その日、私は、ただ日常のひとコマを過ごしていたにすぎなかった。
夕食の下ごしらえに必要な調味料を買いに、小さな商店街の一角にある、古びた食品店へと足を運んだ。
夫と暮らして十数年、平穏な生活にささやかな不安と倦怠が混じり始めていたものの、
それは日々の買い物や、洗濯物の手触りと一緒に、自然と受け流していた。
店内には私ひとり。
棚に整然と並んだ乾物や缶詰、ふわりと香る出汁の匂いが、懐かしいような安心感をくれた。
調味料を手に取り、何気なく小さなお菓子の棚に目をやったとき、私は気づかなかった。
誰かの視線が、私の背後からじっと注がれていたことに──
「奥さん、ちょっといいですか?」
出口のすぐ横で、静かに呼び止められた。
振り返ると、レジ奥から出てきた中年の男。
店の名前が入った古びたエプロン、くたびれたシャツに油じみが残っていた。
「お会計、これだけでしたよね?」
「はい、そうですけど……」
彼は、無言で私の手提げバッグを指さした。
「少し失礼しますね」
何の説明もないまま、男の手が私のバッグを開けた。
心臓が跳ねる。勝手に? けれど、抗議の言葉が出る前に──
「……これは?」
男が指先でつまんだのは、見覚えのない菓子のパッケージだった。
それは私のバッグの奥から、しっとりとした音を立てて現れた。
「それ……違います、私はそんな……」
「お店の商品ですよ。レジは通ってませんよね?」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
犯意なんて、なかった。触れてもいない。
だけど、現実としてそれは“私のバッグの中にあった”。
「防犯カメラ、確認します?」
その言葉に、私は凍りついた。
小さな店のことだ、どこまで映っているのか分からない。
私は咄嗟に、首を横に振った。
「お願いします……見逃してください……家にも学校にも、電話は……」
彼はふぅと息を吐き、店の奥──事務所の扉を指さした。
「じゃあ、奥で少しだけ……お話しましょうか」
事務所は狭くて、古びていて、少しだけ油と紙のにおいがした。
鉄製の机と、椅子がふたつ。
一歩踏み入れただけで、空気が違った。
異物として踏み込んだ私に、部屋全体が警告を送っているようだった。
「ここで警察を呼ぶこともできますが……まあ、僕はね、奥さんが万引きなんて、したくてしたとは思えないんですよ」
低く静かな声。
一見、穏やかな物腰でありながら、奥に潜む圧は無視できない。
「だから……代わりに、お願いをひとつ、聞いてくれませんか?」
彼は椅子に腰かけ、私のほうをじっと見つめた。
その視線が、胸元を、膝を、首筋を、静かになぞる。
「……お願い、って……」
私の声は、ひどくかすれていた。
彼は立ち上がると、私のすぐ傍に来て、指先でスカートの裾を軽くつまんだ。
「こういう時にね、“やめてください”って言えば済むんです。
でも奥さん、口では拒んでても……震えてますよ」
彼の指先が、タイツ越しに太ももをなぞる。
その温かさに、喉の奥から声が漏れそうになる。
「や……やめて……」
言葉とは裏腹に、身体は動けなかった。
羞恥が血を駆けめぐり、呼吸が浅くなる。
脳が拒否しているのに、皮膚は熱を帯び始めていた。
「服の上からじゃ、わかんないな」
彼は手をスカートの中にすべり込ませ、下着の上からそっと触れた。
「……濡れてる。嘘でしょう?」
「……ちが……違う……っ」
否定する言葉が、かすれ声で消える。
けれど、濡れた布地が貼りつく感覚が、自分自身を否応なく告発する。
私は、ゆっくりと押し倒されていった。
狭い事務机に背を預け、ブラウスのボタンをひとつ、またひとつと外されていく。
指先の動きが妙に優しく、だからこそ恥ずかしさが膨らむ。
「奥さん……いい身体してる」
彼の手が、ブラの中に入り込む。
乳房を指でなぞり、ゆっくりと円を描く。
「ほら……声、漏れてますよ」
「ちがっ……ちがうの……っ」
だけど、奥から響く疼きはもう、言い逃れの効かないほど深くなっていた。
こんな状況で──羞恥と屈辱の中で──私の身体は、悦びに染まりはじめていた。
この体験談で興奮したら必見!!
