事故は、あまりにも些細な不注意だった。
夫の運転する車が、交差点を急に右折しようとしたその瞬間、直進してきたバイクと接触。
雨上がりの舗道に、バイクは弧を描き、ライダーは身体ごと宙を舞って落ちた。
見た目には派手な事故ではなかった。けれど、バイクの青年は両手を複雑骨折し、入院となった。
加害者は夫。けれど、相手に頭を下げに行ったのは、私だった。
私は真帆。45歳の主婦。子どもは独立し、夫とは平坦な夫婦関係。
日々の生活に波はなく、そして火もなかった。
真木蓮(まき・れん)、25歳。
入院先の病室で初めて出会った彼は、驚くほど整った顔立ちをしていた。
しかし両腕には白く分厚いギプスが巻かれ、まるで拘束具のように、両肩から吊られていた。
「……あの、加害者の妻です。今日はお詫びと、お見舞いを」
私がそう名乗ると、彼はほんのわずかに目を細めて、口元で笑った。
「へぇ……想像してた“奥さん”と、全然違うや」
「は、はぁ……?」
「もっと、こう……地味で古風な感じかと思った。けど、めっちゃ綺麗。なんか、普通に見惚れてます」
その時点で、私は彼の若さと軽口に戸惑いながらも、悪い気はしなかった。
それから、私は週に一度、病室を訪れた。
差し入れと、夫からの伝言、そしてなぜか自分自身の中に芽生えた奇妙な欲求と共に。
3回目の訪問の朝。
鏡の前でシャツを着た私は、最後のボタンを留める手を止めた。
迷った末に、第一ボタンを外したまま、ブラウスの下にレースのキャミソールを仕込む。
彼の目に、私はどう映るのか。
若い彼に、私は「女」としてまだ何かを伝えられるのか。
その答えを求めたくて、私は“少しだけ見せる服”を選んだ。
病室に入ると、彼はテレビもつけず、じっと私の方を見ていた。
そして、何も言わずに目線を、私の胸元へ落とした。
「……あ、ごめん……今、普通に見惚れてました」
「気にしてませんよ」
そう言いながら、私は彼のベッド脇に腰を下ろす。
お茶を注ぐ動作で自然と胸元が開くように、少しだけ前かがみになってみせる。
その瞬間、彼の目線が明確に、私の胸元に吸い寄せられるのがわかった。
「……真帆さん、ちょっと、それは反則……」
「……え?」
「マジで……ヤバいっす」
彼の目が苦しげにゆがみ、私はふと気づいた。
彼の腰のあたり、シーツの下が……明らかに、盛り上がっていた。
あぁ……こんなにわかりやすく。
私は、思わず喉が鳴った。
羞恥よりも、なぜか誇らしさと、深く疼くような欲望が先に来た。
「……ごめんなさい。私、わざと……だったかも」
「え……?」
「触ってもいい?」
彼の目が見開かれる。
そしてゆっくりと、かすかに頷く。
私はそっと、彼の盛り上がったシーツに指を這わせた。
布越しに感じる熱と硬さ。
それはまるで、彼の沈黙の代弁のように主張していた。
「……触ってもいい?」
囁くように問うと、彼は無言で頷いた。
その瞬間、私はもう引き返せないところにいた。
ゆっくりとシーツをめくり、下着の中に指を差し入れると、彼のそこはすでに限界まで張りつめていた。
私は指先でそっとなぞり、そして手のひらでしっかりと包み込む。
「……真帆さん……その手、反則……」
「動かせないなら、私が動くわ」
私はリズムを刻みながら、彼の熱を確かめるように手を上下させた。
彼の呼吸が変わり、全身が小さく震え始める。
「……もう、やば……」
「まだ……終わらせない」
そう言って私は、腰をかがめ、彼の熱を唇で包み込んだ。
その瞬間、彼が喉の奥で声を詰まらせる。
「っ……ああっ……!」
私は舌先で優しく撫で、唇で先端を愛撫し、深く喉奥へと迎え入れた。
彼の身体がビクンと反応し、両腕が動かないことをもどかしそうに、指先だけが空を握っている。
「……真帆さん……それ……本当に……俺……もう……!」
彼の熱が喉の奥で跳ねるように脈を打ち、私は口いっぱいに彼を受け止めた。
甘く、熱く、苦しいほどの快感が、私自身の身体にも伝わってくる。
私はゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳で彼を見下ろした。
「まだ……欲しい?」
「……もう理性ない……お願い、真帆さん……もっと……」
私は立ち上がり、シャツを脱ぎ捨て、レースのキャミソールも肩から滑らせる。
裸の身体を、ためらいなく彼の腰に跨らせた。
彼の視線が、私の胸と腰の動きに釘付けになっている。
「動けない分、全部感じて……」
私はゆっくりと彼を迎え入れた。
濡れきった自分の中に、彼が熱を伴って沈み込んでくる。
「……真帆さんっ……!」
彼の叫びが、天井に響く。
私は腰を動かし、前後に、円を描くように、時には激しく突き上げるように。
彼の中で自分を感じるたび、震えが脚に伝わってくる。
胸が揺れる。汗が滴る。
それでも私は止まらない。
「もっと……奥まで……来て……」
動かない両腕がかえって、私の独占欲をかき立てる。
私はすべてを支配し、彼の中で絶頂を迎えた。
何度も、何度も。
彼は放心したように目を閉じ、私はその胸に頬を預けながら小さく呟いた。
「……これが、私」
「誰よりも、女でしたよ……真帆さんは」
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