【第1幕:彼女の肌から、別の温度がした】
気づいたのは、ごくささいな変化だった。
唇の温度、香水の香り――いつものはずなのに、どこか“違う”。
見慣れた後ろ姿に、知らない女の気配があった。
それでも、俺は見ないふりをした。
疑うより、壊れる方が怖かった。
その夜、彼女がシャワーを浴びているあいだ、
ふとベッドサイドの引き出しに触れた。
鍵が開いた音が、小さく、やけに大きく響いた。
中にあったのは、黒いレースのガーター。
俺とは、一度も使ったことのないものだった。
まだ湿った香りが、指先に残った。
それが、なぜか――興奮に変わった。
彼女の身体が、俺の知らない誰かに抱かれたという現実が、
想像を、いや、妄想を、肥大させていく。
彼女が誰かに乱され、
誰かの舌に濡れ、
誰かの中で震えていたのだとしたら――
俺は、それを“見たい”とすら思ってしまった。
おかしいのは、たぶん俺の方だ。
【第2幕:抱かれる彼女を、心の奥で見ていた】
ベッドの中、彼女が眠ったふりをして背中を向けていた。
その首筋にキスを落とすと、
わずかに肩が揺れた。
声にはならない呼吸が、夜の空気に沈む。
俺の指が彼女の腿をなぞっても、
彼女は身体を寄せてこない。
でも、逃げもしなかった。
ゆっくりと、唇を這わせていく。
脚の間に手を差し入れると――
そこはもう、濡れていた。
「……誰に、こうされたの?」
耳元でささやいても、彼女は黙ったまま。
その沈黙が、答えだった。
俺の舌がそこを舐め上げると、
彼女はほんの少し、喉の奥で喘いだ。
けれど――その声は俺のためのものじゃない。
彼女の身体の奥には、もう別の“記憶”が埋め込まれていた。
知らない誰かに開かれた膣の感触を、
彼女は、まだ忘れていない。
その残像をなぞるように、
俺は舌を動かし、指を沈めていった。
まるで、そこに刻まれた他人の痕跡を、
なぞるように。
【第3幕:奪われた先に残る、熱の記憶】
「……中でイケないんじゃなかったの?」
そう言っていた彼女が、
今、俺の指の中で何度も震えている。
目を閉じて、涙をにじませながら、
シーツを握り、声を押し殺してイっている。
俺が与えた快感じゃない。
彼女の奥に残る、誰かの“記憶”が反応しているだけだ。
それでも構わない。
そう思ってしまう自分が、もう壊れている。
「気持ちいい?」
問いかけると、彼女は黙ったまま、首を横に振る。
なのに、脚は開かれたままで、
吐息は、熱く、甘く、乱れていた。
俺は彼女を貫きながら、
その目の奥に、別の男の影を見る。
「……誰に、こう教わったの?」
彼女は唇を噛んで、答えなかった。
だが、その締めつけだけが――
俺に嘘をつけなかった。
汗に濡れた太ももと、まだ揺れている胸。
そして、触れた指先に絡みつく、熱と湿度。
最後に彼女が見せた微かな笑みが、
俺にとっての絶頂だった。
ああ、もう彼女は――
完全に、俺だけのものじゃない。
それでも、彼女がそこにいて、
俺を受け入れたという“記憶”だけが、
今も、身体の奥で疼いている。



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