【第1幕】「その声だけで、身体がこわばった——予想外の訪問者と、ノーブラの私」
「……失礼します」
その声が、カーテンの向こうから届いたとき——
私は、呼吸をほんの一瞬止めていた。
それは、思っていた声ではなかった。
女の人の、少し年を感じる穏やかな声——そういうものを勝手に期待していたのだ。
でも実際に届いたのは、しっとりと湿った低音。
喉の奥をくぐったその声が、空気を揺らして私の背中に触れてきた。
男の声——それだけで、体がほんの少し、こわばった。
この時点で私はもう、自分の身体が“完全に無防備である”ということに、遅れて気づいてしまった。
——しまった、私、ノーブラだ。
施術用の着替えを渡されたとき、何の疑いもなく、ブラジャーを外していた。
いつもどおり、年配の女性が担当すると思い込み、下着のワイヤーがマッサージの邪魔になるのを避けるためだった。
白くて薄い施術着一枚。
その下には、素肌の胸。
生地が呼吸とともにふわりと浮き沈みし、乳首が布地にわずかに擦れて、じわっと熱を帯びはじめていた。
うつ伏せになったまま、私はカーテンの向こうの足音を聞いていた。
スニーカーが静かに床を踏む音。
そのたびに、背中に「視線」が忍び寄ってくるような錯覚に陥る。
やがて、カーテンがふわりと揺れた。
「本日、担当させていただきます○○です。よろしくお願いします」
声と同時に入ってきたのは、30代前半くらいだろうか。
黒いポロシャツから伸びた腕がしっかりと引き締まり、黒縁の眼鏡の奥の目はどこか静かで、誠実そうな印象を与えた。
けれど私には、そのまなざしの奥に、何か熱を帯びた“わずかな間”を感じてしまった。
目が合ったわけではない。
でも、確実に「胸元」に一瞬、視線が落ちた気がした。
——気づかれた?
全身がかすかにざわつく。
羞恥と緊張が、喉から胸に向かって湧き上がり、私の乳首の先をわずかに硬くしていく。
施術着の内側、下着がないことで空気が直接、胸に触れているような錯覚。
それだけで、こんなにも自分の身体が敏感になっていることに、自分自身が驚いていた。
「肩と腰、ですね。かしこまりました」
彼の手が、そっと私の肩甲骨の上に置かれた。
大きな掌。じんわりとした熱が、布越しでも確かに伝わってくる。
——熱い。
男の人の手に触れられるのは、どれくらいぶりだろう。
指先が、私の肩に沿って滑っていく。
その軌跡を、皮膚がまるで舐められているように錯覚する。
圧が深くなるたび、私の呼吸も浅くなっていった。
「少し力、入れますね」
「……はい」
自分の声が、思った以上に甘くなっていた。
それに気づいた瞬間、顔の火照りが背中まで降りてくる。
汗でもない、湿った熱が太腿の内側にじんわりと広がっていく。
私はまだ、何もされていない。
それなのに身体はすでに、“何かを待っている”ように濡れはじめていた。
【第2幕】「内腿に触れた指先が、私を変えてしまった——じわじわと、ほぐれて濡れていく」
「では、下半身に移りますね」
うつ伏せのまま、彼の声が耳元に届いた瞬間、私は呼吸のリズムをほんのわずかに乱した。
その“下半身”という言葉に、どうしてこんなにも敏感に反応してしまうのだろう。
施術なのに、普通の会話なのに、まるでその一語が私の内側を指差されたような感覚になってしまう。
彼の手が、膝裏に触れた。
そこからふくらはぎ、そして太腿の裏へと、ゆっくりと滑っていく。
押し当てられる掌は温かく、深く、そして淡々としていた。
でもその無言の圧が、まるで私の奥にある“何か”を引き出そうとしてくる。
「太腿、少し張ってますね」
そう言って、彼の親指がぐっと私の太腿の内側に入った瞬間——
私は思わず、シーツを握りしめていた。
布越しとはいえ、彼の指が私の“内側”に侵入してくる。
ただの施術なのに、その指がまるで私の秘密に触れてくるような感覚。
