定時を過ぎたオフィスは、まるで別の世界だった。
人のざわめきも、電話の音も、コピー機の機械音も、すべてが消え去り、
残されたのは白く冷たい蛍光灯の光と、静かすぎる空気だけ。
カタカタとキーボードを叩く私の指先の音だけが、広い空間に孤独に響く。
そのリズムの向こうで、彼の足音が静かに近づいてきた。
彼――直属の上司であり、13歳年上の、既婚男性。
仕事ぶりは誠実で、部下にも厳しくも温かい。
けれど、誰もいないこの空間でだけ、
彼は私を“部下”ではなく、“女”として見ている。
「まだ終わらないのか?」
声だけで、背筋がぴり、と震える。
低く落ち着いた声。それは私の中に眠る欲を、簡単に呼び覚ます呪文のようなものだった。
「あと少しだけ…報告書の確認が…」
答えながら、背後に立った彼の気配に、息が詰まりそうになる。
彼は私の椅子の背に手を添え、ゆっくりと身体を傾けてきた。
スーツの生地の擦れる音。
彼の香水と、微かに混じるタバコの残り香が私の鼻先をかすめる。
「…ずっと我慢してたんだ、今日」
囁くような声が耳元に触れると、身体の奥が熱を帯びていく。
「見てた。シャツの隙間から覗く、鎖骨も…
昼休みに書類を探してかがんだときの、下着の色も…」
指先が、私の肩口に触れる。
シャツの布地越しなのに、その感触は火傷のように熱かった。
「…今夜は、もう誰も来ない」
その言葉に、私の中の理性が、静かに崩れていった。
椅子を回され、彼と正面から向き合う。
ネクタイを緩めた彼の喉元が、こんなにも色っぽく見えるなんて――
かつては想像もしなかった。
唇が触れ合う。
オフィスの空気の中で、こんなに甘い音が響くことがあるなんて。
彼の舌が私の中に入り込むと同時に、私は目を閉じて、全てを委ねた。
「可愛い声、出すね…会社でそんな顔してたなんて、知らなかった」
スカートの裾がまくり上げられ、彼の手が太腿を這っていく。
冷たい指先と熱い吐息が交差して、私はすでに膝が震えていた。
彼の指が、ストッキングの上からゆっくりと擦る。
膝の裏、太腿の内側、そしてパンティの上から、秘めた場所を。
「もう…濡れてる」
彼の声が、少しだけ掠れる。
「わかってたよ。今日の午後、プレゼン資料を一緒に確認してた時から、
君の瞳が少しだけ潤んでたのも、膝が寄ってたのも――全部」
シャツのボタンが一つずつ外され、ブラのカップがめくられる。
乳首が空気に晒されると、すぐに硬く立ち上がった。
その小さな粒に、彼の唇が触れる。
「ぁ…あぁ…だめ、そんな風に…」
舌で転がされ、吸い上げられるたびに、理性の枷が少しずつ外れていく。
指先が、パンティの横から中に入ってくる。
熱い蜜をすくうと、それを見せるように私の目の前で舐めた。
「こんなに…淫らに濡らして、可愛いね…」
机に押し倒される。
背中に書類が落ちていく音がしたけれど、もう気にならなかった。
彼のベルトが外され、スーツのズボンが足元に落ちる音。
そして、下着越しに固くなったものが私の脚の間にあたる。
「入れていい?」
その一言に、私はうなずくしかなかった。
熱く硬いものが、私の中に押し入ってくる。
ゆっくりと、けれど確実に奥へと侵入するその感覚に、
私は唇を噛んで、声を堪えた。
「感じてる顔、ちゃんと見せて」
彼の指が私の顎を持ち上げ、視線を絡めながら腰を打ちつけてくる。
目が合った瞬間、羞恥よりも快楽が勝った。
奥を突かれるたびに、机がきしむ音がする。
私のヒールが床を滑り、片足が宙に浮く。
「やらしい音、響いてるね…誰か来たらどうする?」
そんな言葉で、さらに心をかき乱してくる。
「来ない…来るわけ、ない…」
「そうだね。君がこんなに淫らになるの、俺だけが知っていればいい」
彼の手が、私のクリトリスに伸び、指の腹で擦る。
「ぁ…そこ…だめ…もう…!」
快感の波が押し寄せ、思わず彼の名前を叫びそうになる。
「いっていいよ。誰にも聞こえない、君の声」
その一言で、私は弓なりに身体を反らせて、声を上げた。
熱が抜けた身体を、彼の腕がしっかりと抱き留めてくれる。
鼓動が、まだ落ち着かない。
「……次は、会議室でもしてみたい」
彼はそんな冗談を呟いた。
