「間違えた先に、ほんとうの私がいた夜」
―彼の職場仲間の家で開かれた“カップル限定宅飲み”で、私が知った欲のかたち
私たちは、「彼の職場の仲間たち」としてではなく、「ひとつの“組”として」呼ばれていた。
「先輩の家で宅飲みあるんだけど、みんなカップルで来るから、お願い、来てくれない?」
そう彼に頼まれたのは、金曜の昼下がり。
彼――悠斗(ゆうと)は、三つ年上の会社員。穏やかで人付き合いがうまく、私はいつもその横で安心して笑っていられた。
「…うん、いいよ」
私はそう答えたけれど、少しだけ胸がざわついていた。
会社の“付き合い”に、私が“連れていかれる”という形。
その空気感に巻き込まれるのが、実は苦手だった。
けれどその夜は、想像していた“会社の飲み会”とはまるで違っていた。
場所は、彼の直属の先輩・仁科さんの自宅だった。
郊外にある、木造の古民家をリノベーションした一軒家。
和の趣を残しながらも、モダンで整えられた空間は、妙にくつろげる雰囲気をまとっていた。
集まったのは4組。全員が“カップル”としての参加。
それも、本気の恋人から、付き合いたて、職場恋愛、元同僚同士…と関係性はさまざまらしかった。
私は誰も知らなかったけれど、不思議と緊張感は薄れていった。
「〇〇ちゃん、すごく綺麗じゃん。悠斗、彼女にしてるの、ズルいな~」
なんて言われて、笑っている彼を見て、少しだけ誇らしい気持ちにもなった。
けれど――
酒が回り、リビングの空気が少しずつ“熱”を帯びてくると、会話は思いもよらぬ方向へと滑り始めた。
「さ、みんな。ちょっと面白いこと、やってみない?」
仁科さんが取り出したのは、一本のビデオだった。
42型のテレビに映し出されたのは、AVのワンシーン。
女性が目隠しをされて、ずらりと並んだ男性たちの身体の“ある部分”を、口だけで判別するゲーム。
彼氏のそれを正しく見抜けるか――という趣旨だった。
「え、なにこれ…嘘でしょ?」
私は思わず笑った。
けれど、他の女性たちもまた、笑いながらも興味を隠しきれない様子で画面を見つめていた。
「これ、絶対ヤラセだよ。間違えるわけないじゃん」
私がそう言うと、仁科さんがニヤリと笑った。
「じゃあ、試してみる?…リアルでさ」
そのとき、私はまだ冗談の延長だと思っていた。
でも、仁科さんが「ちょっと待ってて」と言って部屋を出て、男たちがぞろぞろとついていったあと――
私たち女性4人だけが残されたリビングには、妙な静寂が訪れた。
「…え、ほんとにやるの?」
誰かが言った。
「さっき、男たち、お金出し合ってたよ。勝ったら賞金だって」
「…ちょっと、馬鹿じゃないの?」
そう言いながらも、私の心はすでに、ある種の“疼き”を覚えていた。
見分けられる自信があった。
だって、私は彼と、ほぼ毎日のように愛し合っていたのだから。
けれどその“自信”の奥に、微かな好奇心と、危うい想像が膨らみはじめていた。
「万が一、間違えたら?」
「…彼の前で、他の人に触れられてしまったら?」
――そんなの、ありえない。
けれど、“もしも”に心が疼くのは、なぜだろう。
その数分後、男たちが持ち込んできたのは、想像以上に“本格的な箱”だった。
木製の大型の構造物。
背丈ほどの高さで、前面に等間隔で空いた丸い穴。
その穴の先から、男たちは各々“己”を差し出すというわけだった。
「順番はくじ引きで決めよう。女の子たちは好きなタイミングで、見て、触って、選んでいいよ」
進行役になったのは、仁科さんの彼女らしい華奢な女性。
彼女もまた、笑っていた。
まるで、ひとつの“お遊戯”でもするかのように。
私は、順番で三番目になった。
それを聞いたとき、自分の手のひらがしっとりと汗ばんでいるのに気づいた。
「間違えた先に、ほんとうの私がいた夜」
三番目。
私の出番は、あっという間に近づいてきた。
すでに一番目と二番目の子が“誤答”し、リビングには奇妙な緊張と、笑いと、微かな火照りが漂っていた。
間違えた彼女たちは、羞恥よりも戸惑いよりも、どこか熱の籠った表情をしていたのが、何より印象的だった。
“あれは、ほんとうに間違えたのか?”
