【第1幕】ふたりの影が、沈黙の奥で重なっていた
午後の湿った空気が、もう夏の終わりを予感させていた。
大学時代の友人・圭太が久しぶりに帰省するというので、僕は彼と、そして彼の彼女である遥と3人で小さな旅に出た。
何の変哲もない田舎道を歩き、錆びた遊具のある公園にたどり着いたころ、
どこからか現れた一人の中年の男が、圭太に声をかけた。
「よぉ。圭ちゃんか。あのときのガキかと思ったが、でかくなったなあ」
地元の顔見知りらしく、軽口を交わす。
僕は知らない男だったが、圭太は「近所の古い知り合い」だと言った。
まるで、空気のようにその場に入り込んできた男の視線が、ふと遥に向いたのを見逃さなかった。
あのとき、彼女の頬がほんの少しだけ強張ったことを──僕だけが、見ていた。
【第2幕】あの時、彼女の目が何かを許していた
その夜。
僕は、コンビニの帰り道、廃屋の裏手にある小さな倉庫のような建物の方から、微かな音を聞いた。
風か、動物か、そう思って通り過ぎようとして──止まった。
「……っ、ん、くっ……」
押し殺したような息遣い。
その一音だけで、僕の背筋は、氷のように凍りついた。
まさか、と思いながら、僕は音の方に近づいた。
倉庫の小さな割れたガラスの向こうに、彼女がいた。
遥。
圭太の彼女でありながら、僕がずっと、片想いしていた女。
彼女は、壁にもたれるようにして背を預け、
その前で、圭太ともうひとり──あの昼間の男が、代わるがわる、彼女の身体に何かを注ぎ込んでいた。
裸ではなかった。
だが、ワンピースの裾はくしゃくしゃに持ち上げられ、
太ももが震えていた。
下着は、足首に引っかかったまま、かろうじて引きずられていた。
それでも、彼女の目は──潤んでいた。
濡れていたのは、瞳だけではなかった。
「……大丈夫……気持ちいい、から……」
「もっと、奥まで……お願い……もう、やだって言えない……」
圭太の手が、遥の首筋をなぞる。
中年の男は、後ろから彼女の髪をかき上げながら、
腰を執拗に押し付けていた。
彼女は、それを──受け入れていた。
快楽と羞恥が入り混じったその表情を、
僕は、生まれて初めて見る顔として、記憶に焼きつけた。
【第3幕】嗚咽と欲望の向こうで、彼女は濡れていた
翌朝、彼女は何事もなかったように僕に微笑んだ。
まるで、昨夜のことなど一度もなかったように。
でも僕は知っていた。
耳の奥に残る、彼女の甘く湿った吐息。
ガラス越しに、僕を知らぬふりで震えていた腰。
帰り際、彼女が僕の方をふと見たとき、
あの瞳にだけ、ひとつだけ濁ったものがあった。
それが──羞恥なのか、背徳の快楽なのか、僕にはわからなかった。
ただ、僕はもう、あの声を忘れられない。
「……お願い……もっと……もっと壊して……」
その声が、未だに僕の中で、ずっと揺れている。
あの夜のまま──湿ったまま。



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