官能体験談 ヒグマの気配と斜里岳の青年|背負われ密着からホテルで堕ちた夜

【第1部】斜里岳の匂いと青年の声に震える──恐怖と湿度が交わる瞬間

私は──佐伯 梓、三十八歳
北海道のオホーツク海沿い、斜里町に暮らしている。
港町の朝は、潮と魚の匂いが風に混じり、日が昇るとそれが少しずつ温まっていく。
結婚十二年目の夫は札幌勤務になり、月の三分の二は不在。
そんな日々に、私は自分でも理由の分からない“空白”を持て余していた。

六月の終わり。
梅雨のないはずの北海道なのに、山は湿り気を帯びていた。
その朝、私は一人で斜里岳へ向かった。
標高1,547メートル、沢を渡りながら登るこの山は、初夏でも空気が冷たく、時折、雪解け水の匂いを運んでくる。
道端にはオオバナノエンレイソウやチシマザクラがまだ咲き残り、緑の匂いは水を含んで艶やかだった。

登り始めて二時間。
ウィンドブレーカーのジッパーを胸の下まで下ろし、スポーツブラに貼りつく汗を逃がす。
耳の奥で自分の心音がひたひたと響き、吐く息が首筋に降りかかるように感じた。
背中は長い汗の線でつながり、腿の内側は温かく湿っていた。

──その時だった。
前方の登山道から、風を裂くような足音が近づき、一人の青年が駆け下りてきた。
二十代前半、濡れた黒髪が額にかかり、白いTシャツは汗で肌に貼りついている。胸板の起伏が呼吸に合わせて規則正しく上下し、その速さがただ事でないことを告げていた。

「……ヒグマの糞がありました。まだ新しいです」
低く抑えた声。その奥に、冷静と焦燥が同居していた。
湿った吐息の熱が、距離を隔てても頬をなぞるように感じる。

私の中で、何かがかすかに揺れた。
一人で進むのは無理だと判断し、彼と共に下山を始める。
間もなく、沢沿いの林から、不意に低い鳴き声が響き、足首をひねった。
鋭い痛みの直後、身体がふわりと浮き、青年の肩越しに山の匂いと汗の匂いが押し寄せた。

「動かないでください」
耳元に落ちたその声は、低く静かで、奥で脈打っていた。
彼の背中の揺れに合わせて胸が触れ、腿の奥がじわじわと熱を帯びていく──それが恐怖のせいなのか、別の理由なのか、自分でも分からなかった。

【第2部】揺れと指先の偶然が溶かす──背負われたまま落ちていく心と奥

彼の背中に預けられた私の身体は、左右に揺れるたび、胸が硬い筋肉に押しつけられ、息が浅くなる。
肩越しに見える首筋は汗で濡れ、そこから立ち上る塩と皮膚の匂いが、恐怖でこわばったはずの私の奥を、別の意味で緩ませていく。

「痛みは……大丈夫ですか」
歩調を緩めずに落ちた声。
喉の奥で震える低音が、背骨を伝い、下腹の奥で小さく脈を打った。

両腿の付け根に回された彼の腕は、私を支えるためにしっかりと締められている。
沢沿いの岩場を越えるたび、その手のひらが汗ばむ布越しに、私の深いところのすぐ近くをかすめる。
ほんの一瞬──しかし、その一瞬が脳裏に焼きつき、体内で波紋を広げた。

「すみません、足場が悪くて」
彼の手が一度、私を引き寄せるように強く握る。
硬い指の関節が生地越しに触れたか触れないか、その曖昧な境界が、心拍を不自然な速さに変えていく。
沢の音が遠ざかり、私の耳に響くのは、彼と自分の呼吸だけだった。

汗で湿った太腿の内側に、彼の前腕がたまに当たる。
そのたびに、私はほんの少し腰を引く──けれど避けきれず、触れた瞬間の微かな電流を、奥に閉じ込めることができない。

「もう少しで林を抜けます」
そう言いながら、彼は背中の私を支え直す。
腰骨にかかる彼の腕が、ほんの数センチ上を通った瞬間、私の呼吸は喉の奥で止まり、足首の痛みすら遠のいていく。

──これは偶然。
そう言い聞かせながらも、胸の奥で別の声が囁いていた。
もっと、揺れてほしい。もっと、このまま……。

【第3部】救いと堕ちる体温──恐怖が欲望に変わる夜

ホテルのドアが閉まった瞬間、私はようやく深く息を吐いた。
外の世界と遮断された静けさが、逆に心臓の音を際立たせる。
足首はまだ少し痛むが、それよりも背負われたときの体温と、あの偶然の触れ合いが離れなかった。

「……お湯、沸かしておきますね」
彼はそう言って、ポットのスイッチを入れる。
湿ったTシャツを脱ぐと、背中から漂う塩と皮膚の匂いがふわりと部屋に満ちた。
私の喉は、それを吸い込みながら、熱を持って締まっていく。

「助けてくれて……ありがとう」
言葉はそこまでのはずだった。
けれど私の足は、自分でも気づかぬうちに彼の方へ進んでいた。

距離がゼロになる。
見上げた瞳が、私を探るように揺れた。
唇が触れる寸前、私の中で、何かが崩れ落ちる音がした。

「……梓さん」
名前を呼ばれた瞬間、頬の奥が熱くなる。
唇が重なり、呼吸が混ざる。
彼の舌が、私の奥の柔らかさを探るたび、恐怖で縮こまっていた心が溶かされていく。

ベッドの端に腰を下ろすと、彼は私の膝をそっと割った。
顔が近づき、呼吸が太腿の内側を撫でる。
「……っ、あ……」
思わず漏れた声に、自分の羞恥が重なって震える。

舌先が、湿った花弁を確かめるように、外側からゆっくりと描く。
柔らかな吸い上げと、唇の密着。
それは獣のように激しくはなく、むしろ祈るような熱で、奥の奥を呼び覚ます。
腰が自然に前へ動き、指がシーツを掴む。

「もっと……」
自分の声が、知らない誰かのように低く甘い。

彼は顔を上げ、今度は私の頬を包むように抱き寄せた。
唇から首筋、鎖骨へと、温度が移動していく。
押し倒され、仰向けのまま彼を迎えると、深く沈んでくる重みと熱が、腹の奥に届く。

正常位の圧迫が、胸から肺へ、そして骨盤の底まで連鎖する。
一度引き抜かれ、今度は後ろから──腰を支えられ、背中越しの熱が私を貫く。
視界がかすむ中で、耳元の吐息が震えを重ねる。

「梓さん……気持ち、いい……?」
返事の代わりに、喉の奥から押し上げられる声が洩れる。
熱が波のように繰り返し押し寄せ、体位が変わるたびに別の感覚が芽吹く。
仰向けで彼を迎え、今度は私が覆いかぶさる。
腰を回すたび、奥で深く混ざり合い、視界が白く遠のく。

「もう……だめ……っ」
全身が波打ち、最後の震えが喉を突き抜ける。
快楽の残像が、まだ子宮の奥で小さく明滅していた。

静寂の中、彼の胸に耳を当てると、鼓動が自分の中にまだ響いている。
恐怖はもう消え、残っているのは、濡れた心と、しっとりとした疲労──
そして、あの山よりも深く沈んでしまった自分だった。

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