私は、ここで働くべきではなかった。
大理石の玄関、手入れの行き届いた庭、ふわりと香る紅茶の蒸気――
育ってきた家には、埃も罵声もなかった。
鏡に映る自分の姿にはいつも自信があったし、そうであるように育てられてきた。
胸は控えめだけれど、くびれのあるウエストと引き締まった脚線美には誇りを持っている。
姿勢、話し方、歩くスピードさえも「気品を保つように」と教えられた。
だから、就職先に選んだこの会社が、こんなに汗臭くて粗雑な空気に満ちた場所だと知っていたなら――
たとえ一時の気の迷いであっても、入社なんてしなかった。
配送センターという名の、薄暗い現場。
倉庫には常にフォークリフトの唸り声と、男たちの下品な笑い声がこだましている。
トラックドライバーの制服姿はくたびれていて、肌の焼けた腕にはタバコと油の匂いが染みついていた。
──正直、軽蔑していた。
「熊田曜子に似てるよな、あの子」
「なあ、スカートの中、ちょっと覗いてみてえよな」
背中越しに聞こえる声は、私の内面を傷つけるどころか、むしろ静かに火を点けていった。
私は決して応じない。
けれど、彼らの視線に無意識に気づいてしまう自分も、否定できなかった。
「どうしてあんなに堂々としてんのかな」
「あいつ、自分のこと特別だと思ってんだろ」
その通りだった。
私は、自分がここにいるべき人間ではないと、ずっと思っていた。
オフィスの隅、誰も見ていないときに、私は辞表の文面を何度もスマホに打っては消した。
けれど辞めなかったのは、たぶんプライドだった。
こんな男たちに負けて辞めるなんて、悔しくて耐えられなかった。
そんなある日、石田さん──普段から私にだけ少し優しかった年上のドライバー──が、ぽつりと話しかけてきた。
「ちょっと、倉庫の奥で確認したいことがあるんだけど。いい?」
声は落ち着いていて、紳士的ですらあった。
私はそのとき、ほんの少しだけ気を緩めていたのかもしれない。
倉庫の隅、灯りの届かないその場所が、あんな運命の境界線になるとは思いもせずに。
石田さんの背中について、埃っぽい倉庫の奥へと歩いたその瞬間、
何かが──私の世界の色が、静かに変わり始めていた。
「……あれ?」
扉が、背後で音を立てて閉まった。
思わず振り返ったその瞬間、
誰かの手が私の口を塞いだ。
「っ……んんっ……!」
言葉にならない声を喉奥で押しとどめながら、私は本能的に身をよじった。
けれど、背後からの腕は容赦なく、私の身体を抱え込むように押さえつける。
暗がりの中に、もう3人の男が現れたのを見て、
私はようやく悟った。
──これは、罠だったのだ。
「今日はな、美貴ちゃんにちょっと“お仕置き”してやろうと思ってさ」
その言葉を発したのは、佐藤。
私の脚のラインをいつもじろじろと見てきたあの男。
「高嶺の花ってやつも、咲ききったら摘みたくなるんだよね」
笑い声とともに、制服のスカートがまくり上げられ、
私は床に押し倒された。
「や、やめて……!」
私の声は震えていた。
怒りでも、恐怖でもない。
そのどちらでもあるような、そして……どこかで、期待してしまっている自分がいた。
制服のボタンが一つずつ外され、
小さな胸があらわになる。
「やっぱすげえ……無駄がないんだよ、こいつの身体」
私の肌に触れる手は、冷たく、そして無骨だった。
けれど、その触れ方はまるで陶器を愛でるように慎重で、
私は否応なく、身体が熱を帯びていくのを感じていた。
「やめてって、言ってるのに……っ」
震える声の中で、下着の布地が指先でなぞられた瞬間、
私は足を閉じようとした。
けれど、4人の男たちの手が、それを許さなかった。
「こんなに濡れてるのに、やめてほしいなんて嘘でしょ?」
言葉に、涙がこぼれそうになった。
──違う。私は、そんな女じゃない。
こんな、汚れた場所で、汚れた手に抱かれて……悦ぶような女じゃない。
けれど、クリトリスを指先で撫でられたとき、
乳首に舌が這ったとき、
私は小さく喉を鳴らしていた。
「……っ、あ……ああっ……」
羞恥。屈辱。なのに、
下腹部から波紋のように広がっていく熱は、それらをすべて凌駕していく。
脚を縛られ、M字に開かされた体勢で、
下着の布が指で横にずらされた。
「見てみろよ……この濡れ方」
「ほんとに、“感じてる”んだな……」
涙が頬を伝う。
でも、感じているのは事実だった。
誰かの指が、私の中に入ってきたとき、
私は悲鳴に似た吐息を漏らした。
「や、だ……そんな、奥までっ……!」
やがて、一人が私の腰を持ち上げ、
熱を帯びたものを、私の奥へとあてがった。
「本当に嫌なら、逃げられたよな?」
その言葉が、私の胸に突き刺さった。
──そう。私は、逃げようと思えば逃げられた。
でも、逃げなかった。
最初の衝撃。
体内を押し広げられる感覚。
そして、抜き差しされるたびに、骨盤が震えるような快感が私を貫いた。
「や……ああっ……!」
腰を突き上げられるたびに、
身体が、思考を追い越していく。
乳首を吸われながら、
後ろからもう一人の指がアナルをなぞってくる。
どこにも逃げ場はなく、
私は四方八方から、欲望の真ん中に引きずり込まれていった。
「んっ、あっ、いや……だめぇっ……」
最初は声を殺していた。
でも、いつしか私は声を張り上げて喘いでいた。
自分が、感じてしまっていることを、
抗いきれない欲望に堕ちていくことを、
もう隠すことなどできなかった。
3人目が果てたとき、私はもう、何度イっていたのかわからなかった。
膝が震え、喉は乾き、
けれど奥の奥まで疼き続けていた。
そして最後の男が、ゆっくりと入ってきたとき、
私は身体を仰け反らせ、叫んだ。
「……ああああっ、あっ、だめ……いっ……ちゃう、いっちゃうのぉっ……!!」
頭の奥が白く塗りつぶされ、
身体が小刻みに震え、
私は人生で初めての、完全な“絶頂”を迎えた。
屈辱と快楽の果て。
何もかもを失ったような気がしたのに、
何もかもを得たような感覚もあった。
私は、あの日を誰にも語らない。
でも、あの日の自分を、もう忘れることもできない。
制服をまとい、何事もなかったように働く日常のなかで、
私は時折、あの倉庫の扉を見つめてしまう。
そこにはもう、汚れた男たちだけではない。
私自身の、目を逸らしてきた欲望が、
微笑んで佇んでいるのだから。



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