第一章:閉ざされた町で、扉を開いたのは私だった
――北陸・雪解けの温泉町。三月の湿った風が肌を撫でる――
「いい加減、休めって」
夫がくれた春休みは、北陸のひなびた温泉町。
県庁所在地から鈍行で一時間半。乗換駅のベンチには誰もおらず、空気はどこか、張り詰めたように静かだった。
「宿に着いたら、整体、頼んであるから」
夫はそう言って、私の背中を押した。
結婚十一年目、私は三十七歳。金沢市内の保険会社で営業をしている。
共働きで忙しく、子どもはいない。日々をこなすことで精一杯で、夫婦の会話は、最近では仕事の報告か、生活の段取りばかりだった。
宿は昔ながらの木造三階建て。湯気の香りが玄関から漂ってくる。
部屋には古い畳と、小さなガラス窓。その窓からは、雪の名残を抱えた渓流が見えた。
「整体師の斉藤と申します」
午後八時。部屋に現れた男は、地元訛りを帯びた低い声と、彫りの深い顔立ち。
作務衣から覗く首筋には、長年の経験が刻んだ皺と、男の匂いがあった。
「そのまま浴衣のままで結構です。…失礼しますね」
男の手が、私の肩にそっと触れた瞬間、背中をひやりと汗が伝った。
熱ではなく、“予感”だった。
第二章:ゆるむ、はだける、求めてしまう
――「ここまでほぐすのが、うちの流儀なんで」――
斉藤さんの手は、厚く、ゆっくりと重たかった。
肩、背中、腰、そして脚へと移るうちに、私の身体の輪郭は曖昧になり、ただ温かい感覚に包まれていった。
浴衣の裾がずれ、太ももが露わになる。
彼の親指が、脚の内側をぐっと押し流す。
その瞬間、息が詰まるほどの感覚が走った。
「ここ、ずいぶん張ってますね」
「……っ、あの…、そこは……」
「奥まで流さないと、また戻っちゃうんでね。大丈夫ですよ」
言葉に抗えず、私は目を閉じた。
脚の付け根、下腹部のぎりぎりに触れられるたび、身体が熱を持っていく。
呼吸は浅くなり、指先に意識が集中する。
「痛くないですか」
「……いえ……気持ち、いいです……」
気づけば彼の指は、タオルの下に潜り込み、私の下腹に触れていた。
すでにそこは、濡れていた。
知らない男に触れられて、私はもう濡れてしまっていた。
ゆっくりと、指が奥へと沈んでいく。
私はもう、声を押し殺すこともできなかった。
「……あ、っ……ん……だめ……」
「力、抜いて。感じていいんですよ」
彼の指が、そこをやさしく円を描きながらなぞる。
腰が浮き、太ももが震えた。浴衣はすでに乱れ、胸元からは片方の乳房がのぞいていた。
彼はその先端を唇に含み、舌で転がすように刺激する。
「ああ……そんな……っ」
奥へ、奥へ。私の秘めた場所を、何度も、何度も押し上げられ、
熱が溢れ、涙のように流れ出る。
そして彼は私の脚を開き、重なるように私の身体を包み込んできた。
湿った吐息。腰の動き。肌と肌の擦れる音。
目を逸らしたくても、すべてが私の一部になっていく。
「……ごめんなさい……夫が……」
「忘れていい。今は俺だけを感じてて」
その言葉とともに、彼の熱が深く差し込まれ、
私は背中を仰け反らせ、ひとつ、大きな波に呑み込まれた。
第三章:湯けむりの向こうに、罪と快楽の余韻
――愛しているのに、愛されたい――
行為のあと、布団の上で息を整えながら、私は天井の染みを見つめていた。
斉藤さんは無言でタオルを絞り、私の太ももを丁寧に拭った。
「……すみません、私……こんなこと……」
「何も言わなくていいです。ここは、そういう場所ですから」
彼はそう言って立ち去った。
部屋には湯けむりと、湿った欲望の香りだけが残った。
私は何も後悔していなかった。
むしろ、長年閉じ込めていたものが開放され、
自分が“女”であることを、再び思い出せたことに、静かな満足すら感じていた。
翌朝、宿の廊下で彼の姿を見かけた。
目が合った瞬間、軽く会釈だけを交わし、言葉は交わさなかった。
帰りの新幹線で、夫から「よく眠れた?」とLINEが届く。
私は少しだけ微笑み、「ありがとう、身体も心も軽くなった」と返信した。
もう、戻れないとは思わない。
けれど私はもう、知らないふりでは生きられない。
この身体には、ひと晩の記憶と、忘れられない熱が刻まれてしまったのだから。



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