夜のサロンには、人がいない独特の気配がある。
照明の落ちた鏡の奥には、白昼には見えない影が立つ。
それは、誰よりも自分自身の欲望かもしれないと、ふとそんなことを思っていた。
33歳になった私――沙織。
美容師として、後輩を指導する立場にもなったこの頃。
男の視線を受け流すことに慣れ、心を動かされることも減っていた。
そんな日常のなかで、彼は、ひときわ異質な存在だった。
タカトシ――20歳の大学生。
初めて来店したときから、彼の視線には遠慮と、どうしようもない衝動が混ざっていた。
年上の女に触れてみたい、でも触れてはいけないという理性。
そのせめぎ合いが、彼の黒い瞳の奥で揺れていた。
そして今日、彼は「最後の客」として現れた。
予約表に名前を見つけた瞬間から、私は無意識に予定を変えていた。
スタッフは全員帰らせて、閉店作業を一人で請け負うふりをして。
「遅れてすみません」
店のドアが鳴り、濡れた髪をくしゃりと撫でながら、彼が息を切らせて現れる。
白いTシャツの下、薄く浮き上がる胸板。
滴る雨粒が、彼の首筋を伝って鎖骨に流れていた。
「いらっしゃい、タカトシくん。夜は初めてね」
「はい……なんか、すごく静かですね」
「もう全部閉めちゃってるから、今日はあなただけ」
その言葉に、彼の喉が小さく鳴ったのを見逃さなかった。
瞳の奥で、何かがかすかに光った。
私はシャンプー台へと彼を案内しながら、自分の動作ひとつひとつに意識を向けていた。
胸が揺れすぎていないか。スカートの裾が上がりすぎていないか。
そのすべてが、むしろ“見せるため”に丁寧に整えられていた。
彼が横たわり、後頭部を私の手に委ねたとき。
私はそっと指を沈ませる。
シャンプー剤を泡立てながら、耳の後ろ、襟足、こめかみ。
敏感な部分にわざと時間をかけると、彼の胸が、静かに上下していく。
「……沙織さん、ほんとに……上手ですね」
「ありがとう。でも、反応が良すぎるのはあなたのせいよ」
そうささやいて、身体を少し前に倒す。
わざと胸が彼の頬に触れるくらいに近づく。
それはもう“施術”ではなかった。
わずかに硬くなった彼の頬が、私の柔らかさに触れて熱を帯びる。
「……っ」
息を詰めたような音。
その反応に、下腹部がきゅっと締めつけられる。
私の内側で、女としての感覚が静かに目を覚まし始めていた。
タオルで髪を包んだ彼を起こし、鏡の前へ。
ドライヤーを構えながら、私は彼の背後に立つ。
首筋から肩へ、ブローのたびに指が滑る。
すでにわずかに呼吸が荒くなった彼の耳元に、私の息が触れる。
「沙織さんって……ほんと、女の人って感じします」
「ふふ。褒めてるの?」
「はい……あの……変な意味じゃなくて。でも……変な意味でもあるかも」
ドライヤーの風が止まり、静寂が落ちた瞬間。
彼の目が鏡越しに、まっすぐ私の目を見た。
その視線の奥に、もう理性はなかった。
私は静かに言った。
「……もう少しだけ、ここにいてもいい?」
「……はい、ずっとでも」
「じゃあ、ドアの鍵、閉めてもいい?」
彼はうなずく。
そのとき、私の手は彼の太ももにそっと触れていた。
しっかりとした肉付き。若さの象徴のような温かさ。
その奥に宿るものを想像するだけで、呼吸が浅くなっていく。
私は彼の前に立ち、エプロンのリボンを解いた。
シャツの胸元がわずかに緩み、谷間が露になる。
タカトシは目を逸らさなかった。
むしろ吸い寄せられるように、手を伸ばしてきた。
その指先が、シャツのボタンに触れる。
私の手は、彼の指を導くように、ボタンをひとつ、またひとつ外していった。
「……こんなこと、していいんですか」
「してほしいって思ってるの、わかるでしょう?」
息を呑む彼の胸元に手を伸ばし、Tシャツをめくる。
