その夜、たったひとつの視線が、私の肌をほどいた。
静かな場所に身を置きたくなる夜がある。
何かから逃げたいわけじゃない。ただ、自分をほどきたくなるような、そんな夜。
仕事帰りに思いつきで取った夜行バスのチケット。行き先は、北の実家。
コーヒーとチョコをカバンに入れて、私は東京駅近くのバス乗り場に向かった。
平日夜のターミナルは、意外なほど閑散としていた。
すれ違う人の表情はどこか緩んでいて、私も自然と足取りがゆっくりになった。
バスはすでに停まっていて、運転手が機械的に乗車券を確認していた。
乗り込んでみると、予想通り車内はがらんとしていて、最後列の右端──私の定位置のような場所が空いていた。
誰にも気を遣わず、背もたれを倒してしまえるこの席が、私は好きだった。
私が座っている斜め左、最後列の反対側には、ひとりの青年がいた。
年のころは、たぶん19か20。
キャップを深くかぶっていて、顎のラインがまだ少年の面影を残している。
それでいて、座り方やふとした目線に、大人になりかけた男の輪郭があった。
──あれ?
彼と目が合った気がして、視線を逸らした。
そして数分後、また。
三度目にして、私は小さく笑って、わざと視線を返した。
そしたら、彼は目を泳がせ、帽子のツバをいじりながら前を向いた。
……かわいい。
なんでもない時間に、予期せぬ“異性の気配”が差し込む。
そんなことだけで、心が少しずつ、緩んでいくのを感じていた。
バスが動き出し、東京の街の灯が流れていく。
周りの乗客たちはすでにイヤフォンをして眠る準備をしている。
だけど私は、なんだか眠れそうになかった。
カーディガンを脱いで、身体をひねってストレッチする。
そのとき、視線を感じた。
ちらり、と彼を見ると、まさにこちらを見ていた。
胸元のキャミソールが少し開いていたことに気づき、私はわざとらしく前髪を整えるふりをして、胸元を隠した。
──でも、ちょっとだけ、そのままでもいいかなと思っていた。
「ねえ」
私はふいに声をかけた。
静まり返った車内で、ひそひそ声が吸い込まれていく。
「さっきから、ちらちら見てたよね」
彼は驚いたように目を丸くして、帽子を取った。
その瞬間、顔がはっきり見えた。
まつ毛の長さと、切れ長の目。清潔感のある横顔。
やっぱり、綺麗な男の子だった。
「ごめんなさい……あの、なんか、すごく……綺麗で」
「ふふ、そんなふうに言ってくれるの、久しぶりかも」
会話はそれだけだった。
けれど、それだけで空気が変わった。
わたしの胸の奥で、何かがふわっとほどけて、熱を帯びた。
車内が薄暗くなると、彼が再びちらりと私の方を見た。
その目が、さっきよりも少しだけ長く私の体をなぞった。
脚。
胸元。
そして、視線が慌てて逸れていく。
「……こっち、来る?」
私が小さく手招きすると、彼はしばらく動けなかった。
そして、静かに席を立ち、私の隣に座った。
「……翔太っていいます。大学、まだ一年です」
「私は麻衣。東京で働いてるの。25歳……一回り上だね」
「全然……大人っぽくて、なんか……スタイルも良すぎて、緊張してます」
「ふふ、そんなにジロジロ見てたくせに」
「……脚、綺麗で……あと、胸元……その……」
彼が言葉を詰まらせたとき、私は静かに息を吐いた。
自分のCカップの胸が、キャミソール越しにふくらみを描いているのを意識した。
翔太の目は、明らかにそこに吸い寄せられていた。
でも──彼は触れてこなかった。
ただ、膝に手を置いたまま、黙っていた。
「……眠そうだね。少し寝る?」
「はい……でも、ちょっと緊張してて」
「じゃあ、こうする?」
私は自分の太ももをぽんと叩いた。
「……いいんですか?」
「甘えたいんでしょ? 顔に書いてあるよ」
彼は言葉なく頷き、そっと頭を私の膝に置いた。
そのときの彼の体温が、じんわりと伝わってくる。
スレンダーな私の太ももに、若い男の子の頬が触れている。
服の上からでも分かる緊張と欲の入り混じった鼓動。
彼の呼吸が、私の胸の近くで乱れる。
