第1幕 夜のバス、見知らぬ熱を隣に感じている
静かすぎる車内に、なぜか耳の奥が熱を持っていた。
夜行バスの指定席。通路側に座り、肩を丸めてスマホを眺めていた私の隣に、スラリと長い脚が現れたのは、出発直前だった。視線を上げると、ライトに浮かぶ彫刻のような横顔。
「……あれ、もしかして……」
声をかけられて、名前を呼ばれるまで、私は彼が誰なのか思い出せなかった。
息子の、高校の同級生。よく家に遊びに来ていた子。けれど──今、この距離で見る彼は、まるで別人だった。少年の名残は端正な骨格に塗り替えられ、眼差しには大人の男の影が差している。
互いの実家が同じ町にある偶然。たったそれだけの理由で、こんなに近く、呼吸が重なるような位置に座る夜が来るなんて。
「狭いっすね、ここ」
笑いながら膝が触れる距離に座る彼。私は脚を引こうとして、逆にバッグを落としかけた。拾おうとしてかがんだとき、彼の指先と私の指が、触れた。
たったそれだけの接触に、背筋の奥にじんわりとした震えが走った。
──なんで、濡れてるの?
触れてすらいないのに。声も、手も。何もされていないのに。
窓ガラスに映る自分の顔は、ほんの少し火照っていた。
私は、ふとした思いつきで、足元のブランケットをめくり、ストッキングをゆっくりと膝までずらした。静かな車内でその音は思いのほか響き──彼が、こちらをちらりと見た気がした。
露出なんて、本当はしたことがない。
けれど今夜の私は、どこかが欠けていて、どこかが開いていた。
「……眠れないんですか?」
彼の声が、耳元で低く揺れた。
私の脚は、ストッキングのない素肌のまま、彼の膝にそっと触れていた。
第2幕 交差する吐息、沈んでいく欲望の夜行線
「もう……だめ」
そう言ったのは、私のほうだった。バスは深夜二時、最も乗客が眠り込む時間帯。ブランケットの下で私たちの指は絡まり、湿り気を帯びた掌のまま、私の太ももをなぞっていた。
私の脚はとっくに彼の膝を跨いでおり、密着したその内腿の奥から、音にならない濡れが溢れている。
耳元で、彼が息を飲む音がする。
「……やば、めっちゃ……濡れてる」
その囁きだけで、私は喉の奥が疼き、唇を噛んだ。
彼の指は、触れたまま動かない。なのに、粘膜の奥がぴくりと収縮した。ブランケットの中で、私の身体は彼に向かって開いていく。喉が、うわずる。息が止まる。
私たちはバスの座席で、隣り合っているだけ──
なのに、私はもう、挿れられてしまったような顔をしていた。
そっと彼の手を自分の奥へと導く。
指先が、入口に触れる。震える。
「お願い、ゆっくり、指……」
一の関節、二の関節。湿度が指を包み込む。私の膣が、彼の指を吸っている。狭く、柔らかく、熱を抱いて。
そして彼は囁いた。
「声、出したらバレますよ?」
その言葉に、私は絶頂を迎えてしまった。
音を殺したまま、ブランケットの下で白くなる指の動き──
そして、自分の身体が勝手に揺れてしまうことを止められなかった。
第3幕 沈黙の絶頂、バスの闇に刻まれる指の記憶
夜明け前、バスは一度だけ休憩のために停車した。
外に出るふりをして、私たちは後部トイレの扉の前で立ち止まった。誰もいない薄明の高速道路。彼が私の手を引き、トイレの中へと押し込む。
密室。
小さな灯りの中で、私の唇を噛みながら彼が言った。
「……抱いていいですか、今のまま、ずっと」
答える前に、私は彼の首に腕を回していた。
唇が重なり、背中を壁に押しつけられた。スカートが捲られ、彼の先端が、私の濡れた奥へと──
迷いなく、深く、満たしてきた。
「あ……ああっ……やっ……」
口を塞がれ、腰を揺らされ、膣が擦れる音が頭蓋の奥に響く。
目の前が霞み、足元が震え、濡れすぎて音が止まらない。
前から、そして彼に手を回され、背後からも突き上げられ、
何度も、何度も、私は絶頂した。
どれくらい時間が経ったのかも分からない。
身体の奥に彼の熱が流れ込んだとき、私は息すら止まっていた。
声が、喉に張りついたまま、頬を伝った汗だけが熱を語っていた。
扉を出たとき、空はわずかに白みはじめていた。
私は彼と目を合わせず、座席に戻る。
けれど──帰り際、彼がそっと手を重ねてきた。
「また、会えますよね」
それだけが、現実に戻る橋だった。
私は今も、バスのトイレの鉄の壁に額を預けたまま、彼の指を思い出す。
最初に触れられたときの、湿った震えを。
あの一本の指で、私は女に戻ったのだ。



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