【第1幕】息子がいない午後、代わりに来たのは──私を“女”として見た彼だった
土曜の午後。
晴れているのに、どこか空気の抜けたような静けさが、家の隅々に染みこんでいた。
夫は三日前から、長期出張で不在。
息子は大学のバスケ部の合宿で地方へ行っており、帰ってくるのは一週間後。
朝からキッチンもリビングも、一度も誰にも呼ばれていない。
テレビをつける気にもなれず、
煮詰まりかけた紅茶を片手に、ソファに沈んだ。
“こんな時間、いつぶりだろう”
身体はゆるんでいるのに、心はどこか張り詰めていて。
その隙間に入り込むように、玄関のインターホンが鳴った。
「……え?」
画面に映った顔に、思わず身体が前のめりになる。
──颯太。息子の親友で、よく家に来ていた子。
かつて「おばさん」と呼んでいたあの少年が、
数ヶ月ぶりに目の前にいた。
「こんにちは……◯◯さん、久しぶりです」
「どうしたの? ◯◯なら合宿よ?」
「あ、やっぱり……忘れてました……」
そう言って、彼は小さく笑った。
あどけなさの残るその顔に、うっすらと男の輪郭が刻まれている。
長身になった背中、伸びた前髪、声も少し低くなっていた。
けれどなによりも、違っていたのは──
彼が私をまっすぐに見つめる、その目だった。
「せっかくだし、ちょっとお茶でもどう?」
私は、自分でも驚くほど自然にそう言っていた。
玄関の鍵を閉めて振り返ったとき、
背後に立つ彼との距離が、以前よりもずっと近く感じられた。
「……温泉?」
紅茶を出したあと、テーブルの端に置いていた白い封筒に、彼が目を留めた。
「ああ、それ。懸賞で当たったの。ペアの宿泊券」
「すご……」
と彼は言い、指先で紙をつまんだ──そのとき。
ふと、彼の指が、私の指にふれた。
一瞬の接触。
ほんの、指の背と背が、重なっただけ。
なのにその場所から、電流のような熱がじんわりと肌の奥へ染みていく。
身体が、わずかに震えた。
「温泉とか、行ったことないんです。家族でも行かなかったし……」
彼の横顔が、かすかに寂しげにゆれる。
「……じゃあ、行ってみる?」
それは、冗談のつもりだった。
でも口にした瞬間、声が少し震えていたのを自分でも感じた。
彼は一瞬目を見開き、それから黙って私を見つめた。
まっすぐに、怖いほど真剣に。
空気が、変わった。
室内に流れる冷房の音が、遠ざかる。
彼の瞳に映る自分の顔を見て、気づいた。
“この子……もう、子どもじゃない”
そんな当たり前のことを、私は肌で、呼吸で、骨で理解した。
「本当に……いいんですか?」
その声は震えていて、それでいて揺るぎがなかった。
私はなぜか、それ以上何も言えずに、ただ彼を見返すしかなかった。
「この家には……もう誰も来ないわよ」
口から漏れたその言葉は、まるで誰か別の女が囁いたみたいだった。
彼の目が、一瞬だけ揺れて、それでも逸らさずに見つめ返してくる。
皮膚がざわめく。
それは怖さではなく、
“女”として見られることを、久しく忘れていた私の奥底が
──ふるえていた。
それは、ほんの少しの“濡れ”だった。
けれどそのしずくは、
確実に私の中に広がりはじめていた。
【第2幕】理性を抱いたまま、脚をひらいて──彼の指が、私の“奥”を覚えさせた夜
──旅館に着いたのは、午後五時を過ぎていた。
チェックインカウンターでは、咄嗟に「主人が来られなくなって……」と微笑んだ。
けれど本当は、自分で自分に言い訳をしなければいけないようなことなど、もう何もなかった。
部屋に入ると、静かに引き戸が閉まる音がやけに大きく響いた。
和洋折衷の設え。琥珀色の間接照明。ひとつだけ置かれた、ダブルサイズのベッド。
