【第1部】孤独に沈む夜、足音の主は白衣の女神だった
インカレ前の、最も大切なタイミングだった。
足首の鈍い音と共に、僕の季節は止まった。
――全治三週間。
靭帯損傷と小さな骨折。
試合には間に合わない。
それどころか、チーム練習も一切禁止。
その日の午後、処置室で医師の言葉を聞いた僕は、
ただうなずくしかできなかった。
あまりに唐突で、感情が追いつかなかった。
部屋に戻ったあと、スマホに次々届くLINEはすべて未読のままにして、
体育会の仲間たちの笑い声が遠くで響く中、
僕は個室の天井だけを見つめていた。
大学1年の春。
Aチームに残った唯一の1年生として、期待されていた。
けれど、その期待が重さに変わるより早く、僕はベッドに縛られることになった。
「……高野くん?」
その夜だった。
ノック音もなく、部屋のドアが静かに開く。
暗がりに立っていたのは、
この数日、僕を担当してくれている看護師だった。
37歳。
落ち着いた立ち振る舞いと、やや低めの声。
年齢を感じさせない端整な顔立ちの人で、
彼女の名札には「篠原」と書かれていた。
「ごめんなさい、もう寝てた?」
「……いえ、寝れなくて」
それが嘘だと気づいているように、
彼女はそっとベッド脇の椅子に腰を下ろす。
「ねえ、バスケの夢、見てた?」
「……夢じゃないです。まだ」
声が詰まりかけて、喉がひりついた。
「悔しいね、今だったもんね」
僕は答えられなかった。
目が合うと、何かが崩れそうで。
視線を逸らすことしかできなかった。
彼女の指先が、僕の手の甲に触れた。
点滴針のすぐ横、静脈のわき。
柔らかい温度が、皮膚から深くに染み込んでいく。
「ねえ、泣いてもいいのよ」
その言葉が、なぜか一番こたえた。
「……泣いてません」
「泣かないのね、偉いわ」
笑ってる。
でもその笑顔に、僕の胸はきゅうっと締めつけられた。
その夜、篠原さんはしばらく隣にいてくれた。
テレビもつけず、スマホもいじらず、
ただ僕の呼吸と同じ速さで、そこに座っていた。
帰り際、彼女は一言だけ、ふわっと言った。
「また来るね。……あなた、すごく綺麗な目をしてる」
それが“患者”としての励ましじゃないことを、
僕はなぜか、身体のどこかで理解していた。
【第2部】静脈をなぞる指、熱にほどかれる傷口
──その夜も、眠れなかった。
痛みは引いていた。
でも、胸の中の疼きは、ますます増していた。
誰にも見られないこの個室の夜は、時間が異常に遅く流れていた。
深夜1時すぎ。
カツ、カツ、とヒールの音が近づいてくる。
「篠原さん……」
僕の声に、彼女は驚かなかった。
部屋の灯りは落ちたまま。
彼女は入口に立ったまま、ほとんど影のようだった。
「眠れないの?」
「……うん。来るの、わかりました」
「すごい勘。……じゃあ、少しだけ」
その“少しだけ”が、どれほど濃い時間になるかなんて、
そのときの僕には想像もできなかった。
彼女はゆっくりと近づいて、
今夜はベッドの端に腰かけた。
制服のスカートが、僕の太ももにかすかに触れる。
僕の左手をとり、掌を見つめるようにそっと撫でる。
「骨、綺麗ね。まだあどけない」
「……」
「手、触られるのって、嫌?」
「嫌じゃ、ないです」
むしろ、体温が逃げていくようで、離れてほしくなかった。
「ねえ、痛いところだけが、感じる場所じゃないのよ」
そう言って、彼女の指は僕の手の甲から、
腕の内側、肘のしわ、そして肩へと這いのぼってくる。
軽く、優しく、まるで肌の温度をなぞるような触れ方。
でも、それが逆に、僕の呼吸を乱した。
「……ドキドキしてる」
「……してません」
「嘘。脈が速い」
指先が、鎖骨の下を押さえる。
その先にある鼓動まで、すべて見透かされている気がして、
僕は視線を逸らした。
「高野くん」
呼ばれた名前に、また胸が跳ねる。
「……どうして、そんなふうに僕に」
言いかけた言葉を、
彼女は唇で塞いだ。
やわらかく、静かなキスだった。
でも、それはただの接吻じゃなかった。
──その瞬間、呼吸も、思考も、止まった。
唇の端を吸いながら、
彼女の手は、Tシャツの裾の中に潜り込んでいた。
腹筋のわき、肋骨の縁。
まだ汗の名残がある肌を、
彼女の指が溶かすように滑っていく。
「傷ついた身体は……余計に、触れたくなるのよ」
吐息まじりに囁く声が、耳に触れた。
僕の下腹部は、熱に支配されていた。
動かない足とは裏腹に、
身体の中心だけが異様なほどに昂っていた。
「……看護、ですか?」
意地を張るように言った僕に、
彼女は口元をゆがめて笑った。
「いいえ。……これは、治療じゃない」
彼女は、上にのしかかるわけでもなく、
ただベッドに片膝をつきながら、僕の腰に手を回した。
Tシャツがゆっくりと脱がされていく。
その間中ずっと、目が合っていた。
彼女の瞳は、何かを試すように、揺れていた。
「……触れていい?」
その声があまりにやさしくて、
僕は、ただ、うなずいた。
