「見られて、ほどけて、溶けていく──午後のアトリエで私が失ったもの」
バスローブの下に、何もつけていなかった。
佳奈に頼まれて引き受けた美大のヌードモデルのバイトは、軽い気持ちで「一度きりなら」と決めたものだった。
「胸だけだよ、タオルもあるし。ほんとすぐ終わるし、お願い……」
彼女の声に抗えなかったのは、友達だから……じゃない。
たぶん、どこかで私は、見られてみたいと思っていた。
普段、看護師として真面目に働いている三十七歳の私が、自分の輪郭をはみ出すような瞬間に、心のどこかで憧れていたのだ。
午後二時、美術棟のアトリエ。
四方の壁にはイーゼルが並び、鉛筆の音が空気をかすめていた。
講師と呼ばれる男性が私に一礼し、無言でガウンを脱ぐよう指示した。
……あれ? 胸だけじゃなかったの?
一瞬、目が泳ぐ。でも生徒たちの誰ひとり、驚いた顔はしていない。
それどころか、ごく自然なことのように、私の前に紙と鉛筆を構えている。
もう、逃げられない──そう悟った時には、
私はもう、何も纏っていなかった。
肌に当たる空気が冷たい。
でも、それ以上に熱いのは、体の奥だった。
両足の内ももに沿って、かすかな震えが走る。
彼らの視線が、一斉に私に注がれている。
胸……乳首……お腹の柔らかいふくらみ……そして──
下の毛が薄い私は、自分でも分かっていた。
「そこ」が、少しでも濡れていたら、前からはっきりと見えてしまうのだ。
「まっすぐ立って、正面を向いてください」
講師の言葉が、頭の奥でぼやけた。
それでも私は、その通りに動いた。ゆっくりと、まるで自分の動作じゃないみたいに。
膝が、わずかに震えていた。
私はできるだけ自然を装いながら、息を潜めた。
けれど、彼らの視線は鋭く、正確に「そこ」へ向かっていた。
毛の薄い私の秘部──小さくぷっくりと盛り上がるその中心が、光の加減で、ぬらりと見えていた。
私は頬を染め、でも背筋を正した。
彼らが「ただ描いている」だけだと、自分に言い聞かせながら。
けれど、正面の一人。黒縁メガネをかけた痩せた男の子の視線だけは──違った。
明らかに私の表情を見ていた。頬の赤み、胸の起伏、そして、呼吸の浅さ。
私が「感じはじめている」ことに、気づいていた。
「椅子に座って、右足を椅子に乗せて、膝を抱えてください」
それはあまりにも無防備な格好だった。
でも私は、何も言えずに椅子に腰をおろし、脚を上げた。
足を乗せた瞬間──空気が触れた。そこに。
ひやりとした感触に、小さく息をのんだ。
脚を上げれば上げるほど、中心が開かれていくのが分かった。
小さな唇の奥に、熱を帯びた粘膜が見えてしまう。
そして──私は、その恥ずかしさに、濡れていた。
鉛筆の音が止まり、黒縁メガネの彼が静かに言った。
「少し影になっているので、左足も同じようにお願いします」
頭が真っ白になった。
それはつまり、両足を開けということだ。
でも、断れなかった。
私はゆっくりと、左足を椅子に上げ、両膝を曲げ、抱えるようにした。
その瞬間、自分でも分かった。
ビラビラが左右に開いて、奥の、奥の方まで……あらわになってしまったのだ。
ああ──全部、見られてる……。
しかも、その奥が、ぬらぬらと濡れて光っていた。
体の奥で、脈打つように疼いていた。
そして、その時だった。
「あの……お尻の穴、動いてる……」
誰かの声。
ああ……見られてる……全部……。
私の一番、汚くて、恥ずかしいところまで。
それでも、私の身体は──感じていた。
太ももの付け根、乳首の先端、そして濡れた中心。
触れられていないのに、そこだけが勝手に熱く、反応していた。
そのとき、あのメガネの彼が静かに立ち上がり、私の近くに来て、
言った。
「もっと、開いてもらってもいいですか?」
彼の声は優しく、でもどこか、残酷だった。
私は──ゆっくりと、M字になるように脚を開いていった。
濡れた中心が、すっかりと開き、
内側の、ピンクのひだまで、彼ら全員の視線に晒された。
私は恥ずかしさと快感で、どこかが壊れていた。
気づいたときには、彼は筆を持っていた。
絵画用の細い筆──毛先は繊細で、しなやかに揺れていた。
それを見た瞬間、私の身体はまた、小さく震えた。
「筆……それで……?」
