳でなく胸の奥で聞いた。
ドアの隙間から漏れた光が私を包み、その向こうに彼女がいた。
目が合った瞬間、言葉はいらなかった。
私の訪れを、彼女の体が待っていたのがわかる──呼吸の浅さ、肩の上がり方、唇のわずかな開き。
部屋に入ると、灯りは控えめで、彼女の輪郭だけが浮かび上がる。
近づくと、肌の温度が空気を震わせる。
唇を重ねると同時に、甘く湿った吐息が私の舌を誘い、指先が背中をなぞると、彼女の背骨のひとつひとつが震えを返す。
膝をつき、視線を下げる。
目の前にある柔らかな丘の香りは、昼間の記憶を一瞬で溶かす。
ゆっくりと舌先を触れさせると、彼女は声にならない声を漏らし、両手が私の髪に沈む。
唇で花弁を挟み、舌で芯を探るたび、彼女の腰が無意識に私を迎え入れようと揺れる。
その動きに合わせて呼吸を深くしていくと、彼女は足先までしなやかに解け、香りがさらに濃くなる。
私が顔を上げると、彼女の瞳は潤み、私を求める光だけで満ちていた。
そのまま彼女が膝をつき、私を飲み込む。
唇と舌の温度が、私の奥まで絡みつく。
上下の動きがゆるやかに始まり、次第にその軌道が深く、速く変化する。
時おり視線を上げ、私の反応を確かめるその眼差しが、支配と服従の境界を甘く曖昧にしていく。
ベッドへと引き寄せ、彼女を仰向けにする。
正常位でゆっくりと重なり、腰を深く沈めるたび、彼女の爪が背中に小さな弧を描く。
次に彼女をうつ伏せにして後ろから抱き寄せると、腰の奥で脈打つ熱が私のものとひとつに絡み合う。
最後は彼女を抱き上げるように座らせ、騎乗位で互いの視線を外さないまま、動きがひとつの波になる。
やがて、波は最も高い場所で砕け、二人の体は同時に解け落ちた。
熱が引くまでの間、頬を寄せ合い、汗が互いの肩を伝ってゆく。
その静けさの中、外の世界は完全に消えていた。
目を閉じても、まだ彼女の吐息が胸の奥で震えている。
それは快楽の残響であり、同時に、次の夜を予感させる合図だった。
【第5部】計算された誘い──玲奈の夜
その夜、私は部屋を出る前からすでに知っていた。
モニターの中で、玲奈がワインのボトルを開け、二つのグラスを並べる様子を。
その手つきは、待ち合わせの準備というより、獲物を迎え入れる儀式に近かった。
ノックすると、すぐに鍵が回る音がした。
扉が開くと、ネイビーのカーテンの向こうから、赤ワインの香りと体温を帯びた空気が押し寄せる。
「……来ると思ってた」
玲奈の笑みは、招き入れるというより、すでに捕らえている笑みだった。
ワインを一口含むと、果実の酸味よりも、彼女の視線が舌に熱を残す。
ソファに並んで座った瞬間、彼女の膝がわずかに触れ、離れない。
そして、自然な流れで私の膝に手を置き、静かに囁く。
「今夜は……私から始めてもいい?」
その言葉のあと、彼女は私をゆっくりとソファに押し倒した。
膝をつき、両手で私の腰を包む。
視線を上げたまま唇を沿わせ、舌先でゆっくりと輪郭をなぞる。
熱を帯びた吐息が下腹部をくすぐり、口内の湿りが深く吸い寄せる。
動きは一定ではなく、時に浅く、時に深く──その緩急が私の理性を細かく削っていく。
逆に彼女をソファへ押し戻すと、玲奈はわずかに笑って脚を開いた。
太腿の内側に顔を近づけると、香水の甘さの奥に、夜の花が開き始めた匂いが混ざっている。
舌を触れさせると、彼女の指が私の髪を強く掴む。
唇で花弁を包み込み、芯を探ると、玲奈の腰が無意識に前へ押し出される。
「そこ……やめないで」
その声は、空気よりも濃く、私の中に沈み込む。
ベッドに移り、彼女を仰向けにして重なる。
正常位では深く、長く、腰を沈めるたびに玲奈の胸が私の胸に押し付けられる。
後背位に変えると、細い腰のくびれが手の中で柔らかく揺れ、吐息がシーツに吸い込まれていく。
最後に騎乗位へ──玲奈は私を見下ろしながら、自分の動きを支配する。