私はただ、何も言わずに、髪を撫で続けた。
言葉はいらなかった。
ただ、触れているだけで──身体の奥が、熱を帯びていくのを、私は確かに感じていた。
──それは、始まりではなく、“ほどけの予感”だった。
翔太の頭は、今も私の膝の上にある。
彼の頬と私の太ももが密着し、私の心拍だけが異様に響いていた。
車内は静かで、ほんのかすかにシートのきしむ音と、道路の振動が続いている。
私は薄く開いたキャミソールの隙間からこぼれる自分の胸のふくらみに、彼の呼吸がふっとかかるたび、下腹がきゅっと熱を帯びた。
「翔太……」
呼びかけても、彼は眠ったふりをしているのか、わずかに目を閉じたまま、頬を私の脚にすり寄せた。
その仕草が、愛おしくて、甘くて、少しだけ──挑発的だった。
私は彼の髪にそっと指を通しながら、もう片方の手で、そっと彼のシャツの裾に触れた。
胸のすぐ下で眠る彼に、私は囁くように問いかけた。
「……起きてるんでしょう?」
彼のまつ毛が微かに揺れ、唇がかすかに震えた。
答えはなかったけれど──私はもう確信していた。
私はそのまま、手をゆっくりと、彼のズボンの上に滑らせた。
触れた瞬間、明確な硬さがあった。
若くて、張り詰めた熱が、薄布越しに私の手のひらを跳ね返してくる。
翔太の身体が、ピクリと反応する。
でも彼は目を開けない。ただ、膝の上でじっと、私の手を受け入れていた。
私はその硬さに、ゆっくりと指を沿わせた。
なぞるように、撫でるように、少しずつ圧をかけていく。
布越しに伝わる熱と形に、私は息を浅くする。
「……翔太、すごく……反応してる」
囁くと、彼の頬が真っ赤に染まったのが、夜の車内でもはっきりとわかった。
「……恥ずかしいです」
「そんなことないよ。素直なの、可愛い」
私はズボンの留め具に指をかけて、そっと外す。
彼は小さく息を呑み、でも抵抗はしなかった。
指を差し入れたその先に、むき出しの熱があった。
若い命のように脈打つそれに、私はゆっくりと触れる。
包む。
なぞる。
締める。
ほどく。
私の指は、まるでそれが当たり前のように、翔太の昂ぶりを掌のなかで育てていった。
「……気持ち、いい?」
そう聞くと、彼は小さくうなずき、声にならない声で「……はい」と漏らした。
彼の身体は微かに震え、脚が小さく開かれた。
その仕草のすべてが、私をさらに昂らせる。
バスのなか。
誰にも見られず、誰にも知られず、
私はひとりの青年の快楽を、静かに手のひらで導いていた。
そのたびに、私の胸もじんわりと熱を持ち、
乳首がニットの内側で硬く尖る。
私は彼の耳元に、そっと唇を近づけて囁いた。
「……こんなにして。お姉さんのせいにする?」
「……はい。麻衣さんのせいです」
その言葉に、私は指先の動きをわずかに速める。
細かく震える彼の身体。
そして、熱が指先に強く脈打ち──翔太は小さくうめき声を漏らした。
声を殺すように、私の膝に顔をうずめて。
快感に抗えず、でも誰にも気づかれないように。
──なんて、背徳的で、甘い時間。
私は彼を包みながら、自分の下腹部がじんじんと疼くのを感じていた。
まるで、自分も触れられているような錯覚。
「……ねえ翔太。まだ続き、したい?」
彼は赤くなった顔のまま、小さくうなずいた。
私は彼のズボンを静かに戻しながら、耳元にこう囁いた。
「だったら……次の場所で、もっと深く。もっと、奥まで」
バスが目的地のターミナルに滑り込んだのは、まだ陽の昇る前だった。
空は灰色に沈み、世界全体が夢のなかにいるような、そんな曖昧な時刻。
周囲はまだ眠っていて、誰にも見られず、誰にも気づかれない。
私と翔太は自然な流れで歩き出し、無言のまま近くのホテルに入った。
ロビーに漂う香り。
深夜料金の精算機の音。
カードキーが小さく鳴って、静かにドアを開けた。
部屋に入った瞬間、私は靴を脱ぎながら振り返った。
翔太が、息を呑んでいた。
私の背中。脚。裾からのぞく肌に、彼の視線がすべて吸い寄せられているのが分かった。
「どうしたの?」と聞くと、彼は小さく囁いた。
