第一章:微睡むヴィラ、視線が触れる前から始まっていた
軽井沢――
その音の柔らかさだけで、すでに背徳の匂いがする。
都心の喧騒から車で90分。
緑が包むその森の奥に、白亜の貸別荘は静かに身を沈めていた。
午後1時。
セミの鳴き声すら届かない静けさの中、私は深く腰かけたソファで、薄いシャンパン色のワイングラスを傾けていた。
気温は27度。肌を撫でる風が、サテンのワンピースの裾をふわりと撫で、ふとももの内側にまで忍び寄ってくる。
汗ばむわけではないのに、肌が妙に敏感になっていた。
「ねえ美羽、またその脚…見せすぎよ」
恵子が笑いながら言う。
「だって…涼しいんだもの」
私はわざと無防備な笑みを浮かべ、すこし膝を開いた。
“彼ら”が来る前から、空気にはもう、どこか淫らな香りが漂っていたのだ。
私、美羽――44歳。都内でインテリアブランドを経営する女社長。
年下の部下や若い営業マンと“浮いた話”が絶えないことは自覚している。
でも、実のところ、誰にも本気になれないまま、年だけが過ぎていた。
今ここにいるのは、そんな私と同じように“女としての自分”を忘れたくない二人の人妻。
恵子(45)――エリート弁護士の夫を持つ美貌の元モデル。
沙織(39)――CMプロデューサーの妻で、見る者すべてを惹きつける魔性の微笑みを持っている。
「来たわよ」
沙織の一言に、胸の奥が微かに震えた。
ドアが開いた。
風が流れ込むと同時に、汗と香水と若さの匂いが入り混じった、男たちの気配が満ちる。
まるで別荘そのものが、呼吸し始めたようだった。
彼ら――ユウト(22)、レン(21)、大地(20)は、都内の大学に通う沙織の後輩たち。
小麦色の肌に、筋肉の走る肩。
どこか未完成な顔立ちには、欲望を秘めた静かな空腹感が漂っていた。
私の目が、ユウトとぶつかった。
一瞬、息が止まる。
彼の視線は、まるで触れるように私の脚元を舐め、それから唇の輪郭にまで届いていた。
私がワインを含むと、彼は喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
「…この子、私を抱きたいと思ってる」
そう直感した瞬間、なぜか背筋がゾクリとした。
「こっち座って。ワイン飲む?」
私の声がいつもより少しだけ低く、湿っていたことに気づく。
ユウトが隣に腰かける。
ソファが沈む、そのわずかな距離の変化に、体温が交じり始める。
「美羽さん…って、奥に何か隠してる気がする」
「ふふ、それ…どんな意味かしら」
ユウトの目が、私の喉元を追う。
グラスの縁から舌を離したばかりの唇に、その視線が吸い寄せられるのがわかった。
背徳とは、行為そのものではなく、“目が合う瞬間”にすでに始まっている。
私はいま、そう確信していた。
部屋にはジャズが流れていた。
低く、湿ったトランペットの音色が、空気をくすぐるように響く。
恵子と沙織も、それぞれの男の子と自然に寄り添い、笑い、目を合わせ、触れるか触れないかの距離で会話していた。
なのに、私は会話が耳に入らなかった。
ユウトの太腿が、私のふくらはぎに触れた。
偶然ではない。
足の裏から、熱が昇る。
指先が震え、ワイングラスが小さく音を立てた。
「…あの、ここって防音とか、どうなんですか?」
その唐突な言葉に、私はグラスを置いた。
「どうして?」
「いや…誰にも聞こえないと思うと、安心して…もっと、いろんな音を出せそうだなって」
「音…?」
ユウトは顔を赤らめながらも、瞳の奥は真っ直ぐだった。
私はもう、笑って誤魔化すことができなかった。
――その視線の奥には、私を“脱がせる”準備ができている。
午後2時。
森に包まれた貸別荘の中、冷房の効いたリビングは、女たちと若い男たちの体温でじわじわと湿度を上げていた。
そして、この空気が、どこへ向かうのかを、私たちは全員…本能で知っていた。
第二章:触れる舌と口唇、入り乱れる官能の渦
ユウトの指が、私の手の甲にそっと触れたのは、ちょうど2杯目のワインが空いたころだった。
それは、指先というより、息のようだった。
優しく、でも確かに私の肌の下へと入り込んでくる――そんな温度だった。
「部屋、見せてもらってもいいですか?」
その言葉に、私は頷くしかなかった。
誰も何も言わないのに、空気が私たちを後押ししていた。
それが“そうなる”ために招かれた午後だったことを、ようやく実感していた。
2階のベッドルーム。
開け放たれた窓から、木漏れ日が床にレース模様を落としていた。
そこにユウトの影が重なる。
「すごく…香るんですね、美羽さんって」
そう言って、彼はそっと私の髪に鼻を埋めた。
甘い吐息がうなじに触れた瞬間、背筋がゾワリと震え、脚の奥が反応したのが自分でもわかった。
私はゆっくりと背を向け、スカートのファスナーを自分の指で下ろす。
シルクの布が滑り落ち、太腿を撫でて床に落ちた瞬間、ユウトの手が腰に回ってきた。
