夫との結婚生活は、穏やかだった。 帰宅すれば夕飯が温かく、休日には子どもの話題で笑い合う。 誰から見ても「幸せそう」と言われる家庭―― でも、その言葉が一番、苦しかった。
毎日が予定調和で、心も身体も枯れていた。 そんな日々に、彼は現れた。
職場に異動してきた、高梨 拓海(たかなし たくみ)。 27歳。私より8歳年下。 無邪気で人懐っこくて、でもふとした瞬間に鋭く女性を見る目をする。 初めて「女」として見られている気がして、呼吸が浅くなる自分に気づいた。
「麻衣さん、最近綺麗になりましたね」 「何かいいこと、あったんですか?」
その視線。その声。 すべてが、もう――誘っていた。
金曜の夜。会社の飲み会のあと、駅前でふたりきりになった。 「帰りたくないな」 私がこぼすと、拓海は少しだけ黙ったあとで、こう言った。
「じゃあ……一緒に、ホテルでも行きますか?」
驚きもしなかった。むしろ、その言葉を待っていた自分がいた。 身体の奥でずっと疼いていた熱が、やっと許された気がした。
ドアを開けて入った瞬間、拓海は私を壁に押し付けた。 キスは強くて、甘くて、舌が触れた瞬間に脚が震えた。 彼の手が私の太腿に触れたとき、スカートの奥がじわりと濡れるのがわかった。
「……久しぶりなんですか?」 「……うん、五年ぶり」 「なら、全部、教えてください。麻衣さんの身体に」
そう言って、彼は私のブラウスのボタンを一つずつ外した。 唇が鎖骨をなぞるたびに、背中に鳥肌が走る。 自分の胸が、誰かに揉まれて震える感覚すら、もう懐かしかった。
ベッドに押し倒されると、拓海は躊躇なく舌を這わせた。 首筋から胸元へ、さらに下へ。 唇が肌を吸い、歯が少しだけ噛むと、声が漏れた。 「やだ……そんなとこ……」
でも、やめてほしくなんてなかった。
彼は私の下着を歯でずらし、顔を埋めてきた。 舌が奥へ入り込んでくる。 忘れていた快感に、全身が痺れて、手がシーツをぎゅっと掴んだ。
「気持ちいい……麻衣さんの匂い、すごく好きです」
そんなこと言わないで。 でも――もっと、欲しい。
「今度は、俺のを……」
ベッドの端に腰掛けた拓海は、すでに自分を露わにしていた。 大きく、硬く、脈打っている。
その先端が、私の唇に触れる。 くすぐるような香りに、喉が勝手に鳴った。 そっと唇を開き、舌先でなぞる。
拓海は息を詰めて、私の髪に手を添えた。 「……全部、飲んで」 命令のような甘い声に逆らえず、私は口の奥まで彼を含んだ。
頭を押さえられ、喉の奥まで突き立てられるたびに、目尻から涙がにじんだ。 でも、苦しくない。 自分が「欲しい女」に戻っていくのが、たまらなく気持ちよかった。
そして――
……彼がズボンのジッパーを下ろしたとき、 私の喉が小さく鳴った。
そこに現れたものは、想像よりもずっと――雄々しかった。 指先で包むには余るほどの厚みと、張り詰めた硬さ。 一瞬、息を呑むほどの存在感に、言葉を失った。
「こんなの、入るの……?」 気づけば、声に出していた。
拓海は静かに笑い、私の手を取り、 その熱をゆっくりと私の脚の間へ導いた。
「ゆっくり、麻衣さんに、合わせますから」
そう囁かれながら、彼のそれが私の中へ入ってきたとき―― 身体が裂けるような痛みと、異様なほどの充足感が同時に襲ってきた。
その夜、私は何度もイかされた。 抱かれて、飲み込まれて、壊されるように、快楽に溺れていった。
以降、私たちは狂ったように身体を重ねた。 車の中、職場の裏階段、遠くのビジネスホテル。 そのたびに、私は「女」として蘇っていった。
夫のぬるま湯のような優しさでは決して満たされなかった場所。 拓海はそこを、何度も、確実に突き刺してきた。
「俺と、逃げませんか」
そんなことを彼が言った夜、私はただ首を振った。
「無理よ。現実は、あなたを愛してくれない」
けれど、私はまだ夢を見ている。 誰にも見せられない身体を持て余しながら、 いまも、拓海の名を噛みしめている。
――これは恋ではない。 でも、私の中には、確かに彼の熱が、まだ残っている。



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