人妻が堕ちた雨音の夜──禁断の欲望に目覚めた私の告白

夫が、三ヶ月の短期赴任で上海に向かったのは、梅雨のはじまりだった。

「寂しくなったら、電話して」

そう言って出ていった夫の背中は、優しすぎて、時々私を空虚にする。
ひとりで広く感じるリビング。眠るのが遅くなったのは、夜が寂しいからではなく――私自身が、夜を怖れていたのだと思う。

最初に彼とすれ違ったのは、郵便受けの前だった。

「こんにちは」

そう声をかけてきた彼は、目が合うとふっと笑った。
上下グレーのスウェット、濡れた髪、タオルを肩に引っかけていた。
ジム帰りか、あるいはランニングの後か。
年下――二十代前半。私より明らかに若く、でもどこか“男”の匂いを強く纏っていた。

「佐伯さん、ですよね?僕、隣の――」

彼は名乗った。直哉という名だった。

「すみません、前からご挨拶したくて。でも、タイミングがなかなか」

ああ、この若さ特有の自然さが、私はずっと苦手だった。
だからこそ、深く関わらないように、微笑みながらドアを閉めた。

――なのに。

それから数日後の夜、部屋のインターホンが鳴った。
モニターに映ったのは、白Tシャツの直哉だった。

「すみません、上の部屋から水が漏れてるみたいで、もしかしたらそっちも……」

そう言われ、私は警戒心を抑えてドアを開けた。
雨の夜だった。気づけば、彼のシャツは濡れて身体に張り付いていた。

「中、入って確認してもいいですか?」

迷った。でも、彼の声の柔らかさに、私は首を縦に振っていた。


「……水漏れはなさそうですね」

キッチンの下を覗き込んだ彼が、立ち上がるとき。
その動きで、濡れたTシャツの裾から腹筋が一瞬覗いた。

見てしまった。反射だった。
でも、それを彼に気づかれたのか、彼の目がすっと変わったのがわかった。

「沙織さん、今……見ましたよね?」

私はドキッとした。
「……別に、そんなつもりじゃ……」

「でも、見た」

彼が一歩近づいてきた。
声は落ち着いているのに、空気の密度が濃くなる。

「俺、沙織さんみたいな人、ずっとタイプなんです」

「……やめて。私、既婚者だから」

「わかってます。でも、旦那さん、いないんでしょ?今は」

言葉の刃先が、胸の奥に刺さる。
私は身体を引こうとしたのに、彼の指先が頬に触れた瞬間、なぜか足がすくんで動けなかった。

「触らないで」
「じゃあ、やめます」

あっさりと離れた彼が、ドアの前で言った。

「……でも、俺が抱いたら、きっと戻れなくなりますよ」

言い返せなかった。

そのまま、彼は去っていった。


眠れなかった。
雨音とともに、彼の声が何度も頭の中で繰り返された。

「俺が抱いたら、きっと戻れなくなりますよ」

私は、自分の指先で身体を確かめていた。
下着の中が濡れているのを感じたとき、私はもう、ある結末を予感していたのかもしれない。


翌週。再び彼がやって来たとき、私は断れなかった。

「触らないで」と言ったのは、演技だったのか。
「来ないで」と言いながら、心は叫んでいた――来て、と。

私の手を引き、リビングのソファに押し倒した直哉は、まっすぐ私を見ていた。
「怖いですか?」
「……うん」

「でも、やめてほしくないでしょ」

私は、黙って頷いた。


彼の指が、ゆっくりと胸元のボタンを外していく。
呼吸が乱れ、ブラのホックが外された瞬間、冷たい空気と彼の熱が同時に肌に触れた。

「……想像より、ずっと綺麗だ」

耳元で囁かれた瞬間、私は羞恥と快感で震えた。

舌が胸元を這い、乳房をゆっくり吸われる。
「いや……見ないで……」

でも彼は見ていた。
快感に耐えきれず腰を浮かせる私の姿を、じっと。

スカートを捲られ、下着の布越しに触れられる。
すでに湿っていたそこに、彼はキスをした。

「あ……っ、だめ……っ」

そう言っても、身体は正直だった。


彼のものが、私の中に入ってきたとき――

『!』

思わず声を失った。
硬く、太く、奥まで届く異物感に、身体が強く反応した。

「やっぱり……反応、すごいですね」

彼が深く腰を打ち込むたび、私は声を漏らした。
快感が波のように押し寄せてくる。
何度目かの突き上げに、ついに私は絶頂を迎えた。

「もう……だめ、イッてしまうっ……!」

快感の波が引いたあと、私は彼の胸の上で泣いていた。

「こんなはずじゃなかった……」

