人妻が汗に溺れた午後──クーラー修理業者との背徳的な密室体験

クーラーが壊れた日、私はひとつの理性を失ったのかもしれない。

その朝、梅雨明け直後の東京はすでに湿った熱気に満ちていて、寝室からリビングに足を踏み出した瞬間、蒸し器の中に押し込まれたような息苦しさに襲われた。エアコンのリモコンを何度押しても、返ってくるのは沈黙だけ。私は汗ばむ額に手を当てながら、修理業者へと電話をかけた。

結局、「基盤がやられてますね」と言われ、交換しかないと通告されたのはその日の午後だった。

「でも、混んでましてね……取り付けは、最短で一週間後になります」

「……困ります。メインのクーラーなんです」

そのとき私は、ほんの少し声を震わせた。困っている女を演じたわけではなかった。事実、困っていた。でも、心のどこかで——誰かに頼りたかったのだと思う。

そして翌日、彼はやってきた。

茶色く焼けた肌に、タンクトップの裾から覗く引き締まった腰。汗で髪が額に貼りつき、額から頬へ、首筋へと一筋の雫が流れ落ちていた。おそらく二十代の後半。私より、五つ以上年下。

「今日は、何とか来れました。暑いですね」

それだけで、心がほどけてしまった。人に見られることのなかった私の柔らかな部分が、じわじわと彼の眼差しで炙られていくようだった。

私はと言えば、ランニング用の薄手のカップ付きキャミソールに、リネンのショートパンツという格好だった。汗ばむ身体に服が貼り付き、ふとガラスに映った自分の姿を見て——背筋が凍る。

乳首が、透けていた。

けれどそのとき、不思議と羞恥よりも高揚が勝った。見られていたらどうしようという恐れと、見られていたら嬉しいという矛盾した感情が、胸の奥を騒がせた。

「冷たいお茶、いりますよね?」

そう声をかけて、キッチンへ向かう私の背中に、彼の視線が確かに刺さっていた。

作業は二時間ほどだった。

私はただ、そばにいて、タオルを差し出し、お茶を運び、汗に滲んだ彼の腕の筋肉を眺めていた。それだけで、どうしようもなく身体が火照っていた。

クーラーのスイッチが入り、涼やかな風が吹き出した瞬間、私は思わず「やったぁ!」と叫びながら、彼に抱きついていた。

——馬鹿みたい。

けれどその腕に、包まれてしまった。彼もまた、驚いたように笑いながら、私を抱きしめ返してくれた。

そのとき。

「……あん……」

我ながら情けないほど甘えた声が漏れた。自分の中のスイッチが、勝手に切り替わってしまったかのようだった。

「ちょ、ちょっと……」

口ではそう言いながら、私は抵抗しなかった。いや、むしろ彼の体温を欲していた。熱に浮かされたみたいに、目を閉じ、彼の唇を迎え入れていた。

唇が重なり、シャツ越しに乳房を揉まれたとき、息が止まりそうになった。

汗に濡れたシャツが、彼の掌にまとわりついて、布越しに尖った感覚が伝わる。その布を、私は自分から脱がせてと懇願していた。

「お願い……もう、こんな……気持ち悪いの、脱がせて……」

気づけば、私は上半身裸で彼の膝に座り、乳房を舌で弄ばれていた。胸の先端に、唇が触れた瞬間、理性がひとつ、崩れ落ちた。

「……っ……ダメ……のに……」

そう言いながらも、私は腰をくねらせ、絶頂に達していた。

スカートを捲られたときには、もう何も覚えていない。いつの間にかソファに押し倒され、彼の腰の動きに合わせて、喘ぎ声を漏らしていた。

「は、あっ……そこ、だめ……っ……」

声を殺そうとしても、身体が裏切る。初めての浮気。だけど、罪悪感よりも、快楽の洪水がすべてを飲み込んでいく。

「……寝室、行きましょうか」

彼のその一言が、愛の告白のように響いた。私は彼の手に導かれ、寝室へと歩いた。

冷房の効いた部屋なのに、ふたりの肌が触れ合うたび、汗が湧き出した。彼の熱、唾液、動き、すべてが私を狂わせた。

——主人にもしたことのない奉仕を、私は自然と彼に捧げていた。

唇で愛撫し、舌を這わせ、再び昂ぶったものを自ら求めて、奥へと招き入れた。

三度目の絶頂は、涙が出るほど長く、深かった。愛撫は止まず、特に乳首は何度も吸われ、乳房を揉まれるたび、身体が跳ねた。

そして浴室へ。

私は、彼の身体を洗い流した。お湯が肌を滑るたび、愛おしさが込み上げてきて、彼の中心を再び口に含んだ。何時間でも、しゃぶっていたかった——そんな自分に驚きながらも、止められなかった。

そして、浴室の壁に押し付けられ、背後から貫かれたとき。

「ああ……っ、こんな、こと……」

口では拒みながら、私は腰を振っていた。突き上げられるたび、内側がきゅっと締まり、髪が濡れて貼り付き、頭が真っ白になった。

最後に、玄関先で彼に抱きしめられたとき、私は裸のままだった。

扉の向こうは昼下がりの現実。だけど私は、まだ夢の中にいた。

「また……呼んでくれたら、すぐに来ますから」

彼が笑って言ったその言葉に、頷くしかなかった。玄関のドアが閉まっても、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。

