【第1幕】妻の隣で疼く──ティーカップの向こうにいる彼女
「いらっしゃい」と言ったのは妻だが、最初に視線をくれたのは、隣の彼女だった。
彼女──隣に住む、人妻。妻より少し年下で、笑うとえくぼが出る。
午後三時。お茶の時間。
二人分の紅茶と、甘さ控えめの焼き菓子。窓からは風の音、そして微かに揺れるカーテンの影。
三人で交わす会話は、あまりにも穏やかで、あまりにも罪深かった。
彼女は、何もなかったような顔で、妻と他愛ない話をしながら、僕を見ていた。
目が合うたび、身体のどこかが強く引かれる。
まるで、ほんの数日前──あの夜の指先の続きを求めてくるように。
「この家、いい香り。洗剤、変えました?」
「え?あ、うん、ちょっと柔らかい香りのに」
会話の合間に、ふと目が泳ぐ彼女。
まるで“あの匂い”、私のシーツの奥に沈んでいたものと同じ──そう言っているように。
心が、先に湿っていた。
まだ触れていないのに、脈打つ股間の奥がぬるくなる。
それは、紅茶よりも熱く、焼き菓子よりも柔らかい午後の甘さだった。
【第2幕】トイレで触れた沈黙──音を殺す快楽の予兆
「お手洗い、借りてもいい?」
「どうぞ、廊下の奥よ」
妻の声と重なるように、僕も立ち上がった。
偶然を装ったつもりだった。
けれど彼女は、すでに気づいていたのだろう。
ドアノブに指が触れた瞬間、すっと細い手首が僕の腕を引いた。
音もなく、狭い個室に吸い込まれる。
「……会いたかった」
そう呟いた彼女の声は、かすれた吐息だった。
その吐息が、すぐ耳元にかかる。
「いけないよ…妻が、すぐそこに──」
「知ってる。でも…あなたの顔、見たらもう我慢できなかった」
腰に回された手が、まるで水のように滑らかに降りてくる。
そのまま、下腹部に触れる前から──硬さを見透かしていた。
「…やっぱり、そうなるのね。ふふ、困った人」
布越しに、熱が移る。
彼女の指先が優しく擦っただけで、身体が震える。
そこには羞恥も後悔もなかった。あるのは、ただ深い沈黙。
「音、出したらダメよ」
言われるまでもなく、僕の喉は声を失っていた。
舌先が、ゆっくりと先端に触れる。
咥えたまま、奥へと導かれるたびに、意識が熱の海に落ちていく。
息が乱れ、膝が揺れる。妻の声が遠くに聞こえる。
なのに、それが──気持ちよさを際立たせるだけだった。
【第3幕】妻のいる家で奥へ──理性が溶ける静かな絶頂
「私、もう我慢できないの……」
小さな吐息とともに、彼女は腰を向けた。
デニムの奥から現れた肌は、紅茶の琥珀色より艶やかで、
そこから漂う香りは、すでに湿った花のようだった。
「だめだ…そんな、声出たら…」
「声、抑えて……でも、奥まで来て」
狭い個室で交わる熱。
動くたび、肌が粘り、息が詰まる。
壁に手をつき、彼女の肩越しに鏡が映る。
そこに映る自分の顔──
それが、いちばん堕ちていた。
腰の奥から湧き上がるものが、もう止まらない。
「…中に、出しても──いい?」
「うん……今だけは、全部、私に注いで」
瞬間、脳が白く染まった。
音を殺すように彼女の口元に手を添える。
なのに、彼女は微笑んでいた。まるで、全部が計算だったように。
終わったあと、まだ肌が触れ合っているのに、
心だけが、先に現実に戻ろうとしていた。
「……戻るね。ちゃんと、何もなかった顔するから」
「……あぁ」
ドアが静かに開き、彼女の背中が廊下を通っていく。
そのあとのリビングの空気は、少しだけ重く、そして甘かった。
ティーカップに残る紅茶の温もりが、
彼女の中の温度と、同じような気がしてならなかった。



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