第1幕:スプリングコートの奥で、春が目覚める
スプリングコートの内側に、ふいに春が咲いたような気がした。
軽やかなウッドブラウンのミニワンピースが太ももを撫で、
レースの下着は——まるで秘密を抱くためだけに選ばれた布地だった。
去年の暮れから通い始め、今日で三度目の来店。
2月には、ほんの少しの勇気と一緒にバレンタインチョコを手渡した。
「また、お待ちしてます」
彼の声の中に、優しさ以上の“何か”が滲んでいた気がして。
今回は時間延長をお願いした。理由なんて、もう要らない。
カウンターでコートを預けると、空気が変わる。
ストッキングを脱ぐ瞬間、指先がふと震えた。
施術台に横たわり、大判のタオルに包まれると、
自分の心音だけが、全身の皮膚に染み込んでいくようだった。
オイルを温める音。
すっと近づく気配。
太腿に触れる前の、あの“ほんの一瞬の沈黙”が、たまらなく好き。
くるぶし、土踏まず、足の指。
丁寧に揉まれるたび、身体がほどけていく——
けれど、股関節だけは、なぜか反対に固まっていく。
その部分だけが、どんどん熱を帯びて、喉が乾いてゆく。
心と身体が、真逆の方向へ、同時にほどけていく。
第2幕:指の鼓動、奥まで届いて
「脚、開きますね」
その声に、微かに頷いたつもりだったのに、
自分でも知らぬ間に、太ももは緩やかに開いていた。
腰骨の両側から、オイルを馴染ませた掌が沈んでくる。
そのまま、ゆっくり太腿へと滑る動き——
なめらかで、でも確かに“揺れている”指の腹。
それが、まるで身体の奥にある“何か”を目指してくるようで、
私は無意識に、腰をその指に迎えに行っていた。
指の振動が、直接触れていない部分まで響いてくる。
骨盤の内側、膣の奥、心の底——
触れていないはずなのに、すでに反応してしまっている。
白いカーテン一枚の仕切り。
すぐ隣に、誰かの寝息が聞こえる。
でも、その中で確かに聞こえた。
自分の吐息。
濡れた音。
下腹部を震わせる、かすかな“ジュ”という音。
それが聞こえた瞬間、私はすべてを諦めた。
——感じてしまおう。
——どう思われても、もう構わない。
彼の両手が、腰を撫でながら、臀部へと。
そして、まるで見透かすように、クリ周辺を撫でるだけで、
腰の奥でなにかが反応し、
膣の中から、こみあげるような震えが走った。
「……あっ……」
意識の奥で小さく、浅く、でも確かに。
軽く吹いた。
その一滴で、身体の芯に火が点くような感覚が走る。
第3幕:チョコレートより甘い余韻
施術後、借りた部屋着のままトイレに向かい、
下着を着替える指先がまだ震えていた。
太ももに残ったオイルがぬるくて、
それだけでまた、あの瞬間が蘇る。
鏡を見ると、ほんの少し目が潤んでいた。
ハグされたときに感じた、彼の体温。
それはきっと、チョコの効果じゃない——
彼の“応え”だったのだと、思いたかった。
「また、来てくださいね」
そう言って、彼はふわりと私を抱いた。
その腕の中に、あのときの手の温もりが、
たしかに重なっていた。
部屋着を返し、靴を履きながら、
私はまだ、膣の奥に震えを残したまま、
その余韻だけを連れて帰った。
コートを羽織ると、風が少し冷たかったけど、
内側にある春だけは、まだ熱を持っていた。



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