「綺麗すぎて、どう触れていいのか…わからないです」
「好きなように、してみて」
そう囁いた私の声は、すでに微かに震えていた。
ユウトの舌が、背中を這う。
肩甲骨をゆっくりと舐め、ブラのホックの上で唇が止まる。
彼の指がそれを外すまでの数秒が、まるで永遠のように長かった。
やがて、彼は私の肩から胸へと顔を沈めた。
乳房にそっと唇を吸い寄せると、私の中に眠っていた何かが、じわじわと目を覚ました。
指が乳輪をなぞり、舌先が中心を舐める。
柔らかく、熱く、まるで“女としての存在そのもの”を肯定されているような感覚だった。
「舐めても、いいですか」
その言葉に、私は黙ってベッドに仰向けになった。
彼の舌が、膝から太腿、そしてその奥へ。
脚を開いた私の間に、彼の顔が沈む。
唇が、花びらをめくるように私を舐めていく。
中心を避けるように、外側を円を描いて。
もどかしさに、腰が自然と浮いた。
「もっと…中を、吸って…」
自分がそんなことを口にしたことに、羞恥と興奮が同時に襲ってくる。
彼の舌が、私の奥へと深く潜った。
水音が部屋に響く。
舌が奥の襞を探り、唇が柔らかく吸い上げる。
私は声を抑えきれず、唇を噛んだ。
そのとき、部屋の扉が開く音がした。
振り返ると、恵子とレンが、腕を絡めて立っていた。
「…混ぜて、いいかしら?」
そう言ったのは、私だった。
もう、恥じらいも、常識も、どこかへ溶けていた。
ただ、快楽に身を任せることが、唯一の“真実”だった。
やがて、大地と沙織も加わり、部屋の中は6人の肉体が交錯する、甘くて熱い渦となった。
正常位で貫かれながら、横から舐められ、後ろから抱かれる。
体位が変わるたびに、肉体の中で違う波が生まれ、奥の奥まで快楽が打ち寄せる。
騎乗位で彼の熱を飲み込んだとき、視線の先で沙織が恵子にキスをしていた。
唇と唇が重なり、男たちの手がその身体を満たしていく。
私は、自分の腰が止まらなくなっていた。
ユウトの胸に爪を立て、揺れる身体にしがみつく。
「美羽さん、イキそうですか…?」
「…もう、何度も…」
涙が滲むほどの快感に、私は崩れ落ちそうだった。
男たちの手と舌と熱が、女たちの肌の上を入り乱れながら彷徨い、
それぞれの肉体は、何度も何度も果てては、また欲するように交わった。
あの午後――
私は、身体の奥で何かが壊れて、何かが生まれたのを、確かに感じていた。
第三章:クライマックスと静けさ、女であることの再生
視界が霞む。
汗と吐息と、あらゆる音が絡み合って、
何人に抱かれ、何度果てたのか――もう、わからなかった。
ユウトの指が、まだ私の髪をすくいあげている。
その指先が頭皮を撫でるたび、背中がゾクゾクと反応するのが自分でもわかった。
もう何度、彼の舌が私の奥を掬い上げ、私の声が天井にこだましただろう。
だが、最後の絶頂は、違った。
私がまたがったのは、レンの胸。
彼は私の腰に手を添えながら、
「もう一度だけ…美羽さんの全部、感じたい」と、潤んだ瞳で囁いた。
私は黙って頷き、
そのまま、彼の熱を自分の奥深くに迎え入れた。
ゆっくりと沈んでいくたび、
自分の内側の温かく柔らかい部分が、彼の形を飲み込んでいくのがわかった。
そして、そのまま私は、
腰を振った。
前後に、上下に、旋回させるように――
何もかも溶かしてしまうような、静かで淫らなリズムで。
胸の先を大地に吸われ、
唇をユウトに奪われ、
恵子の舌が私の首を這い、
沙織の指が、背中を滑っていく。
私は、五人の男女の快楽を、ひとつの肉体に受け止める器になっていた。
全身の細胞が、開いて、溶けて、
自分の奥から音を立てて崩れていく。
「イキそう…イキそう…」
レンの声が震える。
でも私は、それよりも先に、
ひときわ大きな波に飲み込まれていた。
子宮の奥が、ギュッと縮まる。
脚のつけ根が痙攣し、
頭の奥で、光が弾けた。
声にならない声を吐きながら、
私は、完全に果てた。
そして、数秒後――
レンも、私の中で熱を溶かした。
その瞬間、私の中に、満ちるような空虚が広がった。
静かだった。
とても静かだった。
まるで、心の中を風が吹き抜けるような、
やわらかな静寂があった。
私は裸のまま、ゆっくりとベッドに崩れ落ち、
薄いシーツをかけてもらいながら、窓の向こうの木々を見つめていた。
「…美羽さん」
ユウトが背中に手を添えて、耳もとに囁いた。
「ほんとうに、綺麗でした。全部…全部が、です」
私は彼の額にキスを落とし、目を閉じた。
快楽の果てにある静けさは、悲しみではなかった。
それは、
“女であることの再確認”だった。
セックスとは、肉体の交わりではない。
感情と感情が、肌の下で触れ合うこと。
そう思えたとき、
私はもう、何も怖くなかった。



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