部長、僕の子種で孕んでください…。 新卒2年目の僕が妊活中のパワハラ女上司を妊娠させる種付けサービス残業 水野優香
部下・堀内と上司・優香――立場も年齢も違う二人が、雨の夜にふと触れた孤独から崩れていく。
厳しさの裏に潜む女の寂しさ、若さに宿る無鉄砲な衝動。
閉ざされた空間の中で理性と本能がせめぎ合い、観る者の心を静かに締めつける。
マドンナならではの成熟した演出と、水野優香の繊細な表情が胸に残る、心揺さぶる官能劇。
【第1部】静かな檻──叱責の奥で目を覚ます欲望
出張前夜のオフィスは、蛍光灯が神経のように白く震えていた。
コピー機の唸りだけが時間を刻み、残業に取り残された二人の呼吸を浮かび上がらせる。
彼女の名前は水野優香（みずの・ゆうか）、三十七歳。
東京・中野の古いマンションに住み、結婚七年目。
家庭では“妊活”という言葉に縛られ、会社では“結果”という言葉に追われていた。
そのどちらにも応えようと、彼女の心はいつも少し擦り切れていた。
そして僕は堀内蒼真（ほりうち・そうま）、二十五歳。
福岡から上京して二年、社会人としてはまだ子供だ。
上司の叱責に顔を伏せながらも、彼女の声の奥にある震えを聴いていた。
言葉よりも、その呼吸が気になった。
「……また報告書、ズレてるわよ」
優香の視線は冷たく、それでいてどこか潤んでいた。
蛍光灯の白に透ける頬の血管、その陰影に目が離せなくなる。
彼女の言葉が胸に突き刺さるたび、僕の体は妙な熱を帯びていく。
その夜、窓の外では雨が降りはじめていた。
オフィスのガラス越しに映る彼女の横顔が、誰かを待っているように見えた。
「……明日、早いんだから。帰りなさい」
その声には叱責よりも、何かを押し殺したような優しさが混じっていた。
僕は席を立ちながら、ふと彼女の机に置かれた小さなメモ帳に気づいた。
「排卵日」「通院」――そんな文字が、ペンの跡ごと残っていた。
誰にも見せない秘密のように。
あの瞬間、僕の中で何かが動いた。
それは恋でも憧れでもなく、もっと原始的で抗えないもの。
“この人の孤独を埋めたい”という衝動だった。
【第2部】ラブホテルの雨──沈黙が肌になる夜
出張先の名古屋は、思いのほか早く夜を連れてきた。
会食が長引き、終電を逃した僕らは、ビジネスホテルを何軒も回った末に、
最後に残った赤いネオンの建物を見上げた。
「……他に、空いてないみたいですね」
僕がそう言うと、優香は一瞬、言葉を失ったように目を伏せた。
「仕事なんだから、変な意味じゃないわよね」
その声の奥に、理性の糸がかすかに震えていた。
部屋に入ると、甘い香りが鼻を刺した。
柔らかすぎる照明、無音のテレビ。
湿った空気の中で、雨音だけが外から流れ込んでくる。
優香はスーツのジャケットを脱ぎ、白いブラウスの袖をまくった。
首筋に滲む汗が、細い線を描いて鎖骨に落ちる。
「……最悪ね、こんな場所で」
彼女は笑おうとしたが、その声には疲労と何か別の色が混じっていた。
僕はベッドの端に腰を下ろし、ペットボトルの水を差し出した。
指先が触れた瞬間、時間が止まったように感じた。
それだけで、体の奥に鈍い痛みが走る。
「堀内くん」
その呼び方が、いつもより柔らかかった。
「あなた、どうしてそんな目で見るの？」
「……優香さんが、綺麗だからです」
言葉が落ちた瞬間、沈黙が部屋を満たした。
優香は視線を逸らさなかった。
まるで、その言葉の続きを待っているように。
雨音が強まり、二人の間の距離をぼやかしていく。
「……私ね、子どもが欲しいの」
その一言は、告白というより祈りに近かった。
誰かに届くことを諦めた声。
僕はその震えを、雨と一緒に胸の奥に吸い込んだ。
ベッドサイドのランプが、ふたりの影を重ねる。
言葉を交わすたび、空気がゆっくりと熱を帯びていく。
肌はまだ触れていないのに、境界が曖昧になる。
「堀内くん……そんな目、しないで」
「すみません……でも、止められません」
その返事に、彼女は何も言わなかった。
ただ、まぶたを閉じた。
その夜、まだ何も起きていない。
けれど、何かが起きてしまったあとのような匂いが、
部屋の隅に、確かに漂っていた。
【第3部】朝焼けの鼓動──罪の奥に宿るもの
夜が明ける少し前、
薄いカーテン越しに差し込む光が、二人の輪郭を静かに分けていった。
雨はやんでいた。
それでも空気には、まだ昨夜の湿り気が残っていた。
優香は鏡の前に座り、髪を結い直していた。
乱れたままのシャツのボタンをひとつずつ留める仕草が、
どこか儀式のように見えた。
それは、彼女が「上司」に戻るための鎧を着る動作だったのかもしれない。
「……何もなかったことにしましょう」
背中越しにそう言った声は、凪いだ湖のように静かだった。
けれど、その静けさの下には確かに波がある。
触れたこと、抱きしめたこと、
名前を呼んだ瞬間の熱――それらはまだ彼女の肌に残っている。
僕は何も言えず、ただその姿を見ていた。
机の上に置かれたペットボトルの水が、朝日を受けて光る。
透明なその光が、まるでふたりの罪を洗い流そうとしているようだった。
「堀内くん」
優香は、少しだけ振り返った。
「あなたのせいじゃないわ。……ただ、少しだけ救われたの」
彼女の笑みは儚く、それでいて生々しかった。
人が生きることの痛みと美しさが、ひとつに溶けていた。
出張の帰り道、窓の外の景色がゆっくりと流れていく。
眠る街、揺れる線路。
僕の胸の奥では、まだあの夜の雨音が響いていた。
“孕む”という言葉が、意味を変えて響く。
それは生命ではなく、何かを受け入れて変わってしまうこと。
優香の中に宿ったのは、もしかすると罪ではなく、
新しい「生」そのものだったのかもしれない。
【まとめ】濡れた記憶の奥で──触れたのは欲望ではなく、生の確かさ
あの夜を思い出すたび、雨の匂いが蘇る。
触れた指先の温度、息の揺れ、そして名前を呼ぶ声。
それらは罪ではなく、生きているという感覚そのものだった。
水野優香という女性は、ただ妊娠を望んでいたわけではない。
自分の中の「空白」を満たす何かを探していたのだ。
堀内蒼真もまた、その空白に手を伸ばし、
他人の孤独を抱きしめることで自分の存在を確かめようとした。
二人を結んだのは愛でも不倫でもない。
人間という生き物の根源的な寂しさ――
そこから生まれる一瞬の共鳴だった。
朝の光がその夜を塗り替えても、
彼女の声は耳の奥に残り続ける。
あの沈黙の中で交わされたものは、
行為の記憶ではなく、「生きること」の証明だった。
誰かを求めること。
それは、誰かの中で自分を見つけたいという祈りだ。
そしてその祈りこそが、人間のもっとも官能的な衝動なのかもしれない。
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