クーラーの取り付け作業で、あんな体験をするなんて思ってもいなかった。
夏の暑さが本格的になった頃、現場の応援として回されたのは、住宅街にある少し高級そうな一軒家だった。
「奥さま一人で在宅、故障中のメインエアコンの即日交換希望」――という、少し無茶な案件。
正直、断る理由はいくらでもあったけれど、電話越しの声にほんのり艶があって、なんとなく引き受けてしまった。
玄関のチャイムを押すと、涼やかな鈴の音のような声で「はい」と応答があった。
扉が開いた瞬間、僕の喉が音を立てた。
白いシャツに薄いベージュのスカート。細い体つきの女性。
年上なのに、どこか少女のような雰囲気を残していて……でも、色気があった。
顔は、テレビで見たことがある中谷美紀に少し似ていた。正直、目が離せなかった。
作業を始めた部屋は、息苦しいほどの熱気に包まれていた。
それでも彼女は、黙って僕の近くに座っていた。
時折、冷たい麦茶を差し出してくれたり、氷を入れたおしぼりを渡してくれたり。
細やかな気遣いが、なんだか胸に沁みた。
ふとした瞬間、視界の端に映った彼女の胸元。
汗で濡れたシャツが、素肌に張りついていて――
下着をつけていないことが、透けた輪郭ではっきりとわかった。
一気に喉が渇いた。視線を逸らすのが、苦しかった。
でも、彼女は気づいていないのか、微笑んだまま「あと少しですか?」と話しかけてくる。
その無防備さが、余計に僕を掻き立てた。
ようやく工事が終わって、試運転。
冷風が出た瞬間、「わあっ!」と弾けるような声を上げた彼女が、僕に抱きついてきた。
一瞬、心臓が止まった。
ふわりと香る女の人の匂い。汗と石鹸の匂いが入り混じった、生々しくて甘い匂い。
逃げようとすればできたのに――できなかった。
むしろ、抱き返してしまっていた。
細い肩を両手で包んだ瞬間、彼女の身体が小さく震えた。
「ん……」
耳元で、信じられないくらい色っぽい吐息が漏れる。
目の前にある唇を、無意識に奪っていた。
キスは不器用で、ぎこちなかったと思う。でも彼女は逃げなかった。
むしろ、僕の首に腕を回して、しがみついてきた。
「だめ……ですよね……」
そう言葉にしようとした瞬間、彼女の脚の力が抜けて、僕の胸に全身を預けてきた。
床に座り込んだ彼女を、そっと抱き寄せてもう一度唇を重ねる。
シャツ越しに胸に手を伸ばすと、すでにそこは熱く、柔らかく、ぴくりと反応した。
「……触って……直に、触れて……」
震える声でそう囁かれたとき、僕の中で何かが切れた。
彼女のシャツを脱がせると、形の整った乳房が汗に濡れて艶めいていた。
指先で撫でると、肌が吸いつくように柔らかく、乳首は既にぴんと張っていた。
舌でゆっくり吸い上げると、彼女の腰が跳ね、甲高い声が上がった。
「い、いく……っ」
その言葉に驚いた。まだ何も挿れていないのに。
それほどまでに、彼女の身体は快楽に濡れていた。
スカートを捲り、ショーツを脱がせる頃には、彼女は僕の動きに身を任せていた。
気づけば、ソファに倒れ込み、彼女の脚を開かせ、僕のものを彼女の入り口に宛がっていた。
挿れた瞬間――
「あ……お、大きい……っ」
かすれた声と同時に、全身が締めつけられるような快感に包まれた。
彼女の中は、とろけるように熱く、ぬめりながらも奥へ奥へと僕を誘ってくる。
突き上げるたびに、はしたない喘ぎ声が響き、僕の理性を溶かしていった。
何度も何度も果てる彼女。
そのたびに僕は、自分の存在が許されているような錯覚に陥った。
彼女を抱き上げ、寝室へ移動すると、冷房の風が彼女の汗ばんだ肌を撫でていた。
でもすぐに、僕らはまた熱くなった。
奉仕してくれた彼女の口づけは、どこか切実で、健気で、懇願するように喉奥まで咥えてくれた。
その姿に、もう一度、彼女の中で果てたいという欲望が湧き上がる。
幾度目かの絶頂のあとも、彼女は僕を拒まなかった。
「もっと触れて……乳首、そこ……っ」
その声が、鼓膜に甘く残った。
シャワーで汗を流すと、彼女は僕の身体を丁寧に洗ってくれた。
そのまま再び僕のものを咥え、今度はまるで「離したくない」とでも言うように、ずっと口に含んでいた。
壁に手をつかせて、背後から貫いたとき、彼女は小さく震えながら、
「こんなこと、初めて……でも、いやじゃない……」と零した。
やがて、僕が着替えを済ませて玄関に立つと、彼女は全裸のまま出てきた。
あまりにも無防備で、あまりにも艶かしいその姿を、僕はこの先も忘れることはないだろう。
「また、呼んでくれますか?」