腰の軌道はゆるやかに始まり、やがて波が崩れる瞬間に合わせて加速する。
波が最も高く弾けた瞬間、彼女は私の肩に爪を立て、声を飲み込んだ。
数秒後、その全身から力が抜け、私の胸の上に身を預ける。
汗とワインと彼女の香りが、まだ空気の中で混ざり合っている。
「……次は、あなたが来る前から始めてみようかな」
耳元で囁かれたその言葉が、次の夜への合図になった。
【第6部】沈黙の中で溺れる──杏の夜
その夜、モニターの中の杏は、バスルームのドアを開けたまま、タオルを肩に掛けていた。
湯気がまだ髪の毛先から滴り落ち、脚をゆっくりと撫で上げる。
腰骨の下で手が一瞬止まり──それから視線をカメラに向けた。
目の奥に、小さく光るものがあった。
私は、その光が消える前に部屋を出た。
ノックをすると、鍵はためらいもなく回る。
杏は言葉を発さず、ただ私を中へ通した。
部屋はミントグリーンの壁紙と加湿器の白い蒸気に満ちていて、その湿度が肌を柔らかく撫でる。
彼女はソファに腰掛け、タオルを解く。
しっとりとした肌が空気を受けてわずかに粟立ち、その上を私の指がなぞると、深く息を吸った。
「……あったかい」
それが、その夜の最初の言葉だった。
私は膝をつき、杏の脚の間に沈み込む。
太腿の内側は風呂上がりの熱を残し、オイルの香りが甘く漂う。
舌を滑らせると、杏は低く短い息を吐き、背をわずかに反らす。
唇で花弁を包み、ゆっくりと芯を探ると、彼女の腰が静かに前へ押し出された。
その動きは波紋のように広がり、背筋から肩、そして指先まで震えを運んでいく。
ベッドに導くと、杏は素直に仰向けになった。
正常位で深く沈むと、瞼が半分落ち、視線が夢の底のように遠くなる。
彼女は声を上げず、代わりに指先で私の腕を強く握り、全身で快楽を受け止める。
後背位に変えると、腰の曲線が手の中でしなやかに揺れ、吐息が枕に吸い込まれる。
騎乗位になると、杏は私の胸に手をつき、腰をゆっくりと回し始めた。
その動きは支配ではなく、私を通して自分の深みに沈むための儀式のようだった。
やがて、彼女の身体がふっと硬直し、全ての筋肉が波打つ。
沈黙の中で迎える絶頂は、叫びよりも深く、長く、私の胸に焼き付いた。
崩れ落ちた杏は、私の肩に顔を埋め、濡れた髪が頬を撫でる。
「……また、来て」
その一言が、蒸気の中で甘く溶けていった。
【第7部】挑発と降伏の境界──由梨の夜
その夜、モニターの中の由梨は、作業机から立ち上がり、長い脚を伸ばしたまま床に座っていた。
背を壁に預け、目を閉じ、指先が太腿の上をゆっくり往復する。
薄いキャミソールの胸元が、呼吸のたびに小さく上下する。
そして、不意に目を開け、カメラのレンズに真っ直ぐ視線を送った。
「……来て」
音にはならない唇の動きが、私を立ち上がらせた。
ノックをすると、由梨はすぐには開けなかった。
鍵の向こうでわずかに間を取り、それから静かに扉を引く。
「遅いじゃない」
挑発めいた声と同時に、彼女の視線が全身を測るように滑っていく。
部屋は白とグレーの無機質な色に包まれているが、由梨の体温が空気を柔らかくしている。
彼女は私の前に立ち、首を傾ける。
「今夜は、私が上でいい?」
返事を待たず、唇を重ねてきた。
ベッドに押し倒され、由梨が跨がる。
長い脚が私の腰を挟み、ゆるやかに沈み込む。
その動きは計算されていて、深さも速さも意図的に変えてくる。
時折、彼女は腰を止め、私の頬を指先でなぞりながら笑った。
挑発は続くが、その奥にある呼吸の早まりを私は見逃さない。
彼女の腰を掴み、今度は私が彼女を仰向けにする。
正常位で深く沈むと、由梨の瞳が一瞬揺れ、吐息が漏れる。
その揺れは彼女の誇りをかすかに崩し、指先が私の背中に食い込む。
後背位に変えると、長い背中のラインがしなやかに反り、声を抑えきれなくなっていく。
