大学二年の夏。
セミの声が夕暮れの空を濃く染めて、街がすこしずつ夜の顔を見せはじめる時間。
私は、圭吾さんの部屋にいた。
薄暗い畳の上には、ビールの缶とギターと、汗ばんだシャツたちが散乱していた。
窓からは、夜風に揺れるカーテンがかすかに揺れ、ほんのりと外の草の匂いがする。
けれど、その風さえも私の火照った身体を冷ますことはなかった。
最初はただの飲み会だった。
軽音サークルの先輩や同期が集まり、音楽の話に花を咲かせ、たまに誰かがギターをつまびく。
笑い声、氷がグラスに当たる音、そして湿気を含んだ体臭。
どこか退廃的で、でも心地よく、私はその空気が嫌いじゃなかった。
けれど、夜が深くなるほどに、空気が変わっていくのを肌で感じた。
女は私ひとりになり、周囲の視線が、私の肌の上を這うようになっていく。
「もう、暑いね」
圭吾さんが私のうなじに触れた瞬間、全身がびくりと跳ねた。
その指は、冷たい缶を握っていたはずなのに、なぜか熱を帯びていて、私の首筋を焼いた。
私のTシャツの襟元を広げ、彼の指が中へと滑り込む。
肩から背中へ、脇の下を撫でるように降りていき、私は息を詰めた。
「やだ、やめてください…」
かすれた声が喉から漏れる。
でも、その拒絶がどこか嘘っぽく聞こえたのは、私自身が一番知っていた。
彼はゆっくりと私の背後に回り、腰に腕を回して抱きしめてきた。
後ろから押し当てられた硬さに、私は小さく息を呑む。
それは拒めば拒むほど強くなり、私の臀部に押し付けられていた。
「そんな声出しといて、やめてほしいなんて言えるの?」
耳元で囁かれ、背筋がぞくりとする。
私は、言葉を失った。
圭吾さんの手が、私のTシャツをまくり上げ、下着の上から胸を包み込む。
小ぶりなその膨らみを、彼はまるで音を奏でるように優しく、でも執拗に揉みしだいてきた。
親指が乳首を擦るたび、呼吸が乱れていく。
そのたびに私は、自分が“女”として見られていることを実感させられた。
「ここ、硬くなってきてるね」
囁きながら、彼はブラの中に手を入れた。
指先が乳首を挟んで転がすたび、私は喉の奥で声を殺し、体をよじらせる。
「誰かに見られたら…」
そう思って、振り返ると、座椅子にいたはずの同期が、じっとこちらを見ていた。
その目は驚きではなく、ただ冷静に、私の反応を観察するような視線。
羞恥に頬が熱くなり、でもその視線にさえ、私は少し濡れてしまっている自分に気づいた。
圭吾さんは、私のスカートの裾を持ち上げた。
太ももを撫で、内腿をゆっくりなぞりながら、ショーツの布越しに中心を指でなぞる。
「もう、びしょびしょだ」
そう言いながら、彼は下着の中に手を滑り込ませ、くちゅり…と湿った音を立てながら、奥へと指を沈めてきた。
私は反射的に膝を閉じようとしたが、その動きを読み取ったようにもう一人の先輩が私の脚を広げた。
何も言わずに、ただ淡々と、私の身体を舞台のように扱う。
気づけば私は、複数の手に包まれていた。
肩、胸、太もも、喉元、脚の間――
どこも、誰の指なのかわからないほどに、無数の愛撫が私を撫でていた。
その瞬間、私は完全に“女”にされていた。
音楽でも、言葉でもなく、ただ肌と汗と欲望だけが響きあっていた。
「気持ちいい?」
圭吾さんが目を覗き込む。
私はもう頷くことしかできなかった。
下着を脱がされ、膝を抱え込むように開かされ、圭吾さんがゆっくりと私の中に沈んでくる。
熱くて、硬くて、そして息が詰まるほど深く――
圧迫感と満たされる感覚が一気に押し寄せ、私は腰を突き上げた。
「んっ…あ…っ」
声が漏れ、誰かが私の唇を塞ぐ。
誰のキスかわからない。
ただ、その唇が私の舌を絡め取り、呼吸すら許さない。
そのまま、私は“回されて”いった。
圭吾さんの後には別の先輩が入り、私はそのたびに違うリズム、違う角度、違う言葉で責められた。
それなのに、感じてしまう。
何度も、何度も、波が押し寄せるたび、私は快感にのまれていった。
その間、私はずっと口で誰かを咥えていた。
口の中に広がる塩気と、喉奥を突かれる感覚。
それがたまらなく、私を“淫らなもの”として確立させていく。
誰も名前を呼ばない。
誰も感情を口にしない。
ただ、音だけが響いていた――肌がぶつかる音、くちゅくちゅという水音、息が漏れる声。
朝方、誰かの腕の中で、私はうっすらと目を覚ました。
髪は濡れて、脚の間は重く、身体は倦怠感に満ちていた。
けれど、心は不思議と静かだった。
私は、あの夜に確かに“自分を明け渡した”のだ。
それからの四年間、私は彼らにとって“都合のいい存在”だった。
呼ばれれば行き、抱かれれば応じた。
そのたびに、何かを失い、何かを得ていた。
そして今、私は教師になった。
教室でギターを教えながら、ふとしたときに、夏の匂いを思い出す。
私の身体は、あの夜、音楽のように奏でられた。
自分の意思ではなく、誰かのリズムで、誰かの欲望で。
でも、あの“音”は確かに私の中で鳴っていた。
今も、静かに、深く――。
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