後日—交錯する視線
合宿が終わって数日後の週末、涼介は妻と息子を連れて我が家を訪れた。ミニバスの保護者同士として親交を深めるための小さな宴だった。
夫は仕事の部下である涼介を歓迎し、和やかな雰囲気の中で談笑が弾んだ。子どもたちはリビングでゲームをし、涼介の妻も私と共にキッチンで料理の準備を手伝った。
「合宿では本当にお世話になりました。」
涼介の妻が優しく微笑む。
「いえ、こちらこそ。子どもたち、ずいぶん楽しそうでしたね。」
「そうですね。帰ってからもしばらく興奮していました。」
当たり障りのない会話をしながらも、私の意識は別の方向へと向かっていた。
視線の端で、涼介がグラスを傾けながらこちらを一瞥するのを感じた。
それだけで、あの夜の記憶が鮮明に蘇る。
静かに進む時間
宴が進むにつれ、涼介の妻は子どもの疲れを気にして先に帰宅することになった。
「またお会いしましょう。」
彼女が玄関の向こうへと消えたあと、家の中には私、夫、涼介の三人が残った。
夫と涼介はすっかり意気投合し、グラスを重ねながら仕事の話やミニバスの話に花を咲かせていた。夫は職場での逸話を披露し、涼介はそれに笑いながら相槌を打つ。時折、子どもたちのプレーの成長について熱く語り合い、乾杯の回数が増えていく。
「合宿の時、うちの子は全然シュートが決まらなくてね。」
夫が苦笑交じりに言うと、涼介が肩をすくめる。
「でも、最後の試合ではしっかり決めてましたよ。やっぱり努力の積み重ねですね。」
「そうか……それを聞くと嬉しいな。」
夫は満足げに酒を口にし、そのままどっしりとソファに腰を落とした。
「こういう時間って、なかなかないよな。」
「そうですね。子どもがスポーツをしていなかったら、こうやって飲む機会もなかったかもしれませんね。」
涼介はグラスを揺らしながら微笑んだ。その視線が、一瞬だけ私の方へと流れたのを見逃さなかった。
私は食器を片付けながら、涼介の視線を感じ取っていた。
「ああ、いい酒だな……。」
夫は満足げにグラスを置くと、心地よい酔いに身を委ねるようにソファに身を沈めた。
「ちょっと横になる……。」
やがて静かな寝息が聞こえてくる。
再び交わる視線
涼介がグラスを回しながら、ふと私の方へ顔を向けた。
「麻美さん……。」
夫が眠る静寂の中、その声は不思議なほどに深く響いた。
「こんな状況……考えたことあります?」
彼の目が私を射抜く。
「……ダメよ。」
分かっている。それでも、心はすでに抗えなくなっていた。
涼介が静かに立ち上がり、私の側へと歩み寄る。
「それなら、今夜も……ただの麻美さんでいてください。」
彼の手がそっと私の指に触れた。その瞬間、体の奥底に秘めていた感情が大きく波打ち、禁断の愛が密やかに目覚めていく。背徳の夜に染まるように、ゆっくりと理性の境界がほどけ、熱が肌を伝って広がっていった。
静寂の中、彼の体温がすぐそばにあることを感じる。
夫の寝息が静かに響く部屋の中、私たちはまるで許されない罪を共有するかのように、互いの熱を確かめ合うように近づいていった。
私は彼の上に静かに身を預けた。夜の静寂が二人を包み、わずかな息遣いすら響くほどの密やかな時間が流れる。彼の指が私の腰を優しく支え、導かれるままに身体が揺れる。まるで波が寄せては返すように、私は彼の温もりを受け止めながら、その熱を全身で感じていく。
「麻美さん……あなたは、美しい……。」
涼介の低く甘い囁きが、火照った肌に響くたび、私の内側に眠っていた渇望が押し寄せる。
「……涼介……あなたが……。」
声にならない声を押し殺し、私は彼の胸に顔をうずめる。彼の手が私の背中を優しくなぞり、その指先がゆっくりと私を導く。まるで月の引力に引き寄せられる波のように、私たちは高まりながら一つになっていく。
彼の名を呼ぶたび、心も身体も限界まで高まり、やがて熱が最高潮へと達していく。
月明かりが揺れる室内、静寂の中で交わる二人の影は、夜の闇へと溶けていった。
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