そのあと、彼女の指が僕の下腹部に触れたとき、
ほんの小さな声が漏れた。
「熱いのね……若いって、すごい」
僕の息が荒くなるたび、
彼女の呼吸も、それに合わせて深くなっていく。
シャツの胸元をはだけた篠原さんの首筋には、うっすらと汗が滲んでいた。
その艶に、僕の視線は釘付けになった。
「ねぇ……ここから先、進んだら、もう引き返せないのよ?」
「……僕、ずっと、誰にも触れられたことがないんです」
その一言に、彼女の動きが一瞬止まった。
そして、唇が近づいた。
「じゃあ……ちゃんと、教えてあげる。やさしくするわ」
その夜。
僕は初めて、”自分の意思で”唇を重ねた。
病室のベッド。
点滴の静かな音が、背景のように鳴り続けていた。
【第3部】許された背徳、静脈の奥にまで触れて
唇を離した瞬間、
篠原さんの目は、何かを決めたように強くなった。
「力、抜いて。……こわがらなくていいのよ」
彼女の手が、そっとパジャマのウエストに触れる。
一度も触れたことのなかった自分のその部分を、
誰かの手が包むというだけで、
背筋が痺れるほどの快感が走った。
「……あ」
吐息が漏れると同時に、彼女の手が指先でなぞる。
熱い血が集まって、ぴくり、と跳ねた僕の中心。
「恥ずかしがらないで。すごく……綺麗」
手の中で、僕のものが確かに反応しているのがわかる。
ゆっくりと皮を引くように、
敏感なところを指の腹で押し広げられる。
「うっ……」
「ね、気持ちいい?」
頷くこともできなかった。
彼女の指が上下に動き始める。
リズムは一定ではない。
時折、きゅっと握るように、
じらすように止めて、また滑らせてくる。
「こんなに硬いのに……声、出さないのね」
その言葉のあと、
彼女の唇が、そっと先端に触れた。
一瞬、全身の筋肉が固まった。
でも次の瞬間、ぬるりと熱を持った舌が、
鈴口の端からゆっくりと撫で上げた。
「う、くっ……」
「大丈夫……任せて」
そう言って、篠原さんは、
唇を開き、僕のものをゆっくりと咥え込んでいった。
舌先が裏筋を沿い、
唇が根元に向かって巻きつく。
「ん……じゅ……んちゅ……」
狭い病室の空気が、
その音だけで満たされていく。
口の中の粘膜が、ぬめりながら、
僕の硬さを確かめるように動く。
「……そんな、吸わないで……っ、あっ……!」
彼女の動きが、喉奥に届くたび、
足を動かせない分、腹筋が引きつって痙攣した。
ベッドのシーツを握る手に汗が滲む。
息がうまくできない。
でも、嫌じゃなかった。
怖くない、むしろこのまま──
「あぁっ……!」
射精しかけたのを察したのか、
彼女は唇を外し、熱の余韻だけを残して、僕を見つめた。
「まだよ。……あなたの中に、欲しいの」
そして、何も言わずに、
自分の白衣の下からナース服を脱ぎ、
静かにスカートをたくし上げた。
素肌が、月光に照らされる。
下着は──履いていなかった。
濡れているのが、視線だけでわかる。
彼女は僕の両脚の間にゆっくりと跨る。
騎乗位。
初めての体位なのに、
それがごく自然なことのように感じられたのは、
彼女の目が、ずっと僕だけを見ていたからだ。
「あたしが、動くから……力、抜いてて」
僕の先端が、彼女の入口に触れたとき、
ぐっ……と熱が走る。
そして、ゆっくりと、彼女は沈んでくる。
「ん……っ、あぁ……奥まで……すごい」
中は想像よりも、もっと熱くて、もっと柔らかくて、
ぎゅうっと締めつけながら、奥へと誘い込まれる。
「くっ、あっ……」
「いいのよ、もっと感じて……あなたの全部、欲しいの……」
腰が前後に揺れ始める。
ぐちゅ、ぬちゃ、と水音が響く。
篠原さんの中が、ぬらぬらと僕を撫でながら、
吸い込むように収縮していく。
「すごい……あなたの、熱いの、あぁ……止まらない」
彼女の顔が赤く染まり、
眉を寄せながら、僕の上で腰をぐるぐると回す。
快感が、視界を白く染めていく。
「篠原さん……もう、限界……!」
「いい、イッて……あたしも、もう……だめ……」
深く、奥まで飲み込まれた瞬間──
ビクンッ、と全身が跳ねた。
尿道を走る衝撃とともに、
僕のすべてが、彼女の奥に、解けるように放たれていった。
「んっ、あっ、あぁ……あぁっ……」
篠原さんも、僕の上で静かに震えていた。
その瞬間、
彼女の中にしかけた熱と鼓動が、ひとつになった気がした。
ベッドに身体を横たえながら、
まだ僕の上にいた彼女は、僕の髪を撫でた。
「……ありがとう。あなたの、最初が私で」
僕は何も言えなかった。
でも、泣きそうになっていた。
それは悔しさでもなく、情けなさでもない。
ただ、ひとりの女性に、
本当に触れられた──そんな熱が、皮膚の内側から消えなかった。
そして思った。
骨折した足以上に、
“心のなにか”が、ほどけていくような夜だった。



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