第一章:山奥の夜、扉の向こうに吸い込まれていく彼女
その夜、山の気温はすでに初秋の冷気をまとっていた。
木々のざわめきと虫の音。大学のゼミ仲間6人で訪れた山奥の貸コテージ──ロフト付き、2LDK、木の香りが残る新築のコテージだった。都心の喧騒から隔絶された空間に、なぜか僕は妙な不安を感じていた。
ビール、焼酎、缶チューハイ。流しの前には空き缶が山になり、男女が混ざり合った笑い声が響く。
「じゃあ、やるしかないよな。王様ゲーム。」
その言葉が落ちた瞬間、僕の心は静かに沈んだ。
──彼女がいたからだ。
陽菜。清楚で、どこか浮世離れした静けさを纏う女性。大学の中でも目立つ存在だった。誰とでも壁をつくらず、でも簡単には踏み込ませない。彼女のその透明な距離感が、僕にはたまらなかった。
──彼女は、僕の恋人だ。
付き合ってまだ2ヶ月。ふたりの関係は皆には秘密にしていた。彼女の希望だった。軽々しく扱われたくないから、と。
「2番と4番、外のシャワー室に15分こもって出てきちゃダメ。」
誰かがそう言ったとき、酔いがすっと覚めた。
番号を引いたのは──
2番:ユウタ。
4番:陽菜。
あまりに皮肉な組み合わせだった。
皆がどよめいたが、それ以上は何も言わなかった。陽菜は一瞬だけ、僕を見た。助けを求めるように…でもすぐに目を逸らした。
そして、彼女は笑った。
「大丈夫、行ってくるね。」
白いカーディガンを肩からかけて、そっとサンダルを履いて出ていった。
僕の心は、暗い穴に沈んでいくのを感じていた。
第二章:扉の奥、壁の向こうから漏れる熱
シャワー室は、コテージの外にある小さな木造の別棟だった。脱衣スペースと浴室が繋がっていて、鍵をかけることもできる。コテージと距離は2メートルほど──だが、その距離が永遠に感じた。
静かな空気のなか、皆が無言で缶を握りしめていた。無理に笑う者もいたが、その声は上滑りしていた。
そして、音がした。
「…ギシ……ッ」
最初は微かだった。床を軋ませるような──否、木造の板が、何かの“揺れ”に反応するような、湿った音。
会話が止まった。皆、笑うことをやめた。
「……」
その次に聞こえたのは、シャッと布の擦れる音。
僕は思わず耳を澄ませた。聞きたくないのに、聞き逃せなかった。
──吐息。
女のものとも、男のものともつかない、抑え込まれた小さな呼気。
「っ…は……」
彼女の声だった。確信してしまった。何度も聞いてきた、微かに震えるあの甘い息遣い。
心がざわめいた。手にした缶が潰れかけ、膝が震えていた。
隣の沙耶が、空気を読んでいるふりをしながら耳をそばだてていた。その頬が、わずかに赤く染まっているのが見えた。
──陽菜の脚が開かれているのか。
──ユウタの手が、彼女の腰を掴んでいるのか。
想像が止まらない。止めたくても、次の音が現実を突き刺した。
「ドサッ……」
何かが倒れた音。衣類か、あるいは──。
そしてまた、ギシギシと軋むようなリズム。
その音に、皆が目を逸らした。陽菜の表情が、髪の乱れが、シャワーの水音にかき消され、壁の向こうで彼女が誰かに貫かれている光景が、僕の頭の中に焼きついていった。
──なぜ彼女は、戻ってこない?
