【第一章】その鏡の中で、私はもう「妻」でも「母」でもなかった
夫とは、もう長い。
小学生の息子との生活は穏やかで、それなりに幸せなのかもしれない。
でも、最近ふとしたとき、鏡の中に映る自分が他人のように思える瞬間がある。
「なんだか、顔が疲れてるね」
ママ友に言われた言葉が胸に残った。
その日、私はふと足を向けた。自由が丘の路地裏、小さな隠れ家のような美容室。
木の扉を押すと、暖かい照明と静かな空気に包まれる。奥から現れたのは、彼だった。
「こんにちは。初めてですよね?……真琴さん」
美容師の彼は32歳、名前は涼真。
切れ長の目と、指先に神経が宿っているような静かな動き。
「カットとトリートメントで?」
「はい……ちょっと、雰囲気を変えたくて」
鏡越しに交わす視線が、妙に長く感じた。
彼の手が私の髪をすくい、頭皮に触れたとき、背中を静電気のような熱が走った。
「髪って、触れてないと死んじゃうんです」
そう囁かれた声に、思わず身体がこわばる。
「でも、ちゃんと愛してあげると、また艶が戻ってくる」
その言葉は、まるで髪じゃなくて、私自身に言われたようで。
ふと、耳元で小さく笑う声がした。
「俺に抱かれた方が、綺麗になるよ」
その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。
【第二章】夫にも見せたことのない顔を、彼は撫でてほどいた
それから、私は「髪を整える」という名目で、月に一度、涼真に会いに行くようになった。
3度目の予約を終えた夜——閉店後、彼に「少しだけ時間、いいですか?」と告げられた。
「ここ、奥に小部屋があるんです」
案内されたのは、バックヤードに隣接したスタッフルーム。
ソファのクッションが少し沈むと同時に、彼の指先が私のあごに触れた。
「……触れられてなかったでしょ」
その一言で、心の奥にしまっていた乾いた場所が裂けた。
彼の唇が、耳の裏から首筋へと滑る。
震えた私の肌を確かめるように、手がブラウスのボタンを一つずつ外していく。
「ここ、感じやすいでしょ?」
レースの下着越しに撫でられた乳首が、すぐに固くなる。
「もう、奥まで熱い……」
スカートを膝までまくり上げられ、太ももを左右に割られたとき、羞恥と期待で喉が詰まる。
下着の上から舌が這う。湿った音が空気に広がるたび、身体がびくんと震えた。
「ショーツ、濡れてる。……ちゃんと、感じてるね」
布越しに舌でなぞられ、指でなぞられ、脚の付け根が熱く痺れる。
ショーツを膝までずらされ、息を吸い込んだ瞬間、彼の舌が“そこ”に触れた。
「やっ……だめ、そこは……」
でも、拒めない。
吸われ、舐められ、浅く、そして深く舌が入り込む。
「ここが……気持ちいいでしょ。もっと教えて」
彼の指が、濡れた奥へと沈んでゆく。
第二関節、第三関節。中でくちゅりと音が鳴り、それと同時に快感が脊髄を駆け上がる。
腰が勝手に揺れた。
「イッていいよ。見せて」
その言葉と共に、私は一度、真っ白になった。
そして、彼は自分のベルトを外し、私の中に静かに沈み込んできた。
熱くて、硬くて、呼吸が止まった。
「綺麗になってく。わかる?」
ピストンのたび、奥をこすられるたび、声を押し殺しても、涙のような快楽がこぼれ落ちる。
「こんな顔……旦那さんには、見せてないでしょ」
その通りだった。
腰を打ちつけられ、汗と愛液が混ざる感覚の中で、私は何度も果てた。
【第三章】その朝、私はもう「ごまかす女」ではなかった
髪を梳かれる音と共に、まだ私の身体は彼の余韻に震えていた。
「ねえ……来月も、俺の手で綺麗にしてあげようか」
鏡の中で笑う彼の声に、私はただ頷いた。
帰り道、空はすっかり明るくなっていた。
手元のスマホに、夫からのLINE通知が光る。
「朝ごはん、息子が焼いたよ」
心が痛む。でも、後悔はしていなかった。
女として生きている——そう思えることが、どれほど私を支えていたか。
次の予約は、来月の金曜、18時半。
「カラーもお願いしようかな」
そう呟く私の唇は、久しぶりに艶を帯びていた。



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