「……ひとつなんですね、ベッド」
彼がそう呟いたとき、胸の奥が静かに疼いた。
「気になる?」
わざと笑いながらそう返したのに、喉の奥が乾いていて、声は震えていた。
「……いえ。でも、たぶん寝られないと思う」
その言葉に、私はどこかで覚悟を決めたような感覚がした。
露天風呂に入ったあと、浴衣に着替えて、二人で部屋に戻った。
缶チューハイとつまみを挟んで、ぽつりぽつりと他愛ない話をする。
けれど視線だけは、ふとした瞬間に交差して、逸らせなくなる。
「◯◯さん……綺麗です」
その一言が、堰を切ったように空気を濡らした。
ゆっくりと近づく彼の手が、私の髪に、肩に、触れていく。
唇がふれたとき、息が漏れた。
吸い込まれるように唇が重なり、ためらいもなく、舌がそっと差し込まれた。
「やだ……そんなの……」
言葉とは裏腹に、身体はもう、彼の熱に沈みはじめていた。
指先が、浴衣の下から脚をなぞる。
太もも、膝の裏、そして……
「触れていいですか」
その言葉だけで、奥がきゅっと疼いた。
「……うん」
掠れる声で答えた瞬間、指が、下着越しに私の湿りへとたどり着いた。
「……濡れてる」
囁くような声に、羞恥と快感が同時に押し寄せる。
──私は、二十歳の青年に、濡れていた。
彼の指が、下着の中へ。
花びらを探るように優しく、けれど確実に、敏感な部分へと触れてくる。
「やっ……そこ……」
腰が逃げるのに、指は追いかけるように動きを深くしていく。
舌が、首筋に落ちたとき、もう声を堪えられなかった。
「……お願い、もっと……」
快感は羞恥を溶かし、羞恥は理性をほどいて、
私は、彼の指の動きに合わせて、脚を自分からひらいていた。
【第3幕】絶頂に沈む夜、女として許された記憶
「……入れるよ?」
囁きとともに、彼の指が抜け、浴衣の裾がめくられていく。
太ももの内側に当たった熱、それは確かに“男”の証だった。
「大丈夫……して」
その一言を呟いた瞬間、すべての理性がほどけた。
彼が私の上に重なり、ゆっくりと、静かに差し込まれていく。
濡れきった膣がその熱を迎え入れ、奥へ奥へと導いていく。
「んっ……っ……」
思わず声が漏れた。
深く満たされていく感覚に、身体の奥が震える。
「きつ……すごい、です」
息を呑むような彼の声に、羞恥と喜びが重なり合う。
ゆっくりと動き始める腰。
ひと突きごとに、膣が啼き、奥が蕩けていく。
「もっと……動いて……」
懇願するような声を出しているのが、自分だとは思えなかった。
彼の手が私の脚をすくい上げ、腰の奥へと深く挿れられていく。
次第にスピードが上がり、打ちつけられる熱に、私はただ、甘く喘ぐことしかできなかった。
背を反らせ、彼の肩に爪を立てる。
目を閉じると、身体中が彼で満たされていく快感に震え、
「……イく……あっ、イく……っ!」
絶頂は波のように、押し寄せては引いていき、
気づけば私は、彼の胸に身体を委ねていた。
──まだ終わらない。
彼は体勢を変え、後ろから私を抱きしめたまま、再びその熱を奥へ押し込んできた。
「……もっと、感じさせたい」
その囁きに、心がほどけていく。
ゆっくりと、でも深く──
私はその夜、何度も何度も、彼の中に溺れていった。
そして朝。
カーテンの隙間から差し込む陽に照らされながら、
私は彼の腕の中で、静かに目を閉じた。
「……ありがとう」
その言葉が漏れた唇に、彼がそっとキスを落とした。
私の中の“女”は、確かに──あの夜、生まれ変わった。
すでに感じてしまったなら…次は“本物”を。




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