運送会社事務の22歳女子社員、静かな会議室で抗えない濡れの記憶

【第1部】沈黙の温度──視線が肌を触れさせる前に

その日、夕暮れの事務所は異様に静かだった。
カレンダーの隅に赤く囲われた「月末」の文字が、背筋の奥に重く沈んでいる。
プリンターが吐き出す紙の匂いと、乾いたインクの粉っぽさ。蛍光灯の明滅が、机の上の書類に小さな影をつくっては消していく。

「藤沢、少しいいか?」

声が背中に落ちたとき、私は椅子の背もたれに寄りかかることすら忘れていた。
振り向くと、井口課長がそこにいた。
視線は真っ直ぐではなく、少し斜めに──けれど確かに私を貫いてくる。

「会議室、空いてるから。話そう」

理由もないのに、断るという選択肢が浮かばなかった。
廊下を歩くあいだ、私の耳は彼の靴音を追いかけていた。規則正しい音が、不思議と脈拍と同じ速さで響く。

小さな会議室に入ると、窓から斜めに射す光が机の端を切り取っている。
彼は椅子を勧めたが、私は立ったまま資料を抱きしめていた。

「最近、疲れてるな」

その一言で、何かがほどけた。
胸の奥に詰まっていた息が、ゆっくりと漏れていく。

「……疲れてます。いろいろ」

口にした瞬間、背筋の奥で何かが震えた。
彼の視線は、私の言葉ではなく、その言葉を発する私の唇を見ているようだった。
まだ触れられていないのに──頬の奥が熱を帯びていくのを、私はごまかせなかった。


【第2部】触れの連鎖──指先が理性をほどく瞬間

頬に影が落ちたのは、ほんの一歩、彼が近づいただけだった。
呼吸が重なりそうな距離。
机の向こうではなく、同じ空気の層に彼が入ってきた瞬間、耳の奥に小さな脈打ちが走る。

頬をなぞった指先は、何も奪わない。ただそこにあるだけなのに、私の喉が深く鳴る。
その後ろに、もう二つの影が静かに立っていることに気づいたのは、その指が頬から首筋へと移動した頃だった。

肩に置かれた別の手のひら。
腕を沿う、わずかに硬い指の節。
三方向から流れ込む体温が、私の体を中心へと押し寄せてくる。

「……触れてもいいか」

問いというより、合図だった。
私が小さくうなずくと、顎先をなぞる指が、ためらいなく唇をかすめた。
その瞬間、胸の奥で何かが弾ける。

三つの異なる吐息が、時間差で頬や耳に触れる。
そのすべてが私の輪郭を曖昧にしていく。
ブラウスのボタンが、ひとつ、またひとつ外れるたび、空気の密度が変わる。

裾をわずかにめくる指先の動きは遅いのに、私の呼吸は追いつけない。
下着の布地越しに伝わる圧。
湿りが生まれ、滲み、広がっていくのを、私は止められなかった。

羞恥は確かにそこにある。
だが、それ以上に──抗えない「許されたい」という感情が、身体の奥からせり上がってきていた。


【第3部】溺れる選択──名を呼ばれたときの奥

気づけば、私は膝を折り、促されるままに誰かの太腿の上に跨っていた。
その姿勢はあまりにも露わで、背筋を伝う熱が自分のものなのか彼らのものなのか分からない。

ゆっくりと沈み込む動きは、自分で始めたはずなのに、途中からは流れに呑まれていく。
誰かの腕が背を支え、別の誰かの唇が耳朶を噛む。
複数の感触が同時に重なり、私の中で境界が溶けていく。

腰が揺れるたび、胸元に触れる指の動きも変わる。
後ろから抱く腕は強く、それでいて落とさぬように支えてくれる。
甘さと支配が同時に存在するその感覚に、私は深く沈んだ。

「……藤沢」

耳元で名を呼ばれた瞬間、視界が滲んだ。
それは快感だけでは届かない場所──もっと内側、言葉の届く奥を揺さぶった。

波が引くように、全身の力が抜ける。
残ったのは、汗ばむ首筋と、まだ熱を帯びた呼吸の音。

「君が選んだことだ。それだけで意味がある」

その声が、余韻を塗り替える。
私はただ、静かにうなずいた。

窓の外では夕暮れの風がカーテンを揺らしていた。
もう元の私には戻れない──そう思いながら、その揺れを見つめ続けた。

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