そんな疑念さえ湧くほどに、彼女たちは静かに、しかし確実に、何かに溶けていた。
私の番になった。
深呼吸をひとつ。
膝をついて、木の箱の前に顔を近づける。
小さな丸い穴が、まるで異世界への入り口のように見えた。
見えるのは、無言の提示。
4つの“形”が、並んでいた。
私の脳内に、彼のそれが蘇る。
太さ、硬さ、僅かな反り。
でも、記憶の中の感覚は曖昧で、やけに遠く思えた。
まず、視線だけで確認する。
何かが、揺れる。
でもそれは、記憶ではなく――本能だった。
「失礼します」
小さくつぶやいて、私は一人目に唇を寄せる。
ほんの少し、口に含むと、冷たい木の板の向こう側から、熱がゆっくりと移ってくる。
少しだけ――違う。
彼のと似てはいる。けれど、微妙な角度、皮膚の張りの感覚。
そう、“違和感”という名の記憶が、告げてくれた。
二人目。
一人目よりも太く、硬さも申し分ない。
ゆっくりと舌を這わせると、脈打つ鼓動が伝わってくる。
でも――これは少し、硬すぎる。
彼の身体はもっと、柔らかく、でも芯を持っていた。
三人目。
舌先が触れた瞬間、私はわずかに息を呑んだ。
懐かしい――。
そんな言葉が、脊髄を駆け抜ける。
私の唇は、覚えていた。
この形。この微かな震え。
彼が興奮するとき、わずかに震えるその“予兆”を。
けれど、すぐには決められなかった。
最後、四人目。
口を近づけると、香りがした。
木と、皮膚と、洗剤と、熱と、興奮の混じった、人の香り。
咥えてみると、妙にしっくりきた。
口の中で、まるで吸いつくように馴染んでいく。
あれ…?
混乱が、始まった。
三人目の“予感”と、四人目の“確信”。
唇が迷い、記憶が揺れ、心が乱れる。
私は――もう一度、三人目に戻った。
そっと口に含み、ゆっくりとストロークを与える。
すると、先端がわずかに上下に揺れた。
これだ――
彼は、私がフェラをすると、快感で微かに震える。
唇が、その震えを、覚えている。
確信は、熱の中からやってきた。
私は、深く咥えた。
「これが、私の彼です。間違いありません」
声は、わずかに震えていた。
けれど、内側の熱は、揺るぎなかった。
パタン、と板が倒れる音。
その向こうにいたのは――確かに、彼だった。
彼は笑っていた。
「お前、けっこう慎重だったな」
私は思わず笑って、唇をぬぐった。
その唇に、まだ彼の温度が残っている。
けれど、私の身体は、もうひとつの熱を、こっそりと覚えていた。
四人目の――あの“馴染みすぎた”感覚。
“違う”と知りながら、わずかに昂ってしまったあの時のことを。
その夜、彼と結ばれた。
でも、普段とは違っていた。
彼はどこか、私を試すような目で見ていたし、
私もどこか、“咥えてはいけないもの”の記憶に震えていた。
「ねえ、もし間違ってたら、どうするつもりだった?」
ベッドの上、腕の中でそう聞くと、彼は少しだけ間を置いてから答えた。
「間違っても、嬉しかったかも」
その言葉に、私の中で、何かが静かに崩れた。
間違えなかったことへの安堵と
間違えていたらどうなっていたかという妄想とが、
交互に私を責め続ける。
その夜以降、私は時々、思い出してしまう。
あの箱の向こうにいた“違う誰か”の、あの、しっくりとした馴染みの感覚を。
きっと私は、“選び間違えなかった”。
でも、それでも――
“何かを間違えてみたかった”のかもしれない。
「間違えた先に、ほんとうの私がいた夜」
あの「箱」のゲームが終わってからも、飲み会は続いていた。