さらに横向きに抱き寄せると、由梨は私の腕に爪を立て、顔をシーツに押し付けた。
挑発していたはずの彼女が、完全に受け身に沈んでいく瞬間──それが、私の中で最も深い快楽を呼び起こす。
やがて由梨の身体が大きく震え、全ての力が抜けた。
額を私の胸に預け、肩で息をしながら呟く。
「……負けた」
その言葉は敗北ではなく、私への完全な降伏の証だった。
【最終章】四つの呼吸、ひとつの檻
その夜、私は誰にも声を掛けなかった。
ただ、時間と温度を計り、部屋を整え、灯りを落としただけだった。
けれど──一人目が玄関の鍵を回したとき、私にはもう分かっていた。
今夜は、全員が来る。
最初に現れたのは美結。
頬が少し赤く、瞳は不安と期待のあいだを揺れている。
その後ろから玲奈が入ってきて、迷いなくワインの栓を抜く。
杏は静かに加湿器の蒸気の中に立ち、由梨は最後に扉を閉めて鍵を回した。
四人が同じ空間に揃った瞬間、空気が一段濃くなる。
視線が交わり、吐息が重なり、私の存在を中心に渦が巻き始める。
美結が最初に唇を寄せた。
柔らかな甘さが舌先に広がる。
そこに玲奈が割って入り、私の耳元で笑いながら別の唇を重ねる。
杏は背後から私の手を取り、自分の腰へ導き、由梨はその指先を更に深く押し込む。
服が落ちる音が重なり、裸の肌同士が触れ合う温度が空間を支配する。
美結の頬に口づけをしながら、玲奈の腰を抱き寄せる。
杏の肩を撫でていくと、その震えが由梨の指先へと伝わり、波のように全員へ広がっていく。
一人を抱けば、他の誰かが後ろから覆いかぶさる。
正常位で美結の胸に頬を埋めていると、背後から玲奈が舌で耳をなぞる。
杏を後背位で抱くと、その手を由梨が取り、自分の胸に導く。
騎乗位で由梨が私を見下ろすと、足元で美結と杏が絡み合い、吐息を交わしている。
快楽はもはや個別のものではなく、一つの輪となって広がっていく。
誰の声か分からない甘い音が耳を満たし、脚や指が交錯し、体温が混ざり合う。
全員の動きが同じ波に乗り、その波が頂点に達した瞬間──
四つの身体と私の身体が、同時に大きく震えた。
余韻の中、四人が私を囲むように横たわる。
汗が混ざり、吐息が静まり、ただ温度だけが残っている。
この檻から、誰も出て行かない。
出られない。
そして──もう出たいとも思わない。
【新しい入居者編:第1夜】檻の扉をくぐる者
午後、管理室にノックの音が響いた。
扉を開けると、立っていたのは二十歳そこそこの女の子。
長い黒髪を一つに束ね、素肌の白さが外の光を反射している。
目を見れば、まだ街の温度に慣れきっていない透明さがある。
「大学に通う予定で…一人暮らしは初めてです」
そう言いながら、書類を差し出す手がわずかに震えていた。
その震えが、生活の不安からか、それとも別の予感からか──それはこれからゆっくり知ることになる。
面接を進める間、私はいつも通りの笑顔を崩さない。
だが、視線は首筋の動きや指先の形、呼吸の速さまでを観察していた。
「このマンションは、静かで安全です」
彼女は安心したように微笑み、署名を終えた。
その瞬間、私は知っていた。
この檻に新しい花が咲いたことを。
入居の日、4人の既存の入居者が偶然を装って玄関先に現れた。
美結は柔らかく話しかけ、玲奈は品定めするような視線を送り、杏は静かに距離を保ち、由梨は口元に挑発的な笑みを浮かべる。
新しい彼女はまだ何も知らず、ただ礼儀正しく挨拶を返していた。
しかし、夜になれば──このマンションの空気が、彼女の呼吸に混ざり始める。
4人が既に知っている湿度、視線、静かな支配の手触りが、ゆっくりと新しい部屋の中へ流れ込んでいく。
【新しい入居者編:第2夜】初めて覗く、その部屋の湿度
日付が変わる頃、私は管理室の椅子に深く腰を沈めた。