「……夢みたいです。さっきのが、まだ手に残ってて」
私は振り返り、翔太の手を取った。
その手を、自分の胸に当てる。
「じゃあ……続きを、ちゃんと教えて」
ニットの中に、素肌があることに気づいた瞬間、彼の指が震えた。
私のCカップの乳房を包むその手が、少しずつ動き始める。
指先が、ゆっくりと形をなぞり、先端の硬さに触れたとき、私は喉の奥から小さく声を漏らした。
「……あ……」
翔太の唇が胸元に落ちる。
舌が、吸い上げるようにゆっくりと私の乳首を舐める。
肌に触れるそのたび、私の背中が震えた。
「……柔らかくて……すごく……好きです」
その言葉に、胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
触れられているのは身体なのに、心の奥まで溶けていく。
私はシャツのボタンを外し、キャミソールのストラップを肩から落とした。
照明はつけず、カーテン越しの仄暗い光だけが、私たちの肌の陰影を映していた。
翔太の手が、私のウエストに回り、細い腰を撫でる。
「やっぱり……すごく綺麗です。スレンダーで、でも……柔らかくて」
その言葉に、私は彼の首に手を回し、自分から唇を重ねた。
はじめは戸惑いがあったキスも、すぐに熱を帯び、唇を啄ばむように舌が交じり合う。
翔太の呼吸が荒くなり、私の唇からあふれる吐息も甘く湿っていた。
彼の手が、太ももをなぞり、ショーツの上から私の中心に触れる。
「……もう、濡れてる……」
「翔太が、さっきから……触ってくるから」
私は羞恥を含んだまま笑いながら、ベッドへと身を沈めた。
脚をそっと開き、彼を迎え入れる。
下着の中に手が入り、ゆっくりと秘部をなぞられるたびに、息が漏れる。
「……こんなに、溢れて……麻衣さん……すごいです」
その指先が、ぬるりと私の中に入った瞬間、背筋が反り返った。
「んっ……あ……だめ……」
「痛いですか?」
「違う……すごく……気持ちいいの……」
私はベッドのシーツをぎゅっと握りしめ、身体を波のように揺らした。
指が二本になり、奥まで届くたびに、快感が全身を駆け抜けていく。
そして──彼が、下着を脱いだ。
ふいに、目の前に現れた彼の昂ぶりに、私は息を呑んだ。
若さの象徴のような熱と形。
私は手を伸ばし、そっとその熱を包み込んだ。
「……翔太の、すごい。ちゃんと見せて」
「……見られると、恥ずかしいです」
「可愛い顔して、こんなに立派にしてるくせに……」
私は舌を這わせ、唇で先端を啄ばむ。
翔太の腰がぴくりと跳ね、喉の奥で声を殺した。
「……そんな、口でしたら……すぐに……」
「がまんしなくていいよ。今日は、朝まであるから」
何度も唇で愛し、舌で転がし、手で包みながら、翔太の身体を震わせ続けた。
やがて彼は私をベッドに仰向けにし、自分の身体をそっと重ねてきた。
「……入れてもいいですか?」
「……うん、きて」
彼がゆっくりと私の中に入り込む。
濡れきった肉が、翔太の熱を受け入れるたび、私は甘く切ない吐息を漏らした。
「……あ……すごい……奥まで……」
「麻衣さん……あったかくて……締めつけて……」
身体が重なり、肌が擦れ合い、音がふたりだけの空間に満ちていく。
何度も、角度を変えて、深く、優しく、そして激しく。
私たちは夜が明けるまで、いくつもの絶頂を迎えた。
7回、8回……
何度果てても、翔太の若い身体は求めてきた。
そして私も、それを拒む理由なんてなかった。
朝、窓の外が淡く光を帯びたとき、
私は彼の髪を撫でながら、静かに囁いた。
「……また、会いたいな」
「僕も……絶対、また触れたいです」
私たちの交わりは、一夜限りの夢ではなかった。
快楽の先に、確かに何かが芽生え始めていた。
そして私は、自分の身体が、こんなにも熱くて、やわらかくて、
誰かを癒せるものだったと、あらためて知った朝だった──。



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