第1幕:図書館の窓辺で目が合った日から
誰もいない時間、誰もいない空間。それなのに、身体の奥がざわついていた。
私が彼と初めて言葉を交わしたのは、卒業制作の資料探しで訪れた図書館だった。
夕方六時を過ぎると、閲覧席にはほとんど人がいなくなる。静寂の中でページをめくる音さえ、肌に触れるようだった。
窓際の席。
カーテンの隙間から、薄紫の夕暮れが差し込んでいた。
向かい側の席には、文学部の後輩──沢渡くん。名前だけは知っていた。
視線がぶつかったのは、ほんの一瞬。
でも、なぜだろう。目の奥に、何かを見透かされたような感覚が走った。
胸の奥が、ぞくりと震えた。
その瞬間、私は本を読むふりをしてページをめくった。
でも文字はもう、頭に入ってこなかった。
彼の視線がまだ、頬のあたりに留まっている気がした。
見られているだけなのに、下着の中が、じわっと熱くなる。
どうして? そう自問する間にも、指先の湿り気は増していた。
その日以来、彼とすれ違うたび、肌のどこかが記憶するようになった。
第2幕:音を立てない指先が、記憶のなかに入ってくる
もう、触れられてもいないのに、身体の奥では“その先”を待っていた。
夜の研究棟は、静寂という名の水の中に沈んでいるみたいだった。
誰もいない講義棟。会議室の鍵を借りてきて、私は卒論の資料を並べていた。
そこに、彼がふらりと入ってきた。
「まだ残ってたんですね」
低い声。くぐもった音。
私が驚いたふりをしたとき、彼は微笑んだ。
「……先輩って、こういうときがいちばん無防備ですよね」
意味を測りかねて、私は口を閉ざすしかなかった。
その沈黙を、彼は楽しんでいるようだった。
彼が近づいてくる。音を立てない靴音が、床ではなく、私の鼓膜に響く。
「俺、ずっと見てました」
その言葉だけで、脚の奥に熱が走った。
視線だけで、身体の奥を撫で回されている感覚。濡れていくのが、自分でわかった。
「触れませんよ。まだ」
彼の指先が、空気だけを撫でるように、頬の近くを通る。
でもその手が、肩に置かれる瞬間、私の息は詰まった。
唇が触れそうで、触れない。
頬に、指がそっと添えられるだけで、吐息が震える。
そして──彼の指が、ブラウスのボタンに触れた。
一つずつ、ゆっくりと。
「先輩、濡れてますよね」
その言葉に、私の脚の奥が小さく痙攣した。
彼は、見抜いていた。
私の快感は、視線と沈黙の中で育っていたことを。
第3幕:沈黙が溶け、呼吸と呼吸が交差した夜
抱かれていないのに、抱かれていた記憶が、あの夜から残りつづけている。
彼が私を押し倒すことはなかった。
椅子に座ったまま、彼の膝に跨っていた。
まだ服は脱いでいないのに、身体の奥では“挿入された後”の感覚が広がっていた。
唇が、やがて重なった。
舌と舌がふれると、張り詰めていたものが崩れて、私は堰を切ったように彼の名前を呼んだ。
「……もう、入ってるみたい……」
喉の奥で、熱い声がにじんでいた。
スカートの中、下着越しに彼の指が、濡れた縁をなぞっていた。
そして──
「先輩、自分で……腰、動かしてますよ」
羞恥と快感が同時にせり上がり、私は膝の上で震えながら、彼の首にしがみついた。
指はいつしか中へ。喉の奥が震えるたび、膣がそれに呼応して締まり、また溢れた。
彼は、言葉ではなく、目だけで何かを伝えてくる。
それが快感を深くする。
そして私は、息が詰まるほどの絶頂を──音を立てずに迎えた。
彼が帰ったあと、私は窓際の椅子に座ったまま、脚を閉じることができなかった。
誰にも知られないように、濡れの余韻がまだ、太ももを湿らせていた。



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