僕の中で何かが崩れていった。
第三章:赦しの奥、彼女の身体に残る熱
山の夜は静かだった。虫の声も、風の音さえも、なぜか途切れていた。
皆が布団に入ったあとの深夜、コテージの小さな個室に灯りは落とされていて、月光だけがカーテンの隙間から細く差し込んでいた。
その光の中、ドアが軋む音と共に、彼女──陽菜が入ってきた。
「……起きてる?」
その声は、今まで聞いたどんな彼女の声よりも細く、震えていた。
シャワーで濡らした髪が肩に落ち、首筋を伝う雫が、白いTシャツの生地に淡い陰を作っていた。
胸元はわずかに緩み、呼吸のたびに喉が上下していた。彼女の肌にはまだ熱が残っていた。
僕は布団の上に座ったまま、何も言えなかった。
ただ、近づいてくる彼女の足音に耳を澄ませ、心を締めつけるような鼓動を感じていた。
彼女は、僕の前で立ち止まり、小さく囁いた。
「……ごめんね」
その瞬間、全てが崩れた。
言葉じゃなく、体温で伝えたかった。
「いいよ」と答えながら、僕は彼女を抱き寄せた。
首元に顔を埋めた彼女の肌は熱く、触れた指先にわずかな震えを感じた。まるで、何かに怯えているようだった。
「お願い、……犯して」
その一言は、雷のようだった。静寂を裂いて、僕の中の“人間”を破壊した。
僕は彼女を布団の上に押し倒した。
唇が触れると、彼女は震えながら目を閉じた。
手を伸ばしてシャツの裾をめくると、彼女の下腹部がうっすらと湿っていた。Tシャツの下に何も着ていないことに気づいて、僕の理性は完全に崩壊した。
太ももに触れると、肌が張りつくほどに濡れていた。
──それが僕のためなのか、それとも彼の名残りなのか。
その曖昧さに、嫉妬と欲情が混ざって、僕は口元を乱暴に這わせた。
「……ユウタに、されたんだろ?」
耳元で低く囁くと、彼女は目を伏せたまま、唇だけで小さく「うん」と答えた。
僕の中で、なにかが切れた。
手を伸ばし、彼女の膝を割るように開いた。
小さく抵抗する脚を押さえつけると、そこはすでにとろけるように熱く、潤んでいた。
指を滑り込ませた瞬間、粘るような感触が僕の指に絡みついた。
「……まだ、残ってるのか?」
問いかけるように指を深く突き入れた。陽菜は小さく首を振り、口元を押さえながら喘いだ。
「ちがう……あなたの、が……ほしい……」
その一言が、全身を駆け巡った。
彼女の太ももに顔を埋め、舌先でそっとなぞると、ぴくんと腰が跳ねた。
奥の奥まで味わうように、啜るように口づけを繰り返す。
唇の裏で、彼女の熱がどんどん高まっていくのが分かった。
「……もう、ダメ……っ」
陽菜が声を殺して震えながらそう言ったとき、僕は顔を上げ、そっと彼女の腰を抱き寄せた。
そして、自分のものを彼女の奥へと導いた。
挿れる瞬間、彼女は一度だけ顔を背け、唇を噛んだ。
ぬるんと入り込んだ内部は、熱くて柔らかくて──まるで泣いているように僕を締めつけた。
腰を打ちつけるたびに、彼女の身体が軋んだ。
唇が乱れ、呼吸が短くなっていく。
その瞳はどこか遠くを見ているようで、けれど逃げてはいなかった。
僕は、彼女の中で果てた。
荒い呼吸の中で、僕は囁いた。
「──アイツにしたのと、同じことして」
すると陽菜は、ゆっくりと身体を起こし、無言で僕の前に跪いた。
濡れた髪が頬にかかり、潤んだ目で僕を見上げながら、そっと唇を開いた。
熱の余韻が残る僕を、やさしく、だが確かに、咥え込んだ。
その姿が、あまりに淫らで、あまりに愛しくて、僕はその髪を撫でながら、涙をこらえていた。
──彼女が何を想いながらそれをしているのか、僕には分からなかった。
けれど一つだけ確かなのは──
あの夜の“15分”が、彼女の身体と心に確実に残っていたということ。
彼女はその後、僕の隣に静かに横たわった。
そしてその夜、彼女は一度も──僕の目を見なかった。
今も夜が静かすぎると、あの軋む音が耳の奥に蘇る。
それはたぶん、もう二度と消えない記憶。
彼女が、戻ってきたはずのその夜に──
たしかに、まだどこかで“戻っていない”ことを、僕は知っている。



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