「じゃあ……どうするつもりなんですか、奥さん」
店長の声は穏やかだった。
それが余計に、私を深く追い詰めた。
事務所のドアは、閉じられたまま。外のざわつきは、ほとんど聞こえない。
まるでここだけが、別の時間に切り取られているようだった。
「……警察には……」
私が言葉を絞り出すと、彼は小さく笑った。
その笑みは決して冷たくはない。でも、優しさとは違う熱を含んでいた。
「通報はしない。でも、その代わり──何か、払ってもらわないと」
彼の指が、机の端をトントンと叩いた。
「例えば……身体で、っていうのは、どうです?」
全身が震えた。
でも、私の口から出たのは、抗議でも拒絶でもなかった。
「……ここで?」
「ここで」
彼は椅子から立ち上がり、私の目の前に歩み寄ってきた。
私はその場から動けなかった。恐怖ではない。羞恥と、予感のような何かに、脚が絡め取られていた。
「……わかりました」
自分の声が、誰かのもののように聞こえた。
私は椅子に座らされ、彼の指が静かに膝へと伸びてきた。
タイツの上から、そっと撫でるような動き。
ゆっくり、そして確実に、羞恥心を剥がしていく。
「こうやって……罰を受けるなんて、想像もしなかったでしょ」
耳元で囁かれると、喉がひくついた。
「……想像なんて、して……ない、です」
言葉は震えていた。でも、身体は反応していた。
下着の奥、じわりと滲んでいく感覚を、私は認めたくなくて、脚を閉じようとした。
けれど、彼の手はそれを許さなかった。
スカートをめくり上げ、指が下着の中にすべり込む。
濡れた音が、恥ずかしいほどに響いた。
「ほら……身体は、正直ですね」
「やだ……そんな……」
でも、嘘はつけなかった。
触れられた場所から熱が伝わり、腹の底が疼いていた。
彼の指が、ゆっくりと私の奥をなぞった。
吸い上げるように、じんわりと快感が広がる。
「奥さん、罪ってのはね、気づいたときには、もう深くまで入り込んでるもんなんですよ」
その言葉が、まるで自分に向けた呪いのように響いた。
私は、許されたいと思った。
この人にではない。
自分自身に──自分が感じてしまっていることに対して。
でもその赦しは、快楽によってしか得られないと、どこかでわかっていた。
「立って、机に手をついて」
言われるまま、私は机に両手をついた。
スカートは腰までめくられ、下着は太ももまでずり落ちていた。
背後から彼の温もりが迫ってくる。
そして、太腿の内側に硬く熱いものが触れた瞬間、息が止まった。
「奥さん、自分がどれだけ濡れてるか……わかります?」
返事ができなかった。
羞恥で頬が熱くなり、背筋を伝う汗が冷たく感じた。
「入れるよ」
次の瞬間──
押し広げられた私の奥に、熱が一気に押し込まれた。
「ん……っ……ああっ……!」
机に手をついたまま、体が跳ねる。
最奥を押し上げられる感覚。痛みではない。むしろ、渇望がそこに届いたことに、全身が打ち震えていた。
彼はゆっくりと腰を動かし始めた。
奥まで届くたび、頭の中が真っ白になりそうだった。
「奥さん、罰なのに……感じてるんですか?」
「ちが……う……のに……あぁっ……!」
否定するたび、声が裏返る。
いやらしい水音と、彼の吐息、そして自分の喘ぎ声が、狭い部屋に充満していく。
机に這いつくばるように突かれながら、私は、快楽の底へと堕ちていった。
絶頂は、不意にやってきた。
何かが弾け、崩れ落ちる。
震える脚、しびれる腰、呼吸が整わない。
彼は私の中で深く満たし、静かに動きを止めた。
「……罰、ちゃんと受けられましたね」
事務所の時計が、静かに時を刻んでいた。
私はただ、呆然と、机に凭れたまま──
自分の罪と快楽を、心の奥で噛みしめていた。



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