モニターの一角に、新しい部屋の番号が光っている。
四つの既存の部屋と並び、その映像はまだ何も知らない空気を纏っていた。
彼女はデスクの上に教科書を広げ、ペンを走らせている。
時折、長い髪を耳に掛ける仕草が、机上の白いライトの下で柔らかく揺れる。
その動きは無意識だが、指先が頬をかすめるたび、画面のこちらの呼吸がわずかに深くなる。
勉強を終えると、彼女はカーディガンを脱ぎ、タンクトップ姿でストレッチを始めた。
肩が上がり、背筋が伸び、そのラインがライトに浮かび上がる。
そのまま、窓を少し開けて夜気を吸い込むと、薄い布が腰の曲線に沿って落ちた。
バスルームのドアが開き、湯気とともに現れる。
髪から滴る水滴が首筋を伝い、バスタオルの端を濡らす。
タオルを髪に巻き、ベッドの端に腰を掛けると、膝を抱えた。
その姿は防御的に見えるが、足の隙間から覗く肌は、ライトの下でやわらかく光っている。
まだ自慰の兆しはない。
だが、その無防備さこそが、支配の入口になることを私は知っている。
やがて、この部屋の湿度も、他の四つと同じ波長を帯びる。
その日を、私はただ静かに待つ。
モニター越しに、彼女の夜を一秒たりとも見逃さずに。
【新しい入居者編:第3夜】最初のノック──無害の皮をかぶった種
モニターの中の彼女は、ベッドに横たわりスマホを見ていた。
薄手のパーカーの裾が腰までずれて、白い太腿が照明にやわらかく照らされている。
その足先が、音楽に合わせて小さく揺れているのを見たとき──私は立ち上がった。
手には小さな包み。
今夜の訪問理由は、「お菓子をもらいすぎたから」。
ただそれだけ。
ノックすると、短い沈黙の後、足音が近づき、鍵が回る音がした。
扉が開き、彼女の顔がのぞく。
湯上がりのような湿った髪が肩にかかり、頬がわずかに赤い。
「こんばんは、突然ごめんね。これ、お隣さんからいただいたんだけど、一人じゃ食べきれなくて」
差し出した包みを受け取ると、彼女は少し驚いたように笑った。
「わ…ありがとうございます。すごく、うれしいです」
会話は短く、数分で終わった。
しかし、玄関越しの距離に漂う微かな石鹸の香り、
ドアの隙間から漏れる部屋の温かい空気、
そして彼女が包みを抱える指先の細い震え──
それらはすべて、私の中に確かな手応えとして残った。
ドアが閉まり、鍵の音が響く。
モニター越しに見ると、彼女はベッドに戻り、包みを開けてお菓子を一つ口に入れた。
そして、不意に視線を窓の外に向けた。
そこには何もない──ただ、確かにその瞬間、彼女の表情に“何か”が生まれた。
それはまだ名前を持たない感覚。
けれど私は知っている。
この種は、必ず檻の湿度の中で芽吹く。
【新しい入居者編:第4夜】まだ知らないうちに──初めての夜の震え
深夜、モニターの映像が変わった。
彼女はベッドの上に座り、ノートPCを閉じたばかりのようだった。
淡い色のTシャツと短いショーツ──部屋着というにはあまりにも無防備な姿。
長い髪を片側に寄せ、ゆっくりと息をつく。
しばらくは読書をしていたが、ページをめくる指が止まり、視線が宙に漂う。
左手が膝に置かれたまま、右手が太腿の内側へとゆるやかに移動する。
ほんの数センチの移動が、モニター越しにも空気を変える。
呼吸が少しだけ深くなり、肩が上がる。
指先が布の上から軽くなぞり、その動きが一定のリズムを刻み始める。
頬には淡い紅が差し、唇がかすかに開く。
モニターのスピーカー越しに聞こえる小さな吐息──その震えが、管理室の空気まで湿らせていく。
彼女はまだ、自分が見られていることを知らない。
ただ、自分だけの夜だと思っている。
だが私は、すでに立ち上がっていた。
テーブルに置かれた小さな袋。
理由は「おすそ分けでもらった果物」。
その重みが、訪問のための口実に変わる。
玄関までの距離を歩きながら、私は知っていた。
