「女って、どうしてこんなに、触れられたくなるんだろうね」
ふと、あの夜の帰り道に、自分の中から出たその言葉を思い出す。
助手席で眠る彼の横顔は、まだ幼く見えた。
でもあの夜、彼の中に眠る“獣”を、私は確かに見た。
そしてその牙に、自ら首を差し出したのは――私だった。
私は、35歳の主婦。
世間では「ちゃんとした女」と言われる人間だった。
だけど、“女”としては、どこか壊れていた。
愛されていないわけじゃない。
嫌われているわけでもない。
ただ、触れられても何も感じない自分が、
何年も前からそこにいた。
夫の指が私の肌を滑っても、
私の身体は、どこも呼吸しなかった。
「仕方ないよね、結婚して10年も経つんだし」
そう自分に言い聞かせてきたけれど――
心のどこかでは、ずっと、
**“誰かに壊して欲しい”**と願っていた。
彼――高橋くんと初めて話したのは、忘年会だった。
10歳も年下の彼は、笑うと無防備な顔になる。
だけど、私が何かを話すたび、真っ直ぐに目を見てうなずくその眼差しは、
妙に大人びていた。
「〇〇さんって、目を伏せると、色っぽいですね」
その一言で、私の中の“女”が目を覚ました。
誰にも言われたことのない角度で、私を見てくれた。
夫が忘れてしまった“視線の抱擁”を、彼はくれた。
年末の昼下がり。
「お昼、ご一緒できませんか?」
その一言は、ごく自然で、あまりにも優しかった。
だからこそ、私は無意識に、指を差し出していたのだろう。
ファミレスの席。
笑い合いながら、私は彼の隣に“女”として座っていた。
会話が途切れ、彼が携帯をいじり始めた時、
胸の奥に、妙な痛みが走った。
――奥さんに、連絡してるの?
その瞬間、私の携帯が震えた。
表示された送り主の名前。
開いたメッセージ。
《ずっと好きでした。あなたが、ずっと。》
それは、“見透かされた瞬間”だった。
私は、気づかぬふりをして、自分を守ってきた。
でも彼は、ずっと、そこに気づいていた。
だからこそ、私は逃げなかった。
ラブホテルのドアを閉めた瞬間、
私は全身で“なにか”が剥がれ落ちる音を聞いた。
「…ほんとに、いいんですか?」
彼の声は震えていた。
だけどその手は、私の腰に触れたとき、迷いがなかった。
彼のキスは、どこか不器用で、でも真っ直ぐだった。
唇と唇の間にある静寂のなかで、
私の鼓動だけが、狂ったように速かった。
身体を撫でる指先が、
胸を覆うレース越しに、乳首を見つける。
その瞬間、私は自分がまだ“感じられる女”だと知った。
「…もっと、触れて」
声が震え、太腿が震える。
濡れたショーツをずらし、
彼の舌がそこへ伸びたとき、
私の理性は、はっきりと音を立てて壊れた。
「クリが、いちばん感じるんですか?」
そんな質問に、うなずくだけで精一杯だった。
彼の舌先が触れた瞬間、
私の腰は勝手に跳ね、女としての本能が泣いた。
何度も絶頂し、涙すらこぼれたあと、
彼がバスローブを脱いだ。
そこにいたのは、“少年”ではなかった。
太く、反り上がった彼のモノ。
あれだけ愛撫で蕩けた私の奥に、
なおも届ききらない“飢え”を埋めるような存在。
私の中へ入った瞬間、
その圧力と硬さに、内臓ごと震えた。
「…こんなに、いっぱいなのに、もっと欲しくなるのって、なんで?」
言葉が零れたのは、
身体が正直すぎたせいだ。
突き上げられるたび、
私の中が、いや、心の奥が溶けていく。
「もっと…壊して…奥まで…わたし、止まらない…」
この夜、私は“快楽”よりも深い場所にいた。
それは、「赦されたい」という願いだった。
誰かに欲望されることで、
私は“存在していい”と、感じたかった。
最後、彼が果てる瞬間、
私は耳元で囁いた。
「中に…出して。もう、全部…受け止めたいの…」
それがどれほど危うい言葉か、わかっていた。
でもそれ以上に、
彼の熱を“私の奥で”感じたかった。
愛ではない。
でも、愛よりも強かった。
帰り道。
助手席の彼が静かに眠るのを見ながら、
私は唇を噛んだ。
この関係は、きっといつか壊れる。
でも、この夜だけは、“わたし”を確かに生きた。
心が疼くたび、
私はあの指の温度を思い出す。
誰にも見せたことのなかった私が、
あの夜、彼にだけ、すべてをひらいた。
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