——あんなに愛されたのは、生まれて初めてだった。

そして、こんなに誰かを欲したのも。

この夏、私はひとつの罪を犯した。

けれど、後悔はない。ただ、思い出すだけで、胸の奥が疼く。

冷房の効いた静かなリビングで、私は今もあの時の汗と匂いと、熱を思い出している。

日曜日の午後。東京は、梅雨が明けたばかりの蒸し暑さに包まれていた。

窓を少し開けてみたけれど、生温い風しか入ってこない。寝室のクーラーだけが頼りだったが、朝から夫がそこで二日酔いで寝込んでいる。昨夜、取引先との飲み会で、帰宅したのは午前二時を回っていた。

「気持ち悪い……今日は無理……」

そう言って、夫は起き上がる気配も見せなかった。

そんな中、子ども部屋のクーラーが突然動かなくなった。息子は部活でいないけれど、今日もこのままの暑さでは寝かせることもできない。とっさに思いついて、私は修理の電話をかけた。

すると、電話口から聞き慣れた声が返ってきた。

——あの声だった。

「今日、大丈夫ですよ。少し遅めになりますけど、伺えます」

わざとらしくはなかった。でも、少しだけ、声が嬉しそうに聞こえたのは、私の気のせいだったのだろうか。

あの日——リビングで彼に抱かれ、寝室で汗だくになるほど求め合った、あの午後から、私たちは一度も連絡を取っていなかった。けれど、私は心のどこかで、再び彼が訪れるのを待っていたのだと思う。

そして午後四時。

インターホンが鳴った瞬間、私はなぜか指が震えて、受話器を取るのに数秒かかった。

「……こんにちは」

その姿を見た瞬間、胸が詰まった。タオルを首に巻き、作業着の襟を緩めた彼の喉元に、汗が一筋、流れていた。

「また、来てしまいましたね」

その一言で、すべてが戻った。あの時の肌の感触も、唇の熱も、全部。

「子ども部屋、こっちです」

何気ないふりをして案内したけれど、足音が後ろから響くだけで、膝がかすかに震えた。部屋に入ると、彼はさっと空調機を確認し、工具を広げはじめた。

「……狭いですね、ここ」

「そう、寝室は広いんですけど……夫が寝てるの。酔っ払って」

「なるほど……じゃあ、静かにやります」

静かに。——その言葉に、鼓膜が震えた。

狭い部屋にふたり。窓は閉め切られ、空気は重い。汗が背中をつたうのが分かった。

私は冷たい麦茶を用意して戻ると、彼がちょうど、脚立に乗って手を伸ばしているところだった。シャツがめくれ、腰骨が覗いていた。タオルが肩から滑り落ち、彼が「暑いな」とつぶやいた。

私はそのタオルを拾って、彼の首元にそっと押し当てた。

「……拭きますね」

指先が、うっすらと汗で湿った肌に触れた瞬間、彼の体がびくりと反応した。見上げた彼の目が、わずかに潤んでいる。

「……ダメですよ、そういうの」

それでも、彼は脚立を降り、私の手を取った。

「ダメなのは……わかってるけど」

手のひらが触れ合っただけで、熱が伝染していく。私は震える声で言った。

「……子供、帰ってくるまでには……まだ時間ある」

「旦那さんは?」

「起きない……お酒、すごかったから」

彼は私の手を引いて、そっと子ども用のベッドに腰を下ろした。

「ここで、いいんですか?」

「……声、我慢する」

言葉にした瞬間、身体の奥がきゅうっと締まるのを感じた。

キスは、優しく、それでいて切実だった。唇が重なり合い、手が私の太腿へと滑ってくる。ショートパンツの裾から指先が這い上がり、私は思わず唇を噛んだ。

「……んっ……」

彼の手が、キャミソールの中に潜り込む。乳房を包むようにして揉まれ、乳首を優しく擦られると、声が漏れそうになるのを必死で飲み込んだ。

「しーっ、だめ。……起きちゃう、かも」

「じゃあ、我慢して」

我慢できるわけがなかった。

背中をベッドに押しつけられ、パンツをゆっくりとずらされ、湿った音が部屋に響いた。唇を塞ぐように彼の手を咥え、腰を揺らされるたびに、喉の奥から吐息が漏れる。

「……だめ、そんな、奥……っ……」

気づけば、子供のベッドの上で、私は必死に快楽に抗っていた。けれど、彼の指が、舌が、そして熱が私を貫くたびに、抗うこと自体が快楽になっていった。

「イきそう……っ……でも、声……」

私は、声を出す代わりに彼の肩に噛みついた。

その瞬間、身体が大きく跳ね、絶頂が波のように全身を駆け巡った。

「……気持ちよかったですか?」

「……こわいくらい……」

その後も、彼は私の身体を弄ぶように、長く、深く、私を愛してくれた。子どもの机に腰かけさせられ、背中を支えられての結合。カーテンの隙間から差し込む午後の日差しの中、私は何度も、口を塞ぎながら絶頂に達した。


修理が終わるころ、玄関の扉が、かすかに開こうとした。

——子供が帰ってきた。

私は彼の腕にしがみつきながら、慌てて洋服を整えた。彼も黙って工具を片付け、最後にささやいた。

「また……壊れたら、連絡ください」

私は何も言えず、ただ頷いた。

息子が「ただいま」と言う声とすれ違うように、彼は静かに帰っていった。

寝室では、夫がまだ寝息を立てていた。

でも、私はもう、何かが眠ったままではいられなかった。

——あの日の汗が、ふたたび匂い立った午後。

私はもう、戻れない場所に立っていた。

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