リビングに戻ってきた男たちは、妙に饒舌になっていた。
酔いのせいなのか、それとも先ほどの行為の延長にいるからか。
女たちは少しずつ距離感を曖昧にしながら、ソファに腰かけたり、床に脚を投げ出したりしていた。
私たちは4組のカップル。
けれど今夜だけは、その境界線が、じわりと溶けかかっていた。
私は彼の横にいた。
けれど、視線は時おり彷徨っていた。
あの箱の、四人目。
記憶の中の感覚――“馴染みすぎてしまった”誰か。
私の口の奥に残っていた、その感触が、
アルコールの熱でまた甦ってきた。
「〇〇ちゃん、ほんと、慎重だったね」
誰かがそう言って笑った。
名前を覚えていない、でも彼氏の同僚らしい彼。
ゲームのときのことを指しているのはわかった。
「ううん、ちょっと迷っちゃった」
笑って返したその言葉には、嘘が混じっていた。
迷ったのは、ゲームのためじゃない。
“選ばなかった”ことに、今もどこかで、火照っているから。
「でもさ…最後にちょっと長めに咥えてたの、俺のだったんだよね」
冗談めかしたその声が、
まるで鼓膜の内側から響いてくるように感じた。
彼かもしれない。
あの“しっくりきた”四人目。
彼の目が、私の喉奥を知っているように笑っていた。
彼氏の腕にそっと体重を預けながら、私はその人を見た。
見つめた、というより、見つめ返された。
唇の端に、まだ微かに残る、残滓。
彼のではない、違う誰かの。
けれどあの瞬間、私の奥は、確かに濡れていた。
「飲み足りない人、テキーラいきまーす」
誰かが言い、小さなショットグラスがいくつか並べられた。
ゲームの延長のように、軽い罰ゲームのように。
「せっかく正解したんだから、ご褒美ってことで」
冗談混じりに言われて、私は差し出されたグラスを受け取った。
テキーラは苦手だったはずなのに、喉の奥まで一気に流し込む。
熱い。
けれど、舌ではなく、もっと下の場所が、疼いている。
ふと、誰かの膝が、私の脚にかすった。
酔いのせいか、偶然か、確信犯か――わからない。
でも私は、そのまま脚を引かなかった。
彼氏がそのことに気づいているかも、と思った。
けれど、彼は私の隣で別の話に夢中だった。
その無防備さが、私は少しだけ、悔しかった。
私は、ゲームに勝った。
だけど、今夜の本当の勝者は、誰なのか――まだ決まっていない気がした。
だから私は、もう一杯、テキーラを飲んだ。
グラスを持った指が、震えている。
いや、身体の奥にいる私自身が、震えていたのかもしれない。
その瞬間、斜め向かいにいた彼――
あの“しっくりきた”四人目が、立ち上がってキッチンへ向かう。
グラスを持ったまま、ふと私と目が合った。
無言のまま、彼の指が、私に向かって――小さく動いた。
ほんのわずかな、手招き。
「…トイレ、借りてくるね」
私はそう言って、立ち上がった。
心臓が、ひとつだけ強く鳴った。
その先にあるのは、“間違い”なのか。
それとも、“ほんとう”なのか。
でも私の脚は、すでに彼の背中を追いかけていた。
「間違えた先に、ほんとうの私がいた夜」
「…眠い」
彼は、そう言って私の肩に頭を預けてきた。
私たちは、仁科さんの家のゲストルームにいた。
酔いのせいもあるけれど、さっきからほとんど会話がなかった。
私の手を握ることもなく、背中を向けた彼は、数分後には規則的な寝息を立て始めた。
私は、静かに息を吐いた。
目を閉じれば眠れるはずなのに、身体のどこかが冴えている。
火照りが、まだ冷めていなかった。
むしろ、さっきよりも、深く、静かに燃えていた。