でも、後悔しているわけじゃなかった。


彼の腕に抱かれながら、私は自分の指で下腹部を撫でていた。
そこには、まだ彼の余韻が残っていた。

罪と悦びの狭間で揺れながら、私はひとつだけ知ってしまった。

拒んでも、私はこの男のものになっていた――

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「明日の朝には、夫が帰ってくるの」

そう言った私に、彼――直哉は笑いもしなかった。ただ、静かに私を見つめていた。

リビングのカーテンはすでに閉じられ、時計の針はもう夜の10時をまわっていた。
白ワインの瓶は空に近く、私の身体は熱を帯びていた。
けれど、その熱はアルコールのせいではない。

「……これで、最後にする」

私は自分に言い聞かせるように言った。
けれど、言葉とは裏腹に、私の指先は、彼のシャツの裾に触れていた。

「ずっと、思ってたんです」

直哉の声は、驚くほど穏やかだった。
「最初にベランダ越しに見たときから、抱きたかった」

「……ひどい言い方」

私は笑った。でもその笑いは、どこか震えていた。
もう戻れない。そんな確信が、身体の奥から込み上げていた。

彼の手が私の頬を撫でる。
そのまま唇が触れたとき、私は目を閉じた。
まるで深く沈むように、柔らかいキスが、次第に熱を帯びていく。

服の上から感じる、彼の胸板の硬さ。
それに触れるたびに、私の奥が濡れていくのが分かる。

「服、脱がせていい?」

「……自分で脱ぐから、見てて」

私は静かに立ち上がり、ゆっくりとワンピースのファスナーを下ろした。
滑り落ちた布地の音が、部屋に響く。
下着姿になった私を、直哉はじっと見つめていた。

羞恥。罪悪感。
でもそのすべてを上塗りするような、身体の疼きがあった。

「今日は……ちゃんと抱きたい」

彼はそう言って、私を抱き上げ、ベッドへ運んだ。
夫としか寝たことのないそのベッドの上で、私は別の男を受け入れようとしていた。

ブラのホックが外され、胸があらわになる。
彼の唇がそこに触れた瞬間、私の身体は大きく震えた。

「やっぱり、今日もすごく濡れてる」

「……言わないで……」

彼の指が、ショーツの中に滑り込み、秘めた部分に触れる。
そこはすでに、とろけるように熱く、柔らかく開いていた。

彼がベッドの縁に腰かけると、私はその膝の上にまたがるようにして跨った。
下着を抜かれ、剥き出しになった私の身体に、彼の熱が押し付けられる。

「……大きいの、怖いくせに」

「違う……もう怖くない。あなたのが……欲しいの」

そう言ったときの自分の声が、まるで他人のように淫らに響いた。

ゆっくりと、彼のものが私の中に入ってくる。
最初は痛み。けれど、それが甘さに変わるのに時間はかからなかった。

「あ……ぁっ……!深い……」

「中で、締めてる。すごい……」

彼の手が私の腰を支え、突き上げるたびに、快感が脊髄を駆け抜けていく。
ベッドが軋む音。汗の混じる肌の匂い。
そして私の中に、何度も何度も彼が深く沈んでくる。

「イきそう……一緒に……」

そう告げる私の声はもう、人妻のそれではなかった。
夫の帰りを待つ女ではなく、欲望に堕ちきった一人の雌として喘いでいた。

「……中に……出して」

自分で言っておきながら、目を逸らす私に、彼は囁いた。

「じゃあ……中で、ちゃんと俺のを受け止めて」

その瞬間、私たちは一緒に果てた。

彼の熱が、私の奥で脈打つのを感じながら、私は声にならない喘ぎを漏らした。

そのまま、彼の胸に顔を埋めながら私は呟いた。

「明日から、私は……妻に戻る」

「そうだね。じゃあ今夜だけは、俺のものだ」

私は、うなずいた。
涙が頬を伝ったのは、快楽のせいか、それとも終わりが見えていたからか。

夜が明ける少し前、彼は帰っていった。

私はひとり、ベッドの上で膝を抱えて座り込んだ。
枕には、まだ彼の匂いが残っていた。

スマホには夫からの「帰国の便、無事着くよ」というメッセージ。

――私は、きっともう、戻れない。

でも、戻るふりをして、今日からまた、“妻”として生きる。

雨が止んだ朝、私はキッチンに立ち、何もなかったようにコーヒーを淹れた。

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