「寝息の向こうで、私は女に戻った──若いふたりの視線に溶けた夜」
夫は、私の話を聞かなくなった。
──というより、聞けなくなったのだろう。
帰ってきても、食事をかきこみ、バスルームを済ませたらソファで横になる。気づけばそのまま寝息を立てている。
今日も同じだった。
「ごめん、俺もう無理……少しだけ寝る……」
そう言って寝室へ消えた夫を見送った私は、静かにカーテンを閉めた。時計は夜の10時半。部屋の空気にはまだ、飲みかけのウイスキーの香りが溶けている。
ふたりは、まだいた。
夫の若い部下──佐原くんと中井くん。
スーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの第一ボタンをゆるめた姿で、グラスを片手にソファにもたれていた。
「すみません、奥さん。遅くまで……」
「いや、むしろ俺らのせいですよね。課長、かなり疲れてたから……」
ふたりとも、どこまでも礼儀正しく、でもその視線だけが……少し違っていた。
それは多分、数ヶ月前から私も薄々感じていたこと。
夫が倒れるように寝るようになってから、彼らの視線は、少しずつ私の“奥”にまで届くようになっていたのだ。
ソファで向かい合ってグラスを傾けていると、ふいに佐原くんがこう言った。
「奥さん……いや、美月さんって、こんなに綺麗だったんですね」
ドクン、と鼓動がひとつ、大きく鳴った。
「な、なに? 急に……」
「本気で言ってます。ていうか……奥さん、さっきからちょっと色っぽすぎて……正直、見てるのがつらい」
「ほら、だから言ったじゃん。最初からずっと、“絶対美人だ”って」
中井くんも悪戯っぽく笑う。
その笑顔の裏に、張り詰めたような男の熱が感じられて、私は喉が渇くのを感じた。
「そんなこと……酔わせるつもり?」
「違いますよ。酔ってるのは、俺らのほうです」
──私は、その言葉を聞いた瞬間に、心のどこかで、何かを外した。
キャミソールの肩紐を少しずらして、胸元の谷間を隠さずに座り直した。
部屋は静かだった。夫の寝息が、遠くの部屋からかすかに聴こえてくる。
その寝息が、どこか背徳の引き金になった。
「さっきから……見てるよね、私のこと」
「はい。見てます」
佐原くんが、静かに答えた。
私をまっすぐ見つめたその眼差しに、罪悪感と興奮がないまぜになる。
「いいよ……もっと、見ても」
中井くんの手が、私の脚に触れた。ストッキング越しの指先の感触に、私は膝を閉じるふりをして、逆にその手を迎えた。
熱い。視線も、息も、まるで小さな火種のようだった。
佐原くんが、私の耳元に唇を近づける。
「奥さん……キス、していい?」
「……夫が、寝てるのに」
「だから、今だけです。黙っててくれたら、それでいい」
言い訳にもならない会話。でも私は、目を閉じて唇を差し出していた。
唇がふれあい、息がまじるたびに、全身が熱を帯びていく。
そのままリビングのラグに横たえられ、ふたりの手が私のキャミソールをめくり、柔らかな肌に触れてくる。
乳首をかすめた指先に、びくん、と震えた。もう、抗えなかった。
「こんなに濡れてる……奥さん、ほんとに我慢してたんですね」
中井くんが、私の下着の奥に指を滑らせた。
濡れそぼったそこに、彼の中指がゆっくりと入ってくると、私は思わず吐息を漏らした。
「だって……夫とは……ずっとしてないから……」
佐原くんが、私の髪をかきあげ、耳たぶを吸うように口づける。
中井くんの指が、熱を帯びた芯をなぞり続け、私は恥ずかしさと興奮で何も考えられなくなっていた。
「寝息の向こうで、私は女に戻った──若いふたりの視線に溶けた夜」
中井くんの指が、奥へ、奥へと私の熱を探りながら沈んでいく。
佐原くんは、ゆっくりと私のキャミソールをまくり上げ、胸元に唇を押し当てる。
その舌先が、つんと硬くなった乳首をなぞった瞬間、電流のような快感が下腹部に走った。
「だめ……そんなふうに……っ」
言葉とは裏腹に、腰が逃げずに迎えてしまう。
私の身体は、ふたりの熱に素直に反応していた。
柔らかなラグの上に寝かされ、左右から注がれる視線と指と、唇の温度。
静かな部屋に、私の小さな吐息だけが溶けていく。
「奥さん、綺麗すぎて……ほんとに、信じられない」
佐原くんが、私の太ももにキスを這わせながら、そっとパンティをずらした。
露わになった濡れたそこに、彼の吐息がかかるたび、私は脚を閉じるどころか、むしろゆっくりと開いていってしまう。
「んっ……あぁ……そこ、だめぇ……」
舌が触れた瞬間、背中が跳ねた。
舌先が、芯の周りを何度もなぞり、時折吸い上げるように刺激してくる。
息が、指が、唇が──私の理性を溶かしていく。
中井くんは、シャツのボタンを外して自分の熱を露わにしていた。
その姿を見たとき、私は思わず息を飲んだ。
若い身体のしなやかさと、荒々しい勃ちあがり。
夫とは違う、未知の形に、どこかゾクゾクとした興奮を覚えた。
「触って、いい……?」
そう尋ねると、彼は嬉しそうにうなずいて、私の手をそっと導いた。
指先で包んだ感触は、温かく、脈打ち、生命の鼓動そのものだった。
ゆっくりと上下に扱くと、中井くんの喉が切なそうに鳴る。
「うそ……すごい……熱い……」
そんな私の言葉に、佐原くんが唇を離し、私の手首を取って自分の中心へと誘った。
もう、拒む理由なんてなかった。
ふたりの熱を交互に触れ、手の中で鼓動する感触に酔いながら、私はひとりの“妻”ではなく、“女”へと変わっていった。
「美月さん……入れてもいい?」
佐原くんの声が、震えていた。
私の中に重なるその影が、ゆっくりと膨らみながら近づいてくる。
頷くと、彼は慎重に、けれど焦がれるように私の奥へと沈んでいった。
「んっ、はぁっ……すごい……」
ずっと忘れていた感覚。
夫では届かなかった、内側の深い場所が、何度も擦られて火照っていく。
佐原くんの律動に合わせて、私の身体はまるで潮のようにうねり、快感の波に溺れていく。
中井くんが、私の唇にキスを落としながら、こうささやいた。
「僕も……奥さんと繋がりたい」
佐原くんが私の中を離れ、交代するように中井くんが腰を重ねてくる。
形が変わるたび、感覚もまったく違う──
長く、熱く、太いその存在に、私はつい声を漏らしてしまった。
「んっ、あっ……だめ……っ、また、いっちゃう……っ」
ふたりの若い身体が交互に、私を何度も高みに導いていく。
理性はもうどこにもなかった。
私はただ、快楽に溺れ、身体の芯で“生きている”ことを確かめていた。
交差する吐息、汗の匂い、肌の熱。
幾度目かの絶頂に達したあと、私はラグに仰向けになり、胸を上下させながら、天井を見つめていた。
静寂のなか、夫の寝息だけが変わらず聴こえてくる。
その音が、現実を引き戻す。
罪悪感。背徳感。けれど、後悔は──なかった。
ふたりは、私の頬に静かにキスを落とし、静かに言った。
「また……会いたいです」
私は何も答えなかった。
ただ、頷いた。
あの夜、私は女として、確かに“目覚めてしまった”──
夫の寝息の隣で、私の奥の奥が、別の誰かで満たされたまま。



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