若く引き締まった胸筋に、そっと唇を寄せる。
舌を這わせると、彼の身体が震えた。
「…沙織さん、やばい……」
「私が壊してあげる。あなたの中の“男”を」
私は彼の膝にまたがり、スカートの奥で自分の濡れを感じる。
すでに彼の昂ぶりが、ズボン越しに私の下腹を押し上げていた。
タカトシの太ももに跨った私は、まるで自分の呼吸がどこから始まり、どこで終わっているのかわからなくなっていた。
若い彼の身体は熱を帯び、肌からあふれる蒸気のような匂いに、私の理性がふわりと遠のいていく。
指先がTシャツの裾をめくり上げ、彼の腹筋をなぞると、ピクリと筋肉が跳ねる。
その反応がたまらなく愛おしく、同時に、たまらなくそそられた。
「……タカトシくん、震えてる」
「……だって、こんなの、夢みたいで……」
「これは夢じゃないわ。あなたが望んだ現実」
その言葉と同時に、私は腰を前へと押し出した。
彼の昂ぶりが、ズボン越しに私の下腹をぐいと押し上げる。
私のショーツ越しにも、熱く硬くなったその存在がはっきりと伝わっていた。
「……もう、入れたい」
タカトシが、耳元で震える声で囁いた。
「焦らないで」
私は彼の頬にキスを落としながら、指先をゆっくりとズボンのボタンにかける。
はずすたびに、彼の呼吸が浅くなっていく。
パンツの中で押さえつけられていたものが、熱を持って跳ね返るように現れる。
それを見て、私は一瞬、言葉を失った。
若さゆえの逞しさ。
けれど、それ以上に、私の中の“女”が、それを迎える準備をもう終えてしまっていた。
私はスカートの裾をたくし上げ、自らの指でショーツをずらす。
湿り気を帯びた布が腿に絡まり、肌が夜気にさらされる。
「……タカトシくん、ゆっくりね」
「はい……優しくします」
彼が私の腰を両手で支えながら、私の奥へと進んでくる。
最初の瞬間、あまりの熱さと太さに、思わず声が漏れた。
「……んっ、あ……すご……」
「沙織さん、奥まで……入ってく……っ」
椅子の上、店内の真ん中で、私は彼に身体を委ねた。
ゆっくりと、深く、押し広げられる感覚。
若く、激しく、それでもどこか丁寧に私を扱おうとする手つき。
「ねぇ、私の中、どう……?」
「すごい、きつくて……あたたかくて……やばいです」
その言葉に、私は彼の肩に爪を立ててしまった。
「もっと……突いて。奥まで……ッ」
椅子が軋む音と、私の熱を受けるたびに深くなる彼の吐息。
髪が乱れ、シャツが肩からずり落ち、胸が彼の頬に触れる。
タカトシは私の胸に顔を埋め、まるで貪るように吸いついた。
その刺激に、私は腰を跳ね上げながら、絶頂の波を迎えた。
「あっ、あっ……タカトシくんっ、ダメ……いっちゃう、いっちゃう……!」
「僕も……もう、限界……っ!」
彼が奥で脈打ち、私の中で小さく爆ぜるような感覚が広がる。
それは、若さのすべてを注ぎ込むような強い衝動だった。
静寂が戻ったサロンの中で、彼が私の胸に顔を伏せたまま、荒い呼吸を続けている。
私は彼の髪を撫でながら、自分の足の間にまだ温もりを残す粘り気を感じていた。
「……ごめんなさい、なんか、夢中になっちゃって……」
「ううん、よかった。タカトシくんの全部……気持ちよかった」
店内の照明が再び明るくなることはなかった。
私たちはしばらくそのまま、椅子の上で身体を重ねたまま静かに呼吸を整えていた。
「また、来てもいいですか……?」
「ふふ、最後の予約枠、あなたの名前で取っておくわ」
ガラスの向こうには、まだ雨が降っていた。
でも、あの夜の濡れた記憶は、あの雨よりも、ずっと深く身体に染み込んでいる。



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