あの夜の匂いは、いまだに私の中に棲みついている。
汗とアルコールと、見えない欲望が混ざった、忘れられない夜の香り。
きっかけは、ただの送別会だった。
アメリカに転勤するSさんのために開かれた職場の宴。
普段、飲み会を敬遠していた私がなぜか参加したのは――きっと、彼の瞳に、密かに惹かれていたから。
一次会では、誰もが礼儀正しく振る舞っていた。
彼は笑顔でグラスを傾け、誰にでもフラットで、優しく、でもどこか距離を持った人だった。
なのに、ふと目が合ったとき、私は気づいた。
あの目は…ただの“挨拶”なんかじゃなかった。
奥に潜む熱――私だけを射抜いてくるような、あの眼差し。
二次会、そして三次会。
カラオケの個室に入った頃には、空気はすでに濁っていた。
酔いと密室と、終電を気にしない人々の本音と本能。
笑いながら服を脱がされる子、誰かの肩に寄りかかって甘える子。
私は歌うことで気を紛らわせたけれど、踊るような仕草を加えてしまった瞬間、身体に熱が帯びた。
ふらつく足。誰かの手に支えられながら、私の記憶は、そこでぷつりと途切れた。
次に目を覚ましたとき、私は――裸で、見知らぬ部屋のベッドの中にいた。
湿ったシーツの感触と、まだ覚めきらない酔いが、現実感を削いでゆく。
頭が重く、首を動かすと、バスルームからシャワーの音。
出てきたのは、Sさん。白いバスタオルを腰に巻き、髪から水滴が滑っていた。
「…え?」
声にならない声。
「おはよう。ホテルだよ、ここ。…君、ぜんっぜん起きなくてさ。住所も分からないし、困ったよ」
笑うその顔に、私は何も言えなかった。
気づけば、彼はすでに隣に滑り込んできていた。
素肌が触れ合い、火傷のような熱を感じる。
「ずっと…君をこうしたかったんだよ」
私の唇に、彼の指先がそっと触れた。
次の瞬間には、熱い舌が私の中に侵入していた。
唇が開かれ、舌先が暴れ、唾液が絡み合う。
その舌の動きがあまりに熟れていて、私はただ、身を委ねるしかなかった。
乳房に這う手。
指先が乳首を挟み、撫で、弾き、転がす。
舌が触れた瞬間、全身が跳ねた。
「んっ…そこ、だめ…」
自分の声があまりに甘く崩れていて、耳が熱くなる。
けれど、彼は止めない。
赤ちゃんみたいに吸い上げられた乳首は、キスのたびに尖って、脈を打つ。
その舌は、おへそ、腰骨、太ももの内側へと移動する。
まだ、そこまでは…と身体を閉じようとしても、
「見せてごらん」
囁かれ、膝が開かされていく。
指先で、すでに濡れた奥が、優しく、そしていやらしく、なぞられる。
クリトリスに触れられた瞬間、声が漏れた。
「Sさん…だめ…そこは…!」
けれど彼は、微笑むだけ。
顔を埋め、舌でそこを押し開いてくる。
くちゅ、くちゅという音が響く。舌が這い、吸われ、転がされて――
私は初めて、キスだけで絶頂を迎えてしまった。
「もっと、気持ちよくなりたい?」
彼の言葉に、私は小さく頷いた。
気づけば、自分から腕を伸ばし、彼を求めていた。
脚が大きく開かされ、彼の熱が私の入り口にあてがわれる。
先端が押し入ると、身体が震えた。
硬くて、熱くて、大きすぎるそれは、私の奥をぐい、と押し広げてゆく。
「ほら、全部入ったよ。感じる?」
「う…んっ、すご…い…っ、奥、当たって…」
彼は、わざと浅く突いて、私の焦りを煽る。
そして一気に深く、突き上げる。
ベッドが軋む音、肌がぶつかり合う音、自分の声――
「…あっ、また…ダメ…イく…っ、イっちゃうぅ…!」
何度絶頂を迎えたのか、もう覚えていない。
ただ、彼の中に私が包まれて、溶かされて、何度も、何度も――
朝、起きると彼はテレビを見ていた。
私はシャワーを借りようとして、再びベッドに引き戻された。
「一緒に入ろうよ」
湯船の中、私はいたずらっぽく笑って言った。
「アメリカ行ったら、向こうの子にも同じことするの?」
「さあ、どうだろうね」
その軽口に、私は彼の膝の上に乗り、いたずらを返した。
彼の熱を、指と舌でいじめ抜く。
「お仕置き、まだ終わってませんからね?」
二回、三回――彼の声がかすれ、腰が引けるまで責め続けた。
でも最後には、再びベッドに引き倒され、今度は私が責められた。
彼に乱されながら、自分の中の“女”が呼び覚まされるのを感じていた。
許されて、壊されて、そして悦ばされて――
夕方、駅近くのレストランで、遅すぎる食事をとった。
笑いながら別れ、彼はアメリカへ旅立った。
今もときどき、ふと脚の奥が疼く。
あの夜の感触が、香りが、まだ私の中に生きている。
きっと――忘れられないまま、これからも。



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