「ひどい人…でも…嫌じゃない」
私の声が震える。
けれど、もう後戻りなんてできないと、分かっている。
この関係が続く限り、
私は、彼の前でだけ「女」になれるのだから。
その日、空気はどこか湿っていた。
朝から降っていた雨が止み、雲の切れ間からのぞく太陽が、
ビルの窓ガラスを眩しく照らしていた。
午後の静かなオフィス。
会議は終わり、彼と私は、それぞれの席に戻って仕事を再開するはずだった。
けれど彼は、私の内線にそっとかけてきた。
「ちょっと、資料整理…手伝ってくれる?」
その声に、何かを悟った私は、無言でうなずいた。
誰に気づかれることもなく、彼の後を追って――
私たちは、普段ほとんど使われない西側の倉庫へと向かった。
狭く、静かな空間。
段ボールが積まれ、古い什器や備品が無造作に並べられたその場所には、
昼間の光も届かない。
ドアが閉まる音とともに、世界が遮断された。
彼が振り向き、私を見つめる。
その目の奥に潜んでいるのは、理性ではなかった。
「……さっき、プレゼン中、何度も脚を組み替えてただろ」
「え……」
「わかってる。わざとでしょ」
「……違う、そんなつもりじゃ…」
「嘘。俺がどれだけ我慢してたか…わかってるくせに」
そう言いながら、彼の手が私の腕を引いた。
背中が冷たい棚に押しつけられ、唇が塞がれる。
甘く、深く、舌が絡み、呼吸が奪われる。
「……昼間に、こんなこと……っ」
「誰も来ない。……俺が鍵、閉めたから」
スカートの裾をなぞる指先。
布越しの感触だけで、腰が抜けそうになる。
彼の手が私の膝の内側に触れる。
ストッキング越しのその感触は、夜とは違う種類の興奮を生む。
「……感じてる?」
「…や、だって……昼間だよ…」
「むしろ、その方が……興奮しない?」
囁く声が耳朶をくすぐり、鳥肌が立った。
シャツのボタンが外され、ブラがずらされる。
乳首が露わになり、すぐに彼の舌が吸い上げてくる。
「んっ……や…だめ…」
「誰にも見られてないのに、そんな声……」
「だって……」
「可愛すぎる」
彼の指がスカートの中に潜り、ショーツを撫でる。
すでに濡れているそこに、指先が食い込む。
「すごい…びっしょりじゃないか」
「っ…ぅ…し、仕方ないでしょ…」
「……昼間なのに、こんなに濡らしてるなんて…」
「言わないで…恥ずかしい…」
彼の指がショーツの隙間から入り、奥を確かめるようにかき回す。
入口を撫でるように弄ばれると、身体が小刻みに震えた。
「声、抑えてね」
その言葉とともに、彼はしゃがみ込んで、舌を私の中心に這わせた。
「んんっっ…っあ……だめっ…そんな……ッ」
倉庫に響く、湿った音。
舌の動きと、彼の息づかい。
誰にも聞かれていないとわかっていても、羞恥が混じった快感はいつもより鋭く、
私の全身を打ち震わせた。
「……もう、入れていい?」
頷くことしかできない私に、彼はズボンの前を解き、
熱くなったものを取り出した。
私の片脚を持ち上げ、棚に足をかけさせて、体勢を整える。
そのまま、濡れた奥へ――彼の熱が、ゆっくりと入ってきた。
「ん……んぁっ……」
「すごい……キツい」
「昼だから……体が、緊張して……」
「それが、たまらない」
奥まで深く入り込まれ、腰を動かされるたびに、
音と快感が倉庫に満ちていく。
「……そんな顔してたら、俺、我慢できない」
「い、いって……も、いい……?」
「いって。俺だけに、見せて」
彼の腰の動きが速くなり、私は叫びそうになるのを必死で噛み殺した。
限界が訪れ、身体が硬直し、波が襲う。
「ぁぁっっ……ああっ……!」
彼の腕にしがみつきながら、私は光のない倉庫の中で、
白い閃光を見た。
息が整わないまま、彼と見つめ合う。
「……昼間に、こんなことするなんて」
「君が誘ったんだろ?」
「えっ……」
「脚、組み替えながら俺を見たあの目……ずるい」
私たちはふたりで静かに笑い合った。
外では太陽がまぶしく光っていたけれど、
この小さな倉庫の中で、私はすっかり夜の女になっていた。



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