第一章 研ぎ石の音が止まった午前
山形の畑作地帯では、夏の陽が早い。夫の蒼翔も娘の凪紗も、日の出前に出て行った。私はいつものように納屋へ入り、草刈り機の刃を砥石に当てた。麦わら帽子の下、額に汗が滲む。嫁いで二十年、この作業は私の時間だった。誰にも見られず、誰にも求められず、ただ刃を整える。それが安堵であり、同時に、胸の奥の空洞でもあった。
「こんにちは」
声は、砥石の音より小さく、しかし確実に背中へ届いた。肩が跳ねる。振り返ると、白いシャツにジーンズの細身の青年が戸口に立っていた。隣家に春から下宿している大学一年、中村叶翔くん。顔は知っていた。言葉を交わしたことは、ほとんどない。
「刃が欠けているんですか」
「少しだけ。草の伸びが早くて」
彼は陽に焼けた腕をまくると、私の隣にしゃがんだ。若い草の匂いと、微かな石けんの香り。距離が近い。息を合わせたくなる近さだった。
「手伝わせてください」
その一言で、指先が砥石の上で止まった。私は人の手伝いを受けるのが苦手だ。頼られる側でいる方が、楽だから。なのに、彼の眼差しは、私を「整える側の女」としてではなく、「今、ここにいる女」として見ていた。それが、怖かった。同時に、長いあいだ蓋をしていた場所が、熱を持ち始めた。
第二章 油の匂いと、許してはいけない指
納屋の空気は、次第に湿った。私は部品を渡し、彼は黙って受け取る。指が触れるたび、胸の奥が小さく縮む。私は本来、慎み深い人間だと思っていた。家族を優先し、欲を後回しにする。それが正しいと信じてきた。けれど彼が覗き込むたびに、視線が肌を撫でるたびに、正しさの外側が疼いた。
「斎藤さん、手元が綺麗ですね」
突然の言葉に、声が出ない。
「……若い人が、何を」
言い切る前に、彼の手が重なった。研ぎ油の残る指が、私の手の甲に吸い付く。熱い。柔らかいのに、逃げられない。
「だめ」
唇が震えた。その震えが、拒否ではなく招待に聞こえたのだと、あとから分かる。
木壁に背を預けた瞬間、彼の身体が覆ってきた。シャツのボタンがひとつ外れる。またひとつ。汗と土の匂いのなか、胸が空気に触れる。掌が膨らみを包み、先が硬くなるのを、彼は親指でゆっくり転がした。私は目を閉じた。閉じた闇の向こうで、自分の呼吸が乱れていく。
「触れていい、と言ってください」
丁寧な声なのに、内容は容赦がない。私は小さく頷いた。頷いた自分が、恨めしかった。同時に、安堵していた。
唇が首筋に落ち、耳の後ろを浅く噛まれる。声が喉の奥で潰れる。彼の手が腰を巡り、スカートの内側へ入る。太腿を撫で上げられ、秘部に指が触れたとき、膝が笑った。すでに熱く、濡れていた。花びらをなぞる指は急がず、入り口を円く撫で、ゆっくりと中へ沈む。一本。内側の襞が吸い付く。二本。奥を探るように曲がる。
「中が、熱い。締まってます」
耳元の声が、理性を溶かす。私は彼の肩を掴んだ。痛みも快感も、同じ場所から来ていた。
彼は膝をついた。スカートをたくし上げ、秘部に顔を寄せる。熱い息が当たるだけで腰が浮く。舌が割れ目をゆっくり分け、小さな突起を含んだ。吸われる。転がされる。時折、浅く歯が当たる。脚が開いていく。恥ずかしいという感情は、欲の奥へ沈んでいった。私は帽子を掴んだまま、天井の梁を見た。見てはいけないものを見ているような、自分の身体だった。
「立ったままは、辛いでしょう」
彼は立ち上がり、古い作業台の端に私を座らせた。ジーンズを開き、硬い熱が解放される。先端が濡れた入り口に触れる。目が合う。彼は確認するように、もう一度だけ待った。
「入れて」
自分の声とは思えなかった。短く、渇いて、正直だった。
ゆっくりと、奥へ埋まっていく。押し広げられる感触、根元まで届いたときの充満。二人とも息を止めた。彼は動かない。額を寄せ、髪を耳にかける。その優しさが、かえって内部を疼かせた。私の方が先に腰を揺らした。小さく、試すように。彼はそれに応えた。
第三章 声を殺した午後と、残る熱
作業台が小さく軋む。腰が当たるたび、奥の一点が proto される。彼の手が腰を支え、角度を変える。鋭い電流が背を駆けた。私は彼の背中に爪を立て、声を肩に噛みつけるようにして殺した。
「紬葵さん……中が、吸ってくる」
名前を呼ばれるたびに、内部が締まる。私は耳元で、初めて欲を言葉にした。
「奥を、擦って。逃げないで」
リズムが速くなる。若い力に任せた動きが、深部を繰り返し貫く。汗が滴り、胸が重なり、吐息が混ざる。彼の指が再び先を摘まみ、転がす。感覚が重なった。波は小さく始まり、次に大きく、全身を弓なりに反らせた。内部が痙攣し、彼を強く締め付ける。その締め付けに、彼も深く埋めたまま熱を放った。脈打つ感触が、内側に残る。
まだ足りなかった。
私は彼の胸を押し、自分から台を降り、木の柱に両手をついた。後ろを向く行為は、自分でも信じられなかった。けれど身体が、続きを知っていた。彼は静かに位置を合わせ、再び奥まで沈める。この角度は、先ほどの場所を別の方向から擦る。膝が震え、額が柱に付く。彼の手が腰を掴み、引き寄せるたびに、蜜が太腿を伝った。
「声、漏れてます」
「……知ってる。止めないで」
短いやりとりが、恥を快感に変えた。私は柱に額をつけたまま、自分の腰を戻した。欲しい深さを、自分で決めた。それが、二十年後回しにしてきた私の、最初の我儘だった。
二度目の頂点は、前より静かで、前より長かった。内側が波打ち、彼の熱を搾るように収縮する。彼もまた、低く息を詰めて、奥に残した。抜けたあと、熱いものがゆっくりと溢れる感触だけが、現実を教えてくれた。
しばらく、動けなかった。遠くで蝉が鳴き、畑の方から風が吹く。時間が、遠慮がちに戻ってくる。
彼は私の背中に一度だけ唇を落とし、何も言わずに服を整えた。戸を閉めていく後ろ姿を、汗のまま見送った。刃は、途中までしか研げていない。
夕方、家族の笑い声が縁側まで届く。私は台所に立ち、いつもの包丁を握った。手が、まだ熱を覚えている。忘れることはできない。忘れたくもない。乾いた土に、一度だけ降った雨のように。
慎み深い私の内側に、あんなに飢えた女がいた。叶翔くんは、それを引き出しただけなのか。それとも、私が最初から、引き出されるのを待っていたのか。答えは出ない。出ないまま、今夜も、奥のどこかが小さく脈を打っている。
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