あの視線のせいだ。
斜め向かいに座っていた“彼”――
箱の四人目だったかもしれない男。
そして、テキーラを注ぎながら私の脚にふれた指。
まるで無意識のように、けれど、意図がないとは言い切れないほどに、確かだった。
私がトイレに立ったとき、彼はすでにキッチンの奥に消えていた。
けれど、あの瞬間から――
私の身体のなかには、彼の存在が、ゆっくりと沈んできていた。
シーツの上で、彼の寝息が深くなっていくのを確かめながら、私はそっと起き上がった。
床に足を下ろし、パジャマの裾を直す。
鏡台に置かれたスマホの画面が、0時26分を告げていた。
“ちょっと、水でも飲もう”
そう言えば、誰かに気づかれてもおかしくない時間帯だった。
けれど、心のなかではすでに言い訳が用意されていた。
私はそっと、寝室のドアを開けた。
廊下に出ると、家の空気は静かで、ひんやりと肌に冷たかった。
けれど、その冷たささえ、どこか気持ちよかった。
リビングに明かりはなかったが、キッチンのカウンター脇には、まだ誰かの影があった。
彼だった。
振り返った彼の顔が、月光に浮かんでいた。
「…寝た?」
私は黙って頷いた。
「君も、眠れないの?」
その声が、ひどく静かで、優しかった。
けれどその優しさの底に、何かが沈んでいるのを私は感じていた。
私は、なぜか笑ってしまった。
「今夜、眠れる女なんて、この家にいると思う?」
彼は微かに笑った。
そして、コップに注がれた水をひとつ、私に差し出してきた。
それを受け取るとき、指がふれた。
その一瞬で、喉ではなく――
胸の奥が、かすかに震えた。
「君が三人目で止まらなかった理由、わかる気がするよ」
彼がぽつりと呟いた。
私は、それがどんな意味か、すぐに理解できなかった。
「だって、君の唇は…」
その続きが言われる前に、
私は、コップを置いていた。
沈黙が降りてきた。
でも、その沈黙は苦ではなかった。
むしろ、身体の感覚を研ぎ澄ませていく静けさだった。
彼の目が、私の唇を見ている。
その目の奥に、さっき“咥えられた記憶”があったのかもしれない。
あるいは、まだ咥えられていない妄想が、そこに浮かんでいたのかもしれない。
どちらにしても――
私の唇は、その目に熱を与えてしまっていた。
「ねえ……私、今、誰の彼女に見える?」
自分でも、なぜその問いを口にしたのかわからなかった。
でも、彼は答えなかった。
ただ、そっと私の手首を取った。
引かれたのは、壁だった。
ふと背中が触れると、私はわずかに身をすくめた。
次の瞬間、彼の手が私の髪をすくい、耳元へと降りてきた。
「今夜だけ、名前も顔も関係ないって言ったら、怒る?」
その言葉に、私は返事をしなかった。
ただ、目を閉じた。
頬に触れた彼の吐息が、熱を含んで私の中に落ちていく。
私の脚が、彼の脚に絡まるように近づいていた。
腕の中で、身体が意思とは別に動き出していた。
彼氏は眠っている。
そして私は――
“間違えなかった女”として、いま、“正しくない扉”の前に立っている。
壁に背中を預けたまま、私は目を閉じていた。
夜の気配が肌を撫で、時間がゆっくりとほどけていく。
彼の吐息が、頬に、首に、鎖骨に触れ、
それはまるで、見えない糸をほどく指のように私を崩していった。
首筋を這う指先は、私の中の「躊躇」や「倫理」といった名の衣を、
ひとつずつ剥ぎとるようだった。
言葉は、もういらなかった。
身体が語りはじめていたから。
彼の声も、触れられる指も、熱を孕んだ視線さえ、
全部がひとつの沈黙の言語になって、私を侵していく。