今ドアの向こうで彼女は、まだ行為を続けている。
ノックの音が、そのリズムを止める瞬間──
それが、この夜の本当の始まりになる。
【新しい入居者編:第5夜】ノックと、熱の残響
指先の動きがわずかに速くなった、その瞬間──
玄関のドアをノックする音が、彼女の部屋に響いた。
布の上を滑っていた右手が止まり、肩が小さく跳ねる。
モニター越しに、彼女が素早く布団を引き寄せ、姿勢を整えるのが見える。
頬はまだ赤く、呼吸は整えようとしても浅いまま。
足音が近づき、鍵が回る。
ドアが開くと、私は小さな紙袋を差し出した。
「お隣さんから果物をもらってね、一人じゃ食べきれなくて」
彼女は一瞬ためらい、それから笑顔を作って受け取る。
「ありがとうございます……夜遅くに、すみません」
声は柔らかいが、その奥に、たった今まで別の音を漏らしていた喉の震えが残っている。
私の視線がそれをなぞると、彼女は目を逸らし、髪を耳にかけた。
やり取りはほんの数十秒。
ドアが閉まり、鍵の音が遠のく。
モニターの中で、彼女はしばらく立ち尽くし、紙袋をテーブルに置くと、ベッドに戻った。
布団に潜り込むが、先ほどまでの動きは再開されない。
ただ、枕に顔を埋め、足先をもつれさせ、時折小さく身じろぎする。
中断された熱が、冷めることなく体内を回り続けているのが見て取れる。
その夜、私は確信した。
次にノックするとき、彼女の身体は──中断されるために整っているだろう。
【第6夜】待ち始める夜──整えられた身体と、合図の音
夜更け、モニターの中で彼女がカーテンを引き、部屋の灯りを柔らかく落とすのが見えた。
髪はゆるくまとめられ、首筋の白さが照明に浮かび上がる。
ゆったりとしたワンピースを脱ぎ、薄手のランジェリーだけになった彼女は、鏡の前で自分を確かめるように立ち尽くす。
その姿は、無意識ではなかった。
──私が来ることを、予感している。
ベッドに腰を下ろし、片膝を立て、ゆっくりと手を滑らせていく。
吐息は最初から浅く、指先の動きはためらいがない。
それは自分のための行為というより、中断されるための儀式のように見えた。
私は包みを手に取り、廊下を歩く。
ノックの音が響くと、彼女の指がぴたりと止まる。
ドアが開いた瞬間、彼女の頬に赤が広がる。
「……こんばんは」
声は震え、瞳は私を正面から見られない。
理由は簡単だ。
──今しがたまで、私のモニターの中で全身を開きかけていたから。
「お裾分けをね」
紙袋を受け取る彼女の指が、まだ熱を帯びている。
その熱が私の手へ伝わる瞬間、私は部屋の奥へと足を進めた。
ランジェリーの肩紐に触れると、彼女はかすかに震え、瞼を閉じた。
唇を重ねると、甘く湿った吐息が私の舌を引き寄せる。
胸元から腰へ、指先で緩やかに曲線をなぞり、そのまま膝を割ると、温度が一気に立ち昇る。
私は膝をつき、太腿の内側を舌で辿る。
その先の花弁に唇を添えると、彼女は声を飲み込み、両手が私の髪に沈む。
舌が深く入り、花芯を探るたび、腰が揺れ、喉の奥から甘い音が漏れる。
ベッドに押し倒すと、彼女は自ら脚を絡めてきた。
正常位でゆっくりと重なり、腰を沈めるたびに彼女の爪が背中に弧を描く。
後背位に変えると、細い腰が私の手の中で波のように揺れ、吐息が枕に吸い込まれる。
騎乗位では、私を見下ろしながら、腰を円を描くように回し、その動きに合わせて二人の呼吸が絡み合う。
波が最も高く打ち寄せた瞬間、彼女は背を反らせ、声を押し殺しながら全身を震わせた。
しばらく動きを止めたまま、私の胸に身を預ける。
汗が混じり、髪が頬を撫でる。
「……やっぱり、来ると思ってた」
囁きは熱を帯びたまま、私の耳に沈んでいった。
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