そう言って、彼女の頬にキスを落とした。
彼女の乳房をもう一度撫でながら、最後に深く唇を重ねた。
――あのときの汗は、誘惑の匂いだった。
それを知った僕は、もう二度と、ただの業者には戻れなかった。
数日後、また彼女の家を訪れた。
今回は「寝室のクーラーも調子が悪い」との依頼。
電話越しの声は妙に早口で、どこか落ち着きがなかった。
「今度は主人も家にいます。でも……大丈夫です、あの人、ゲームに夢中だから」
その言葉の意味を、僕は途中から何度も反芻していた。
“あの人”というのは、彼女の夫のことだ。
“ゲームに夢中だから”というのは……つまり、見ていないという意味で。
真夏の午後、再び玄関のチャイムを押した。
応答はない。少しして扉が静かに開くと、彼女がそっと顔を出した。
「……こっち、静かに」
いつもと違う緊張を含んだ目。口元はかすかに笑っていたが、全身がどこか火照っているように見えた。
彼女に導かれ、廊下を進む。
寝室のドアの先に、問題のエアコンがあるらしい。
その途中、リビングのソファで背中を丸め、コントローラーを握る男性がいた。
無言で、画面の中にすべてを注いでいる。
まさかその部屋のすぐ隣で、僕が何をするつもりなのか――彼は、何も知らない。
寝室は薄暗かった。
カーテンが閉められ、冷気のない空気がこもっている。
静かに工具を並べ、僕はエアコンを開けた。
後ろで彼女が見つめている気配がした。
振り返ると、ベッドの端に腰掛け、両手を膝に置いていた。
足元は裸足。ネイルが綺麗に揃っていて、ピンクの光沢が柔らかく光っていた。
「……この部屋、あの日のこと思い出すんです」
ぽつりと呟いたその声に、喉が詰まった。
「もう、あの時みたいには……ならない方がいいですよね」
なのに、そう言う彼女の目は、僕の手元ではなく、腰のあたりを見ていた。
その視線に、僕の中で何かが静かに膨らんでいくのがわかる。
作業は、少し手間取ったふりをした。
すぐ終わらせる気には、なれなかった。
この空気の中で、彼女の温度をもう一度感じたかった。
ふと後ろを振り返ると、彼女は立っていた。
何も言わず、僕の背後に立ち、手を背中にそっと添えてくる。
そのまま、首筋に唇が落ちてきた。
「……ほんの少しだけ」
耳元でそう囁かれ、僕の理性は音を立てて崩れた。
ベッドの脇で、彼女のワンピースが音もなく滑り落ちる。
乳房があらわになり、先端は既に硬く尖っていた。
そのまま押し倒すようにしてベッドに彼女を寝かせると、
「……声、出せないの……ね? お願い……」
と、か細い声で懇願された。
彼女の太ももを割るようにして身を沈める。
挿れた瞬間、きゅう、と締めつける感触に息が漏れる。
声を出さないように、彼女は唇を噛んで僕を見上げていた。
その瞳が、涙を浮かべるほどに切実だった。
ベッドが軋むたび、リビングに届くかもしれない音を恐れて、
僕らはただ、むさぼるように身体を重ねた。
彼女の乳首を口に含むと、くぐもった喘ぎ声が喉の奥で揺れる。
何度も突き上げるたび、彼女の手が背中に喰い込んでくる。
「い……あっ、でも、ダメ……ほんとにダメ、でも……」
その言葉の裏に、もっとして、という願いが滲んでいた。
一度目の絶頂に達した彼女は、肩で息をしながら僕の耳に口を寄せた。
「シャワー……浴びるって言って……お願い」
そうして僕はリビングに声をかけた。
「奥さま、ちょっとシャワー借りますねー!」
夫の「おーい、どうぞー!」という返事。
その声が返ってきた時、僕らはもう浴室に入っていた。
シャワーの音をBGMに、今度は彼女を壁に押し付けた。
背中に雫が伝い、胸は僕の胸に押しつけられ、下半身だけが音を立てて交わる。
「もっと……強く……お願い……」
水音にまぎれて聞こえるその声は、さっきよりもはっきりしていた。
まるで、夫に聞かせたくて言っているようにも思えるほどだった。
彼女の中で二度目の絶頂に導いたあとも、僕は彼女の身体を離さなかった。
彼女も、まだ濡れた身体のまま、僕の胸元に額を押し当てて、離れようとしなかった。
「……バレなかったね」
そう言って微笑んだ彼女の目は、どこか艶めいていた。
帰り際、ドアの外まで送りに来た彼女は、もう平然とした顔で、まるで何もなかったかのように微笑んだ。
でも――
玄関先で、最後にそっと僕の手を握ったその指先だけが、まだ、わずかに震えていた。
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