すぐ隣の部屋には、彼氏が眠っている。
その事実だけが、逆説的に私の感覚を研ぎ澄ましていた。
「……ほんとうに、いいの?」
低く抑えた彼の声が、耳殻の奥に震えた。
鼓膜ではなく、子宮が反応した。
私は微かに笑って、答えの代わりに首を傾けた。
唇と唇が重なる。
その瞬間、心の中で最後の灯りがふっと消えた。
闇に沈んだはずの心が、なぜか、ひどく明るかった。
私のすべてが、音もなく、歓びのほうへ落ちていく。
彼の舌が、私の口内を探る。
それは探るというよりも、確かめるようだった。
“覚えている”という手つきで、私の輪郭をなぞる。
あの夜、箱越しに咥えた唇の記憶――
今ここで、それが現実になっている。
彼の手が胸に触れたとき、私は吐息で返した。
下着越しに浮き上がる輪郭。
まるで、肌よりも先に、快楽がふくらんでいく。
指先が縁をなぞり、布の隙間から私の素肌へと滑り込む。
その瞬間、背中がわずかに仰け反った。
柔らかな布の下、敏感な頂が彼の指に絡まっていく。
唇が、離れてはまた重なり、
求め合うというより、むさぼり合うように熱を高めていく。
「…どうして、わたし、こんな……」
唇からこぼれたその囁きは、かすれた音になって夜に溶けた。
「間違えなかったのに、間違えたいって思ったのは……なぜ?」
その答えは、彼の指が私の下腹部に辿り着いた瞬間に、
すべて霧散した。
指が、ショーツの内側に入り込む。
秘めた場所に、最初の接触が触れたとき――
私は、小さく、背徳の溜息を漏らした。
「濡れてるね……」
その囁きに、私はただ、頷いた。
否定できるわけがなかった。
だって、私はもう、準備ができてしまっていた。
彼氏にはない感触。
彼氏にはない温度。
私が彼氏には見せたことのない、淫らな顔を
今、誰よりもよく知る“他人”の前で、剥き出しにしていた。
リビングの隅。
暗がりに包まれたその一角で、
私は静かに、けれど確かに“奪われていた”。
唇を塞がれ、胸を揉みほぐされ、
そして、脚の奥へと進んだ指が、
私をひとつ、ひとつ、溶かしていく。
彼の手は濡れた音を奏でるたびに深くなり、
私は、出してはいけない声を喉の奥に押し込んだ。
「…声、出さないでね。君の彼氏、すぐそこにいるから」
その囁きに、喉が震え、瞳が潤んだ。
快楽は、孤独のなかで生まれると思っていた。
でも今、最も近しい者が眠るすぐ隣で、
最も遠い他人に堕ちていくこの瞬間こそ、
私の身体は、もっとも“生きていた”。
彼の手が、私の下着をひと息で引き下ろし、
熱を含んだ舌が、その奥を吸い上げると――
私はついに、唇を噛んで堕ちた。
音を殺して絶頂するという行為が、
これほどまでに淫らで、これほどまでに快かったなんて。
私はまだ、知らなかった。
終わったあと、私は床に膝をついたまま、
髪を乱し、息を整えることもできずに、ただ震えていた。
「君の身体、ちゃんと覚えてるよ」
彼のその声が、まるで合鍵のようだった。
私の奥に隠していた何かを、最後のひとつまで解錠していく。
寝室に戻ると、彼はまだ静かに眠っていた。
私はそっとベッドにもぐりこみ、
彼の背中に触れると、なぜか涙が出そうになった。
けれど、それは後悔じゃなかった。
自分でもまだ名前をつけられない感情。
でも、たしかだった。
あの夜、私が手に入れたのは、
快楽でも、罪でもない。
“ほんとうの私”だった。



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