第一章:深夜の鼓動、知らない自分に触れたくて
高校を卒業してすぐの春。桜の花びらが夜風にさらわれるように、私の好奇心もどこかへ連れていかれたかった。
東京の外れ、静かな住宅街にある実家の自室で、私はこっそりスマホを握りしめていた。ビアンの出会いサイト──それを初めて知った夜だった。
クリック一つひとつが、心臓の鼓動と同じリズムで響く。見知らぬ世界に足を踏み入れる感覚。
誰かに見つかるのが怖いのに、誰かに見つけてほしかった。
「大人の女性に会ってみたい」
そんな無邪気で危うい願望が、私を夜の渋谷へと導いた。ヒールの高い靴とベージュのワンピース。鏡の前で何度もチェックした“背伸びの装い”は、外の光にさらされると頼りなげで、まるで仮面みたいだった。
そんな私に声をかけたのが、綺麗な黒髪を肩に落とした30代前半くらいの女性──「美月さん」だった。
カフェオレ色のコートに深いワインレッドのリップ。整った顔立ちと、落ち着いた低めの声。
「……初めて?」と微笑んだその一言で、私はまるごと見透かされたような気がして、呼吸が止まりそうになった。
「ちょっと、話さない? 静かなところで」
それだけで、彼女のあとをついていった。
連れていかれたのは、駅近くのシティホテル。華美ではないけれど、清潔で落ち着いた内装。
部屋に入った瞬間、緊張で手が冷たくなった私を、美月さんは黙って抱き寄せた。
そして、柔らかく、唇が重なった。
最初は戸惑って、身体が強張った。だけど、彼女の舌がゆっくりと私の唇を押し分けてきたとき、知らなかった世界が開いたような気がした。
「……舌を、絡めて。そう……上手よ」
彼女のささやきに導かれながら、初めてディープキスを交わした。
熱くて、溶けそうで、涙が出そうだった。
第二章:ほどかれていく感覚、快楽の言語
ベッドの縁に腰掛ける私の前で、美月さんは一枚ずつ、私の服を脱がせていった。
指先は冷たくないのに、触れられるたびに身体がびくつく。下着の上から、太もも、脇腹、肩──どこに触れられても、そこだけが自分のものじゃないみたいだった。
「ちゃんと、感じてるのね。可愛い」
そう言いながら、彼女はタイツをするすると膝下まで下ろし、足首をつかむと、そのまま足の裏に舌を這わせた。
くすぐったくて、なのに気持ちよくて、思わず大きな声が漏れてしまう。
「恥ずかしがらないで。綺麗よ」
足の指の間まで、丁寧に舐められるたびに、身体の奥がぬるくなるのが自分でも分かった。
下着の中が湿っている感覚は、初めてのことで……それが何よりも“現実”を教えていた。
彼女は何度も、私の唇を奪いながら、私の首筋や耳、胸の谷間、背中、そして脇まで──隅々まで舌を這わせた。
「もっと……気持ちよくなるわよ」
彼女の声は魔法のように身体を解いていった。
ひとつ、またひとつ、快感の波が押し寄せ、私は言葉もなくその海に浮かんでいた。
そして気づけば、何度も軽く絶頂していた。
息が乱れ、視界がぼやけても、彼女の指と舌は決して止まらなかった。
第三章:抱き合う夜、知らなかった私へ
「あなたも、私を気持ちよくしてくれる?」
彼女に抱きつきながら、私は頷いていた。何も知らないけれど、ただ真似をすればいいと思った。
美月さんの服を、同じように一枚ずつ脱がしていく。シャツのボタンを外すと、下着越しに浮かぶ柔らかな膨らみ。
鼻先を近づけると、かすかに汗の匂いがして、理屈じゃなく舐めたくなった。
彼女の脇に顔をうずめ、舌を這わせる。
「……あっ、上手……」
その甘い声に背中が震えた。自分が誰かを“感じさせている”ことが信じられなかった。
カバーソックスを脱がせ、彼女の足の指を口に含む。指の間に舌を差し入れると、彼女の腰がくいっと浮いた。
「……もう、我慢できない」
そう言って、美月さんは私の下着をそっと下ろした。
膝を割られ、視線がそこに注がれた瞬間、息が詰まる。
けれど彼女は迷わず顔を沈め、舌先が触れた瞬間、私の腰は勝手に跳ねた。
「……や、だ……っ」
でも、逃げられなかった。むしろ、もっと欲しくなっていた。
彼女の舌が深く差し入れられるたび、身体の奥がぐらぐら揺れ、熱が駆け巡る。
そして──大きな波にさらわれるように、私は崩れ落ちた。
視界が白く染まり、しばらくのあいだ、言葉を失ったまま、彼女の胸に顔を埋めていた。
その夜、私たちは幾度となくキスを交わし、何度も抱き合った。
朝方、カーテンの隙間から光が差し込む部屋で、美月さんが言った。
「ねえ、女同士でも、こんなに愛し合えるの。信じられる?」
私は微笑んで頷いた。あの夜を境に、私は自分を嫌いじゃなくなった気がする。
心も身体も、知らなかった扉が静かに開いていた。
終わりに:
あの夜の舌の温度、指の優しさ、声の震え──それらすべてが、今の私の根っこにある。
初めてだったけれど、初めてだからこそ、本物だったと思う。
──私はあの夜、誰かに愛されたのではなく、自分自身を愛せるようになったのだと思う。



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