しかも私は、ノーブラ。
すでに胸の先が、布地の内側で湿っている。
胸だけじゃない。
太腿の奥も、じわじわと濡れていくのを、私ははっきりと自覚していた。
「強さ、大丈夫ですか?」
彼の声が、今度は低く、やや近くで響いた。
おそらく、私の反応を気にしたのだろう。
でも私はそれを“気遣い”ではなく、“試すような言葉”として受け取ってしまう。
「……だいじょうぶです」
喉の奥が熱くなっていた。
その一言が、まるで“もっと奥まで触れて”と告げているような気さえして、私は自分が怖かった。
手が、お尻の下のカーブにそっとかかる。
圧はあくまでも均等で、丁寧で、施術として“正しい”。
けれど、そこが“異性に触れられる場所”だという認識が、私の内側で声にならない震えを生んでいた。
——私、濡れてる。
はっきりと、それを自覚してしまった。
内腿の奥、粘膜がじんわりと滲みはじめていて、呼吸がそこに集まってしまう。
しかも、彼の指はその気配に気づいたように、わずかに動きを止めた気がした。
——バレた?
羞恥とともに、快感が背骨を駆け上がってくる。
その一瞬の“間”が、あまりにも甘く、苦しかった。
逃げたくなるのに、もっと触れてほしい。
私はもう、“凝りをほぐしてもらっている”だけではなかった。
体がほぐれるふりをして、
本当は、奥をほぐされる快楽に身を委ね始めていた。
【第3幕】「終わったはずの手の余韻で、まだ濡れていた——許されない快楽と、再訪の予感」
「お疲れ様でした。ゆっくり起き上がって大丈夫ですよ」
その声が聞こえた瞬間、私は息をひとつ吐いた。
終わったのだ、と理解するまでに、ほんの少し時間がかかった。
彼の手は、すでに私の身体から離れていた。
それなのに——
太腿の奥には、まだ彼の指が沈んでいるような錯覚があった。
うつ伏せのまま、しばらく動けなかった。
腕に触れていないのに、胸の先が布越しに呼吸するたび疼いて、
内腿の奥からじわじわと滲んだ熱が、シーツに微かな湿りを残していた。
私は、気づいていた。
この施術が、“ただのマッサージ”ではなくなっていたことを。
——触れられていないのに、達してしまいそうだった。
——声も出さずに、何かをこらえていた自分がいた。
施術着の内側。
胸は、乳首の先だけが無防備に反応していて、
その小さな硬さを、私自身が誰よりも意識していた。
内腿も、お尻の奥も。
“解された”というより、“残された”。
彼の指の感触の記憶が、私の中でまだ脈打っていた。
着替えのために立ち上がると、わずかに足がふらついた。
太腿の内側をつたう、冷えかけた湿り気に驚いて、私はそっとその部分に手を添えた。
——こんなになるまで、感じていたんだ。
羞恥というより、困惑というより、
なぜか「許された」ような静かな幸福感があった。
髪を整えて、カーテンを開けた。
受付で会計を済ませたとき、スタッフが無表情でこう言った。
「ご希望があれば、次回も同じスタッフをご指名いただけますが…」
その言葉を聞いた瞬間、心の奥にまた熱が宿った。
私は少しだけ笑って、こう答えていた。
「……お願いします。同じ方で」
その声は、どこか甘く、濡れていたかもしれない。
夜。
帰宅して、シャワーを浴びても、
私はずっと、**“あの指がまだ私の中にあるような感覚”**を引きずっていた。
布団に入って、目を閉じても、眠れない。
あの低い声、あの大きな掌。
そして、「気づかれたかもしれない」という瞬間の緊張が、私の性感を奥深くに刻んでいた。
——また行くんだろうな、きっと。
理由なんて、もうどうでもよくなっていた。
私は今夜も、ベッドの縁を、あのときと同じように握っていた。



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