私は声に出せなかった。けれど、彼は何も言わずにうなずいた。
誰も止めない。講師も、生徒たちも──まるで舞台のような静寂の中、彼だけが私に近づいてきた。
「仰向けになってください」
その声に、私は抵抗することなく身体を倒した。
床に背を預け、まるで手術台の上の患者のように、無防備に。
私は両足を広げた。
自分から──恥ずかしい奥を、すべて晒して。
「もっと…見やすくしてください」
彼の一言で、私は自分の膝の裏を両手で抱え、脚をさらに開いた。
羞恥が頂点を越え、思考がどこか遠くで霞んでいた。
まるで自分の中の何かを壊してしまいたくて、自分で自分を突き放すように、私はその格好を選んでいた。
筆の毛先が、私の内腿に触れた。
ほんの一滴の水分を含ませたような、冷たく、でもぞくりとする感触。
毛の一本一本が、まるで「愛撫するためだけに生まれてきた」かのように、私の肌をなぞる。
太もも、膝の内側、下腹部のライン──。
そして、下の毛の生え際を通り越して……筆は、濡れた中心のすぐ外側をなぞった。
「ん……っ」
小さく、声が漏れた。
自分の喉から出たとは思えない、熱のこもった吐息だった。
筆が、小さな蕾のすぐ隣を、かすめるように動いた。
まだ、触れていない。でも、感じる。
クリトリス──その小さな突起は、もうぷっくりと膨らみ、脈打つたびにビクンと動いていた。
それを彼は、まるで観察するように、じっと見つめていた。
「触って…ないのに…もう……」
私は脚の力が抜けそうになりながら、それでも開いたまま、耐えていた。
「ここ、ですよね……」
筆が、そっと、その先端で、蕾の縁をなぞった。
「……あっ……だめ……っ」
全身が跳ねた。
腰が浮きそうになるのを必死で押さえつけて、私は息を殺す。
けれど、もう──我慢がきかなかった。
「は……ぁ……あ……」
筆は、執拗に、小刻みに、クリトリスのすぐ横をくすぐる。
濡れた唇のひだに、毛先がふれては離れ、ふれては離れ、
そのたびに、腰の奥がぎゅうっと疼いて、
もう、頭の中が真っ白だった。
(ああ……もう……そこ、そこだけ……)
心の中で叫んでいた。
「触れて」なんて、声には出せなかった。
でも──体が、それを言っていた。
そのときだった。
筆の先端が、
蕾のど真ん中に、そっと、落ちた。
「──っ!!」
声にならない、快楽の叫びが胸の奥で爆ぜた。
背筋が反り、指先がピンと張り詰めた。
筆は、円を描くように、優しく、でも確実に──そこを愛撫していた。
乳首も、知らぬ間にカチカチに立っていて、服もないまま、私の女の身体はすべての性感帯を露わにしていた。
筆が一度、離れる──そして再び、少し強く、クリを押し上げるように押された。
「あっ──あぁあっ!」
全身が跳ねた。
腰が浮き、太ももが痙攣した。
絶頂だった。
その瞬間、息を止めたまま、私は震えていた。
口が開きっぱなしで、何も言えず、
目を閉じたまま、世界が静かに遠のいていく感覚だけがあった。
目を開けたとき、彼は少し離れたところで、私の姿をスケッチしていた。
彼だけではない。
アトリエの全員が──いつの間にか、筆を取って、私を描いていた。
裸で脚を開いたまま、絶頂の余韻に震えていた私を。
そのとき私は、思った。
これは、ただの羞恥じゃない。
これは、崩れ落ちるようにして辿り着いた──ある種の「浄化」なのだと。
快楽と引き換えに、私はずっと背負っていた「真面目な自分」や「いい妻」「清楚な女」という仮面を──一枚、また一枚と、脱がされていたのかもしれない。
終わって服を着たとき、私は心のどこかが、すっかり軽くなっていた。
まるで風呂あがりのように、素の自分をそのまま取り戻していた。
帰り道、私は空を見上げた。
静かな夕暮れ。肌の下に、まだわずかに熱が残っていた。
──もう一度、やってもいいかもしれない。
そう、思ってしまったことが、何よりも私自身を裏切る言葉だった。
けれど私は、歩きながら、唇の端をほんの少しだけ、笑みにゆるめた。
あの日のアトリエで私が失ったもの。
それは、「隠してきた自分」だった。
そして──
見られることで、私は初めて「本当の女」になれた気がしていた。



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