【第1幕】濡れた静寂に滑り込む視線の熱
梅雨が終わりきらぬ午後、空は灰色に垂れこめていた。
夫が勤める会社の若い部下・笠原くんを、車で送るだけのはずだった。
社用で使っていた荷物を返しに、私は代理で社に顔を出した。
それだけのつもりだったのに――。
「この近くに、静かなラウンジがあるんです。休んでいきませんか?」
ふいにそう言われ、私は笑ってかわすつもりが、口の中で言葉が溶けた。
なぜ私はついていったのだろう。
そして彼が「ここです」と言ったその場所が、
フロントがやけに無言で鍵を差し出すその空気が、
どこまでも「静かなラウンジ」ではないことを、身体の奥はとっくに察していた。
部屋に入ると、中央にはひときわ目立つ黒い椅子。
背もたれのない、まるで「ひらかせる」ための台座のようなそれ。
私は濡れていた。
そのときすでに、太ももが、下着が、うっすらと。
「座ってください」
命令口調ではないのに、逆らうという選択肢はなかった。
彼は黙って、私の手首に赤いリボンのようなベルトを巻いた。
やわらかく、けれど解けない。
脚を、ゆっくりと左右に開かれたとき、私はもう何も訊かなかった。
「旦那さんがこういう場所に連れてきたこと、ありますか?」
私は首を横に振った。
それが、答えだったのだろう。
彼の指が、下着の上からそっとなぞった。
その一瞬で、息が止まる。
「濡れてる。」
その言葉だけで、私は自分の羞恥を越えていた。
【第2幕】理性と粘膜が交わるとき
彼は私の足元にしゃがみ、椅子の奥からコードを伸ばした。
ふと目をやると、それは肌色に近い、小さな機械。
「奥に、入れますね。」
バイブ――。
わかっていても、言葉にすると現実になる。
彼の指が、下着をずらして、私のなかに静かに沈んでいく。
「熱い……ここ、もう…。」
くぐもった声とともに、柔らかな異物が膣内に収まり、
その瞬間、彼の指が私のクリトリスをふっと撫でた。
ビク、と全身が跳ねる。
拘束されている手が、椅子の端で震え、
脚が逃げようとした瞬間、
振動が始まった。
弱い。
けれど、それが怖い。
波のように細かく揺れるたびに、私は呼吸ができなくなった。
奥が、疼く。
ゆっくり、でも確実に、心まで震えていく。
そして――彼の舌が、唇を塞いだ。
キス。
熱く、長く、まるで味わうように舌を絡めてくる。
唾液のぬめりと、バイブの震え、そして舌の動きが三重奏になって私を侵す。
気づけば、彼の手が拘束を解いていた。
私は引き寄せられ、後ろから抱かれるように座り直される。
椅子の上での後背位。
奥に残った振動と、彼の硬さが私を同時に貫いた。
「だめ……中、振動して……っ」
「いいんです、もっと感じて」
息が、声にならない。
私の中で彼の動きとバイブが溶け合い、
膣壁が、奥が、舌を吸うように彼を求めていた。
【第3幕】疼きに落ちた午後の影
彼が動きを止めたとき、
私はまるで置いていかれた獣のように、喘ぎながら彼の腕にすがっていた。
「もっと、ください…」
羞恥心など、とうに砕けていた。
彼は私を抱き上げ、今度は床に横たえた。
脚を大きく持ち上げ、対面座位のように密着したまま、
彼がゆっくりと腰を落とす。
「奥まで、ください……あぁ…っ」
甘ったるい熱が子宮の奥まで届き、
彼の目を見つめた瞬間、私は絶頂へ導かれた。
貫かれたまま、膣が痙攣し、バイブがまだ奥で震えている。
快楽の果てで、私は彼の名前を呟いた。
静かに、何度も。
汗が滴り、濡れた音が部屋に響く。
愛液と唾液、バイブの熱、彼の匂い。
全てが溶けて、私の中に刻み込まれていく。
すべてが終わったあと、私は椅子に崩れるように腰を落とし、
脚の奥にまだ残る余韻を感じながら、息を吐いた。
そしてふと、彼が呟いた。
「旦那さんが羨ましいです。……この身体を、毎日見られるなんて。」
私は笑った。けれど、心の奥では、
“あの午後の濡れた振動だけが、いまも私の奥で震えている。”


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