5. 次の日
学校の廊下。
彼女が静かに歩いている。
俺はタイミングを見計らい、そっと折りたたんだ小さな紙を彼女の手に滑り込ませた。
視線が交わる。
彼女は一瞬戸惑いながらも、紙を開く。
そこには、俺のLINEのIDが書かれていた。
俺は何も言わず、その場を離れた。
数分後——
スマホが震える。
「……蓮？」
彼女からの返信。
俺は、小さく笑みを浮かべた。
——ここから、すべてが始まる。
6. 秘密のメッセージ
「昨日のこと、誰にも言ってないわよね？」
送られてきた文字を見て、俺は指先を滑らせた。
「もちろん。誰にも言うわけない。」
既読がすぐにつく。
「なら、いいの。」
それだけの短い返事。
けれど、その文字の奥にある感情の揺らぎを感じ取ることができた。
俺はもう一度打ち込む。
「先生も……あの時間のこと、忘れられない？」
しばらく返信がこない。
授業が始まるチャイムが鳴る。
スマホをしまいながらも、意識の半分は彼女のことを考えていた。
7. 夜の微熱
放課後。
スマホを確認すると、彼女からの返信が届いていた。
「……忘れられるわけ、ない。」
その言葉を見た瞬間、心臓が跳ねる。
迷っているのか、それとも期待しているのか。
どちらにせよ、彼女は俺のメッセージを無視しなかった。
俺は思い切って送る。
「今夜、話せませんか？」
送信。
数分間の沈黙。
そして——
「……いいわ。」
時計を見る。
すでに夜の帳が降りていた。
8. 静寂の中で
待ち合わせ場所は、学校から少し離れた公園。
ベンチに座りながら、夜風を感じていた。
ほどなくして、彼女の姿が現れる。
白いカーディガンに、膝丈のスカート。
清楚でありながら、どこか影を纏った雰囲気。
「……来たのね。」
静かな声。
「先生が来てくれるって言ったから。」
彼女はベンチに座り、少しだけ距離を取る。
けれど、その距離はすぐに縮まる。
俺がそっと手を伸ばし、彼女の指先に触れたから。
「ダメ……。」
かすかに拒むような声。
でも、その手は離れない。
「先生……。」
「……蓮……。」
夜の静寂に、俺たちの声だけが響く。
触れ合う指先の熱。
そして、すべてを飲み込むような甘い沈黙。
この夜、俺たちは禁断の扉を開けてしまった——。
9. 交わる波
彼女の指先が俺の手のひらに絡まり、ゆっくりと動く。
静寂の夜、月明かりの下で俺たちは引き寄せられるように近づいていく。
夜風がそっと髪を揺らし、彼女の香りが微かに鼻をくすぐる。
彼女の瞳は、深い湖のように揺らめきながら俺を映し、ゆっくりと瞬きを繰り返す。
「……蓮……。」
名前を呼ばれるたび、胸の奥が強く波打つ。
彼女の吐息が夜の静けさの中に溶け込み、時間がゆっくりと伸びていく。
遠くで街灯が揺れる。
誰かが通り過ぎる足音が微かに響く。
それなのに、俺たちの世界だけは止まったままだ。
彼女の肩がわずかに揺れ、俺に身を預ける。
まるで波が岸辺へと寄せ、引いていくように、彼女の動きは緩やかで、けれど確かに熱を帯びていた。
「……こんなに……。」
掠れた声。
彼女の呼吸が浅くなり、吐息が夜の冷たい空気を震わせる。
俺の指先がそっと彼女の頬に触れる。
その瞬間、彼女の肩がかすかに跳ね、細く震えた。
「大丈夫……。」
囁くと、彼女は静かに目を閉じた。
触れ合うたびに、俺たちは波のように溶け合い、寄せては返す。
まるで舞うように、まるで踊るように。
彼女の動きが徐々に大きくなり、俺の胸にしなだれかかる。
二人の呼吸が絡まり、鼓動が重なる。
「……熱い……。」
彼女の声が微かに震える。
月光が静かに降り注ぎ、まるで俺たちを包み込むように優しく照らす。
世界がゆっくりと狭まっていく。
遠くの街灯も、車のライトも、夜のざわめきも、すべてが遠のき、俺たちだけがこの時間に囚われている。
「……もっと……。」
彼女の指先が俺の背をそっとなぞる。
「……蓮……。」
彼女の声が震え、俺の胸に吸い込まれる。
まるで波が最高潮に達し、静かに弾けるように——
俺たちは、この夜に完全に溶けていった。
夜の静寂が、俺たちの熱を包み込みながら、ゆっくりと沈んでいく。
まるで穏やかな湖に最後の波紋が広がるように——。
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