【第1部】昼下がりの静寂に差し込む若い男の視線が胸奥を濡らし始めた
チャイムの音は、外の陽射しよりも唐突に私の呼吸を乱した。
玄関のガラス越しに見えるスーツ姿──まだ肩に馴染んでいない布の硬さと、初々しさが滲む眼差し。
セールスマンではない…それは一瞬でわかった。けれど、なぜか心臓がひとつ分早く打つ。
「佐藤部長に言われて…資料を取りに伺いました」
その声は、敬語の形をしているのに、喉の奥の熱を隠しきれていなかった。
私は書斎に向かい、資料を手渡す。
帰ろうとする彼を、咄嗟に引き止めたのは、単なる社交心だけではない。
インスタントの粉をカップに落とす指先が、なぜか小刻みに揺れているのを、自分でも感じていた。
「佐藤部長の奥さんって…綺麗ですね」
あまりにも真っ直ぐなその言葉に、カップの湯気よりも先に、胸の奥が熱を帯びた。
見られている──その感覚が、皮膚を内側から湿らせていく。
退屈を口にした私に、彼は少し躊躇いながらも「もったいない」と告げた。
その瞬間、胸の内の何かが小さく音を立てて外れた気がした。
【第2部】触れぬ距離が溶けて理性を外していく午後の沈黙
「抱ける?」
自分の唇から零れたその言葉が、部屋の空気を変えるのを感じた。
彼の黒目が、わずかに揺れ、やがて沈むように私を見つめた。「抱けます」──その一言が、骨盤の奥まで響く。
ベッドルームに導く足取りは、どこか夢の中のようだった。
スーツの生地が指先から離れていくたび、彼の呼吸が深くなる。
若い肌の温度が、まだ触れていない私の腹を温める。
唇が触れるより先に、視線と吐息が私をほどいていく。
首筋に舌が沈み、胸にかすかな湿りが落ちる。
腰を引き寄せられると、太ももの内側に、熱い脈動が押し当てられた。
その熱を迎え入れた瞬間、長く乾いていた場所が一気に満ちていく。
奥を擦られるたび、心の奥で絡まっていた糸がほどけ、代わりに甘く重たい快感が沈んでいく。
彼の動きは拙く、それゆえに真っ直ぐで、私の呼吸を乱す。
【第3部】溢れた熱が満ちたあとに残る静かな喪失と疼き
何度目かの深い動きのあと、彼の声が喉を震わせた。
「もう…」
その言葉と同時に、全身が痙攣する。奥の奥まで叩きつけられた快感が、波となって押し寄せ、指先から意識が抜けていく。
天井の影が揺れ、汗の粒が首筋を伝う。
私の胸はまだ速く上下し、下腹部には彼の熱の余韻が残っている。
それは、ただの性交の残り香ではなく、理性の奥まで侵入してきた記憶の種だった。
慌ただしく服を着る彼の背中を見送ると、部屋に沈黙が戻った。
だが、その沈黙はもう以前と同じではない。
夫の不在の昼間、静かな家の空気に、あのときの湿った視線と呼吸の温度が絡みついて離れない。
そして私は知ってしまった。
一度開いた扉は、二度と閉じることはできないのだと。
今の私は──あの時の熱を、別の男と、昼下がりごとに重ねている。



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